2016年2月28日(日曜日)
【インド】 コルカタ
インドに行ったらまた下痢だねー!!期待してるからね!!
って出発前に何回言われたかなー。
ははは、ホント参っちゃうね。いくら僕でもそう何度も下痢になんてなるわけないじゃん?
なんならもう抗体できちゃってますよ。なんせ前回1ヶ月半もの間下痢に苦しみ、しかも後半赤いものまで出てましたからね。
トイレットペーパーを常に持ち歩き、30分おきに草むらに姿を消し、路上しててもだいたい漏らしながら歌ってたという最高すぎる経験をしましたからね。
いくらなんでももうなりませんよ。
そのために今は謎すぎる路上の飯とか、ズタボロの真っ黒な鍋で作ってるようなカレーとか食べないように気をつけているんですから。
笑っちゃいますよね。
いやー、ホントなんでなんだろ。
なんで下痢が止まらないんだろう。
水しか出ない。
なんでだよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
しんどいよおおおおおおおおお!!!!!!!!
はぁ……………体がダルい……………
この汚い独房みたいな安宿の部屋でのたうっていると、どんどんふさぎこんでしまう。
今日は電車のチケットを買いに行かないといけない。
昨日カデルとメールしていたんだけど、生徒たちが待ってるから早く帰ってきてくれと催促されてしまった。
カデルの中では俺は3月いっぱいはアラコナムのカデルの学校に滞在して生徒たちに歌を教えることになっている。
お世話になっているカデルの期待を裏切ることはできない。
本当はカデルには明日戻ると伝えていた。
でもそれではコルカタで活動する時間がほとんどなくなってしまうために、明後日に変更させてもらった。
ここコルカタからチェンナイまでは電車で26時間だ。
明後日に着こうと思ったら明日の電車に乗らなければいけない。
地獄のジェネラルシートならば前もってチケットを買わなくても乗れるだろうけど、26時間もジェネラルったら間違いなく廃人になる。
スリーパーに乗るためにも今日ちゃんとチケットを買わないと。
ダルい体を起こして宿を出た。
けたたましい喧騒の中を、1人でぼんやり歩いた。
町はどこまでも汚く、バラナシのガンジス川が全てを飲み込むスープならば、コルカタはそのスープをひっくり返して鍋で炒めてるような感覚だ。
昨日、バーベキューのスタッフのおじさんに聞いた情報では、フェアリープレイスという場所で電車チケットのブッキングができるとのこと。
そこは外国人観光客が買いに行く場所らしいので、安心して予約することができる。
道端に立っているお巡りさんたちに道を聞きながらフェアリープレイスを目指して歩いた。
パークストリートとは名前の通り公園の横の道だということを初めて知った。
少し歩くとそこにはものすごく広大な公園が広がっており、日曜日の芝生の上にはたくさんの人たちが思い思いに休日を過ごしていた。
とはいってもこの公園の芝生の上すらゴミだらけ。
来た時よりも美しくなんて概念、1ミリも存在しない。
なんならヤギの大群が歩いている。
そんな公園で人々が楽しんでいるのは、だいたいクリケットだ。
インドはイギリスの植民地だったこともあり、クリケットが盛んで、国技と言ってもいいくらい人気がある。
日本人にとっては馴染みが薄いので、思いっきり助走をとってボールをぶん投げて、ワンバウンドしてきたのを幅広のラケットで打ち返すということくらいしかルールがわかんない。
なんか話ではクリケットのトッププレイヤーは、有名サッカー選手よりも稼ぐんだそうだ。
それにしてもフェアリープレイスはどこだろう。
すでに10人くらいに道を尋ねているのに、一向にたどり着かないどころかどんどん変な方向に進んでるような気がする。
2時間が過ぎ、いい加減疲れてきたところでやっと有力な情報を手に入れ、へとへとになってたどり着いたのは、どう見てもインド人しか並んでいない廃墟みたいなオフィス。
絶対ここじゃねぇし………………
