9月14日 日曜日
【韓国】 ガンニュン ~ ウルジン
寝てたら誰かがガザガサと腕を触ってきたので瞬時に跳ね起きたら、おばさんがヒッ!!って言って逃げて行きました。
僕は蚊帳の中からそのおばちゃんを見ます。
なにやら心配そうな顔で向こうから一定の距離を置いて僕のことを見ています。
橋の下で白いものに包まった人間を遺棄された死体かなにかと思ったんですかね。
恐る恐る触ってみたら飛び起きたので、ちょっとしたタチの悪いドッキリ番組みたいですね。
外国ってやり過ぎレベル超えたドッキリ番組ってありますよね。
あれ好きです。
この世のものとは思えないような顔して逃げ惑うおばちゃんとかいるけど、ドッキリをバラすと、やられちゃったなーって顔でニコニコします。
そんな欧米人のノリいいですよね。
日本だったら確実に訴訟ですよ。
韓国のおばちゃんは死体がいきなり動き出すというドッキリにかなり驚いて子犬みたいな顔になっていたので、出来るだけ爽やかにいこうと心がけながら蚊帳のチャックを開けてヨンジュン並みのラブリー笑顔でアニョハセヨー♬と挨拶したら、ものすごい苦笑いして去っていきました。
蚊帳の中から髪ボサボサ、ヒゲ伸び放題の男が出てくるんですからね。
ヨンジュンっていうかただのホームレスですよ。雪の玉をチョップで割ってる場合じゃないですよ。僕の心が割れそうです。
タビジュンのほうは元気かな………
冬のソナタのテーマソングを鼻歌でフンフンいいながら荷物をたたみ、壊れたキャリーバッグを引きずって橋の上へ。
ぬおおお…………バッグが重すぎる………
もはや手で持ち上げたほうが楽ってくらいタイヤが回らなくなっている。
今日からまた移動するってのにやってらんねぇ…………
根性でなんとか町までやってきて、Wi-Fiを繋いで地図を見る。
さてー、今日はどこに行こうかなぁ。
このまま海岸線をひたすら下って行けばどん詰まりがプサンだ。
地図で見る限り道は一本。
途中には町らしい町もない。
ただ海沿いに細い道路が伸びているだけ。
兵庫の日本海側みたいだな。
あひょう!!!!
え…………俺が今いるこの韓国の東側の海、これって日本海なんだ………
す、すげぇ……もうこの海の向こうは日本なのか………
カニ食いてぇ………
カニ食いてぇからヒッチハイクで下るぞおおお!!!!!
と思ったけど、とりあえず町を出て田舎の一本道まで行こうとバスターミナルまでバッグをガリガリ削りながら歩き、ようやくたどり着いた窓口でお姉さんにiPhoneを見せてなんかこの辺の町まで行きたいですと言って、テキトーにバスに乗り込んだ。
4800ウォン、500円。
海沿いの道なのでトンネルだらけのクネクネ道かなぁと思っていたら、日本みたいなバイパスがたくさんある快適な道だった。
あんまり快適なのでだいぶ山の方に入ったあたりで乗り過ごしたことに気づいてバスを降りました。
いやー、ここどこだろうなぁ。
楽しいなぁ。
全然焦らない俺どうかしてるのかなぁ。
道に迷うのって面白いなぁ。
人生に迷うのは超めんどくさいのになぁ。
山の中の小さなバスターミナルの外、アスファルトに座ってぼんやり空を眺める。
ちょうどいい気温の風が柔らかく吹きすぎ、木々の枝葉を揺らしている。
どこに行ったっていいんなら道に迷うこともない。
たどり着いた場所を楽しめばいいんだ。
でもそんな生活ももうすぐ終わる。
道に迷うことのないよう歩いていかないといけない日々が待ってるんだよな。
戻りのバスにタダで乗せてもらえ、サムチョップとかなんとかって町のバスターミナルまでやってきた。
なんだか面白くなってきたので、また地図からテキトーな町を選んでチケットを買ってバスに乗り込む。
次はどんな町だ?
