8月14日 木曜日
【中国】 シェンチェン ~ リタン
山本社長、ご無沙汰しております。お元気にしておりますか?
会社のみんなも変わらず楽しくお仕事しているでしょうか。
お怪我などしていないでしょうか。
僕が宮崎で鳶職のアルバイトをした時、山本社長は協力会社の社長としてうちの会社と仕事をしていました。
暴走族あがり、ヤクザあがりの人たちが当たり前の鳶業界に入って、俺はなんて恐ろしいとこにアルバイトに来てしまったんだと怯えていました。
みんな刺青が入ってるし、乗ってる車が暴走族だし、乱暴にもほどがあるし、とにかくまだ19歳だった僕からしたらただのヤクザ映画の世界でした。
そんな荒くれ者たちの中で何もわからずにひたすら殺すぞコラァ!!って怒鳴られ続けながら鉄パイプを運ぶ日々に、もう嫌だって泣きそうになっていました。
日本一周のためにお金を貯めて早くこんなとこからおさらばしてやるって思いながら、無心で鉄パイプを運んでました。
その日も怖すぎる先輩たちに罵声を浴びせられながら現場の中を駆けずり回っていました。
力こそ全て、みたいな上下関係の恐ろしいヤクザたちの中で僕みたいなペーペーは休憩時間のコーヒーを買いに行く使いパシリでしかなかったです。
そんな時、周りの鬼みたいな先輩たちがみんな1人のベテランさんに最大の敬語を使っているのを見ました。
あの怖すぎる先輩たちがみんなそのベテランさんには腰が低かったです。
その人は小柄で、柔らかい空気を持った人で、ああきっとこういう穏やかそうな人ほど怒らせたらヤバイんだろうなって思いました。
僕なんて口もきけないような方なんだろうなって、ビビっていました。
その日のお昼時間、僕はお金がなくて工事現場でお弁当も買えずに先輩たちがご飯を食べてる横で1人で我慢していました。
その時、そのベテランさんが僕のところに来て、お前なんで飯食ってないんだ、と聞いてきました。
僕がお金がないから我慢しますと言うと、それまで穏やかな口調だったその人はいきなり僕の先輩に凄まじい勢いでキレました。
お前自分の後輩が飯食ってねぇのに自分だけ食うってどういうつもりだぁ!!!
いつもは鬼のような先輩は慌てふためいて僕にお金をくれ、すぐに弁当を買いに走らせました。
そして1日の終わりにベテランさんは僕に頑張れよって言ってくれました。
あの日からずっと、山本社長は僕に目をかけてくださってくれました。
作業着を何着も譲ってくれたり、仕事帰りにご飯に連れていってくれたり、もちろん仕事も丁寧に教えてくださいました。
でも飲みに連れて行ってくださるときは結構怖かったです。
たまに宮崎の本気で怖い方々との飲みの席に同席させてもらった時は、何を喋ればいいかもわからず、ひたすらお酒を作ることのみに集中していました。
あれは生きた心地がしなかったものです。
そんな日々の中、少しずつ仕事を覚え、先輩にも可愛がってもらい、ヤンキーばかりだったけど友達もできました。
僕が今度ライブをやりますと言うと、そんな怖い方々も見に来てくれたりしました。
ようやく会社に居場所ができ、仕事にも慣れてきたころに、僕は会社を辞めました。
お金が貯まって旅に出る準備が整ったからです。
仕事一筋の職人気質の人たちからしたら、音楽と旅をするために鳶をやっていた僕を毛嫌いしていた先輩もいました。
日本一周なんてバカなことできるわけねぇだろと周りの先輩に言われ続けました。
僕もこんな途方もない道のり、本当に周れるだろうかとすごく不安でした。
でも山本社長はいつも僕のことを応援してくれました。
あれから4年かけて日本一周を終え、その後も日本中のライブハウスで歌を歌い続けました。
そして今僕は最後の挑戦をしています。
やると決めたことは必ずやり遂げる。
キツイから諦めるってのだけは絶対にしない。
鳶の時に鉄パイプを運びながらいつも歯を食いしばりました。
どんな罵声を浴びせられようが、殴れようが、絶対負けないと言い聞かせました。
今、僕はチベットにいます。
シェンチェンという町からリタンという町までの8時間のドライブをしています。
あの鳶のころに比べたら山奥の未舗装のガタガタ道も、3000mを超える高地の空気の薄さも、下痢による体調の悪さもなんてことないです。
根性さえあればたいていのことは乗り越えられます。
80元、1300円のミニバンでリタンに到着し、すぐに次の町、ガンズに向かうミニバンを手配しました。
120元、2千円です。
手持ちのお金はあと2万5千円というところです。
これから数日かけてチベットを駆け抜け、成都から香港へと向かいます。
お金はかなりヤバイです。
香港から台湾への飛行機チケットはありますが、台湾から出国するための飛行機チケットがなければいけないという情報が入り、はっきりいって絶望的状況です。
そもそも香港までたどり着けるかもわかりません。電車代がいくらかかるか、想像もつかないです。
でも、根性があれば乗り切れると信じます。
諦めなかったら必ず道は開けると信じています。
日本一周に旅立つ直前に山本社長と飲みに行った時、社長がカラオケで歌ってくれた河島英五の野風僧、覚えています。
いいか、男は生意気くらいがちょうといい
いいか、男は大きな夢を持て
僕なりに描いた大きな夢、もう少しで終わります。
必ずやり切って帰ります。
キツイから諦めるは絶対になしです。
山本社長、どうかお怪我のないよう、お仕事頑張って下さい。