でもとりあえずここで買えることは買えるみたいなので、おとなしくインド人たちの列に並んだ。
しかし20分くらいしてもまったく列が進まないので、周りのインド人たちにどうなってるのか尋ねると、とにかく待てと言われる。
頼むよ、あんま時間ねぇのに…………これで明日のチケットが全部売り切れてしまったら明後日にチェンナイに戻れない。
もしそうなったら、カデルとの約束を守るために飛行機に乗るしかない。
勘弁してくれよー!!と焦ってると、1人のオッさんが英語で話しかけてきた。
「兄ちゃん、ここじゃなくてフェアリープレイスに行くんだ。そこならインド人の窓口と外国人用の窓口が分かれてるからすぐ買えるよ。」
「そこどうやって行くんですか!!」
「そこからバスに乗ってハウラっていうところに行くんだ。そしたら目の前にあるから。」
「ありがとうございます!!ダンニャワ!!」
死ぬほどオンボロのバスに猛ダッシュで乗り込んでこの世の終わりみたいな町の中を走り、やってきたのはコルカタのメインステーションだった。
これ地下鉄の構内。汚すぎ………………
そして人に尋ねてやっとこさフェアリープレイスに到着した。
しかしどう見てもインド人しか並んでないのはどうしたことだろう。
どう見ても外国人観光客なんか1人もいない。
とりあえず窓口できいてみた。
「はあ?チェンナイ行き?ここじゃ買えないよ。そこのメインステーションの中で買いな。」
「ちょ!!ここフェアリープレイスじゃないんですか!?」
「フェアリープレイスだよ。でもここじゃ買えないよ。」
押し問答してるといつものように暇なインド人たちが周りに集まってきてワーワー騒ぎ出した。
あああ!!!もう面倒くせぇ!!!
人ゴミを押しのけてメインステーションに入った。
駅の中でも何ヶ所かたらい回しにされながらやっとたどり着いた3階のオフィス。
やっとここで買える………と思って目に飛び込んで来たのは、薄暗いフロアーにひしめくインド人たちの長蛇の列だった。
もう笑いしか出てこない…………
生まれてこのかたカレーしか食べてこなかったですみたいな生粋のインド人たちが列を作り、平然と窓口に割り込みをする奴らに怒号を飛ばし、もうなんかセリ?これ市場のセリ?みたいな状況。
とにかくここで買うしかない!!早く買わないと売り切れてしまう!!と列に加わった。
インド人は列を守らないので有名だ。
少しでも隙間が空いてると、え?カレー好きなの?みたいな顔して割り込んでくる。
なので前の人の背中と胸がくっつくくらいの距離を保っていないといけない。
しかしそれでもあの手この手で割り込んでくる。
これだけ列が出来ているというのに、平然と1番前に行き、横から窓口に手をぶち込んで金を放り投げて行き先を叫んでいる。
それが1人ではなく数人同時なので、1番前の人は頭の横や脇腹、脇の下から伸びてくる手を阻止しながらチケットを買わないといけないというちょっとした戦争。
後ろからは、ちゃんと並べやーー!!という怒号。
知らねぇよボケエエ!!という怒号。
心頭滅却して素数を数えながら前のインド人の背中に胸をくっつけ続けること30分。
いきなりインド人たちが一斉に叫びだした。
なんだ!?と思ったら、俺たちの並んでいる窓口が閉まっている。
よく見てみると、今から30分、お昼休憩に入るらしい。
発狂するインド人たち。
しかし隣の窓口は時間差休憩らしく、開いている。
耐えきれなくなったこっちの列のインド人たちが横の列になだれ込んで割り込みをかけると、つかみ合いの乱闘勃発。
「ウオラアアアアア!!!こっち来んなやああああああ!!!」
「知らねぇよボケエエエエエ!!!!」
お、落ち着け………落ち着いて般若心経を唱えよう………ブッセツマカーハンニャハラミタシンギョウカンジザイボサツギョウジンはああ!!下痢が漏れるううううううう!!!!!
もういやあああああ!!!!
やっと休憩が終わって窓口が再開し、合計1時間半くらいでやっと俺の番になった。
チェンナイに行きたいです!!!!と鬼の形相で叫ぶと、こっちに来いと呼ばれた。
え?なに?なんで別室なの?