どんな寂しげな気分を味合わせてくれる。
もっともっと知らない場所に連れて行ってくれ。
8000ウォン、800円のバスは海沿いの道を南へ向かって走る。
青い水平線が広がり、ところどころに小さな漁村の屋根が寄り添い、夕日の中で人が動いている。
みんな今から夕ご飯を囲み、テレビを見て笑い、子供たちは学校の宿題をして、大人たちはお酒を飲んで1日を終える。
また明日も同じような1日をこんな何もない遠い田舎で送っている。
俺が日本にいたころから、ずっとここで繰り返されるている。
浜辺に上げられたままのあの小さな船が最後に海に浮かんだのはいつだろう。
もっとたくさん色んな人に会いたいな。
夕暮れが迫る空の下、バスはウルジンという町に着いた。
ターミナルの中には数人のおじさんたちがおり、ガランとした待ち合いスペースにテレビの音が静かに響いている。
誰も俺のことを気にとめる様子もなく、荷物も地面に置いたままでフラッと外に出た。
田舎のターミナル前は外灯がポツポツと光っており、今到着した何人かの人たちがお迎えの車に乗り込んでいくところだった。
ふと昔を思い出す。
秋口から日の入りが早くなり、学校から帰ってきて地元の駅に着くころにはとっぷりと日も沈んでしまう。
そこにお迎えの車がたくさんやってきており、友達たちはみんなそれぞれの親の車へ乗り込んでいく。
俺たちはすぐには帰らずに駅の待合室にたむろしてタバコを吸ったりするわけだけど、ヘッドライトが光り砂利を踏む音がして車がやってくると、じゃあなーと1人また1人と帰っていく。
俺の家はそんなに駅から遠くなかったのでお迎えに来てもらったことはなかった。
いつも帰っていく友達の車を見送っていた。
なんとも寂しいあの夕暮れの時間。
夜が早くなると、みんなどこか足早に家に帰りたくなる。
俺はいつもなかなか帰らなかった。
最後の方まで残って、それから仕方なく家に帰った。
駐輪場にはいつもボロボロの誰にも乗られない自転車が放置されていた。
こんな僻地の小さな町で、ふとあの頃のことを思い出す。
夜が早くなると、誰もが足早に家に帰りたくなる。
暖かい光を求めて。
もっとずっと遊んでいたくて最後まで帰りたくなかった夜。
もうすぐ帰る時間。
食堂でご飯を食べた。
こんだけのセットが6000ウォン。600円。
野菜がたくさんで健康的だ。全部美味しい。
それからコンビニの前でネットの作業をしていたらいつの間にか、ターミナルの前にたくさん止まっていたタクシーたちもみんなどこかに行ってしまい、ガランと静まり返っていた。
時間は夜中の1時。
そろそろ俺もどっか行かなきゃ。
行く場所なんてないのに、いつまでもここにいたらいけない気がして荷物をかついで歩いた。
どこまでも歩いた。外灯が途切れるまで行こうと、ぼんやりと光るアスファルトをひたすらに。
キャリーバッグはもはや完璧に壊れており、タイヤが回らなくて尋常じゃない重さだ。
ずっとそんなバッグを引きずっているので左腕が少し筋肉痛になっている。
真夜中の静寂。
車がまったく通らない、世界から取り残されたような夜の底を這いずる。
壊れかけた外灯がパッパッと光って、1人ぼっちの影にフラッシュライトをたく。
汗がにじみ、はぁはぁと吐息をつく。
次第に荷物の重みで肩の感覚がなくなっていく。
車が来ないので道の真ん中を歩いた。
とても神聖な気持ちがした。
ゆうべ懐かしい夢を見た
子供の頃から見てる夢
どうして今更になって
こんなに心を乱される
夢はまだ消えない
道はまだ果てない
風はまだやまない
あの日のように
ふと目を覚ましては
今いるここが
どこだったか
わからなくなる時があるよ
いつか見たことのあるような
見覚えのある景色の中
寂しさを慰めるような通り雨
逃げ込んだセブンイレブンの
軒下から見上げた空に
もう一度やれるような気がする
あの頃のやつらは今も同じ場所で
何も変わらずに待ち続けてる
取り残されないようにするには
自分から1人になればいいと気づいた
雨はまだやまない
地図はまだ破れない
恋はまだ色褪せぬ
あの日のように
読みかけのままで
なくした
あの小説の
終わり方を誰が知っている
逃げ出したくなる時もある
立ち上がれなくなる夜も
こらえきれず流した涙は通り雨
優しかったあいつの顔を
思い出すたびに揺れては
舞い上がる言葉の頼りなさ見つけてみたい
4時ころに月明かりに照らされた砂浜を見つけてその上に寝転がった。
キラキラと夜の海が光っていた。
冷たい砂が心地よかった。