列から離れて、なんか個室に呼ばれた。
そうか、これが外国人用の部屋なのか!!
そして奥から出てきた、ちょっとお偉いさんぽい雰囲気のおじさんが目の前に座り、満を持して一言。
「君はフェアリープレイスに行きなさい。」
うおあおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
このコクまろがああああああああああああ!!!!!!!!
なんだったの!??!待ってた時間なんだったの!!!!!!
「あああもう!!!そこ超行きたいんです!!!!一体どこなんですか!!??この世の果てですか!!?」
「ガンジス川の反対側だよ。橋を渡った向こう側。」
「わかりました!!!そこ行きます!!!」
「あー、でも14時で閉まるからもう間に合わないよ。明日だね。残念賞。」
コクまろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!
部屋を飛び出して猛ダッシュ!!!!
まだ14時まで30分ある!!!
大混雑の駅前を走り抜け、ガンジス川にかかる大きな橋の上を駆け抜けていく。
橋を渡りきったところに、人生最強くらいのどスラムが広がっており、あまりの光景に度肝を抜かれながらも思いっきり走った。
バラックの家だったらだいぶ裕福といったレベルのそのスラム。
道端にビニールを斜めにかけただけの家、土を掘ってくぼみを作ってそこに身を潜めている人、道端でチンチン丸出しで寝ているオッさん、
俺は一体どこにいるんだ?
これは映画の中かなにかか?
なにをしてるんだこんなところで?
探し始めてから5時間弱。
そのスラムのすぐ横にようやくフェアリープレイスを見つけた。
それはイースタンレイルウェイという鉄道会社の建物にあるオフィスで、確かに中は外国人観光客の姿があった。
「あと10分で閉まるから早くしろ!!」
警備の人に急かされながらなんかの紙を書き、窓口に突進。
「明日のできるだけ早いやつ!?ならこれしかない!!どうすんだ!?」
さすがに外国人相手の窓口なので、係りの人も話が早い。
すぐに1番早いやつを見つけてくれたんだけど、そのチケットはいわゆる3Aってやつ。
インドの電車はいくつかの等級に分かれており、3Aはまぁまぁ高いチケットだ。エアコン付きの快適なやつ。
他の等級はすべて満席で、この1枚しか残っていないみたい。
もう選択の余地はない。
他の値段がいくらかはわからないけど、1700ルピーでそのチケットを買った。2800円。
明日の14時に出発で、チェンナイ到着は明後日の17時。
それからアラコナムまで電車で2時間なので20時にはカデルの学校に戻れるはずだ。
やっとチケット買えた……………
もう体中、汗と埃でドロドロだ……………
こんなことならサダルストリートのトラベルエージェンシーで200ルピーくらい手数料払って買ってもらったほうがいいわ…………
くたくたになってサダルストリートに戻り、近くのカフェでワイファイを繋ぐ。
たくさんのメールが来ており返信をしていると、その中に昨日路上で仲良くなった兄ちゃんからのメッセージがあった。
インドで路上していると、すぐにフェイスブックの交換をする。
よかったら遊ぼうよ!ということだったので、疲れてるけどオーケーと返事をした。
10分後、待ち合わせ場所にやってきたラグハブのバイクに乗って郊外にある彼の家にやってきた。
かなりの下町エリアにある団地みたいなところで、家に入るとそこにはお母さんがいた。
ラグハブはおもむろにお母さんの足を手でタッチし、そして自分の頭を触った。
何をしたの?と聞くと、リスペクトの行為だよと笑った。
素敵だなと思った。
ラグハブの部屋には他の友達もいて、3人で色々とお喋りをした。
彼らは大学生で、こうした学生たちは本当にネイティヴに近い英語を喋る。
インドでは英語はセカンドラングエッジだからねと言うが、実際は喋れない人がほとんどだ。
こうした英語を喋る教育を受けた人間がいい仕事に就き、この国の経済を牽引している。
ならば10年前から就学率が倍以上に成長しているこのインドはこれからどういう風に変わっていくんだろう。
ラグハブに町まで送ってもらい、今日もギターを持ってパークストリートにやってきた。
レストランバーベキューのおじさんが、今日は来るのが遅かったじゃないか!とすぐにお水を持ってきてくれた。
さらに、今夜はたくさんのお客さんがうちに来て外に行列を作る、だからここで歌ったら稼げるし、うちにとってもいいことだからここでやりな!とお店の前のスペースを確保してくれた。
しかもお店の清掃スタッフさんに言って、地面を掃除までしてくれた。
本当に、このバーベキューのおじさんがいなかったらコルカタがどれほど心細かったかわからない。
インドを出る前に一度はここに食べに来よう。
今夜は日曜日。
バーベキューのおじさんの言った通り、たくさんの綺麗な服を着たお客さんがお店にやってきて、店の外に行列を作っている。
バーベキューはかなりいいレストランでコルカタでは有名なお店だ。
ある程度の富裕層じゃなければ来ることはできない。
表で歌っていると、そうした富裕層のマダムやジェントルマンたちがやってきて大盛り上がりになり、ワオ!!君は日本から来たのかい!?日本なんて遠いところからやってきて我々をハッピーにしてくれている、素晴らしいことだよ!!と言ってくれる。
今日もたくさんの人と写真を撮り、フェイスブックを交換し、名刺をもらう。
このパークストリートに物乞いの子供たちが多いのはこうした富裕層の人たちが多いからだ。
子供連れの家族が風船やおもちゃを路上で買って子供に与えている。
昨日仲良くなったストリートチルドレンたちも日曜日の夜はかきいれどきらしく、頑張って風船を売って回っていた。
「ハイ!!フミ!!」
「フミー!!フルート!!」
「昨日あげただろうが!練習しろよ!!」
「エヘヘヘヘ!!」
女の子のサイン、それに男の子のパジャール、この2人は俺の気持ちを少しはわかってくれているようで、お金をくれとか風船買ってとは言ってこない。
むしろギターケースの中のお金をバッグの中に隠してないと危ないよ!と俺のことを気づかってさえくれる。
しかし、他の子供たちはまだ俺に対してお金ちょうだいーお腹空いてるんだー、と口癖のように言ってくる。
もはや体に染みついているんだろう。
ここでたかが20円くらいをあげて彼らを懐かせることは簡単だ。
でもストリートパフォーマーとしての意地でそれはしたくない。
彼らは決して馬鹿じゃない。
むしろ賢いと思うし、驚いたことに中には学校に言ってる子もいるようだ。
バーベキューのおじさんに彼らは可愛いですと言うと、その通りだよ、彼ら子供は分け隔てなく可愛いと言って、サインの汚れた頭をナデナデしていた。
前回来た時は、彼らストリートチルドレンは邪魔者のように扱われてる存在なのかと思ったけど、実は結構可愛がれてるようだった。
パジャールが大人たちにハグされたり、お腹をつつかれてじゃれている様子を普通に見ることができる。
とても微笑ましい光景。
そんな光景を見ていると、俺はなんのためにこのインドに来たんだろうと思えてくる。
音楽を教えて一緒に路上で稼ぐ?
いやいや、彼らはすでに充分逞しくこの町の路上で稼いでいる。
学校に行けている子もいる。
彼らにとって今1番必要なものはなんだろう。
それは俺が与えられるようなものなんだろうか。
なんだか体の力が抜けていくようだった。
曲を歌い終えると観衆から大きな拍手が起こった。
その中にこのパークストリートでよく見る物乞いのお婆さんがいた。
本来ならお婆さんのショバで稼いでいる俺は煙たがられる存在なのに、お婆さんは笑顔で大きな拍手をしてくれた。
そしてお婆さんに10ルピー札を渡そうとすると、お婆さんは手を振ってそのお金を受け取らずにまた歩きながら物乞いを始めた。
手の中の10ルピー札がとても恥ずかしかった。
今日のあがりは1460ルピー。2400円。
ストリートチルドレンに音楽を教えることは良いことだと思う。
でもそれで一緒に稼ぐってのは、ちょっと違うのかもしれない。
俺にやれる彼らにとってベストなことはなんだろう。
探さないと。
インドはまだまだ始まったばかりだ。