7月14日 月曜日
【インド】 ニューデリー
…………ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ暑いいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
うおらぁ!!暑いんだよこのバカ!!
ベッドから飛び起きて服投げ散らかしてソッコー水シャワー。
うおおお!!気持ちいいいい!!!
インドでホットシャワー必要とか言ってるやつ出てこいやー!!
ああ……エアコン欲しい………
さー、今日はインド最初の路上をかますぞー。
もしかしたら逆にスーパー稼げるかも!!
カレー投げつけられる逆に!!
いや、マジで2千円くらいは欲しいなぁ………
宿が300円、飯がだいたい100円ちょい、コーラが70円くらい、水が25円くらい、タバコが80円、ビールが500mlの缶で120円てとこ。
まぁ節約しても1日に1000円はかかる。
話ではここニューデリーからバラナシまでは20時間ほどの電車移動で、値段は1000円しないくらいだそう。
移動費はめちゃくちゃ安いみたい。
あんまりデカく稼げなくてもいい。
2千円あれば少しずつ貯蓄できる。
カレー投げつけられるか、稼げるか。
さっきトイレでマジで久しぶりに固形のウンコが出た。
やっと、やっとお腹が治った。
ラオスから長かった………
これで体調も万全。
インド、勝負だ。
宿を出るとそこは目を疑うような雑踏。
まるで映画の中に飛び込んだかのような錯覚に陥るほどのカオスが広がっている。
そこらへんで寝ている人たちをよけながら走るトゥクトゥク。
家の床とゴミだらけの道路の境い目がほとんどなくて、地面も彼らには家の一部みたいなもんだ。
あまりにも自分が今まで暮らしてきた世界とかけ離れすぎていて、これも同じ人間なのか?と頭が混乱してくる。
まだにわかには受け入れられないでいる。この人間の生の自由さを。
だってこのメインバザールの中にいる人たち、多分かなりの人がホームレス。
いや、なんていうんだろ、家があるけどホームレスっていうか、この町自体が家というか、地面も、電信柱も、水道も、全てが生き物のようにここに住む人たちを飲み込んでいる。
人々はその中でなんの垣根もなしに寝起きしている。
人生ってのは本当に自由だと、目の前の人々を見ていて思わされる。
そんな凄まじい光景の中を歩き、15分ほどでやってきたのはコンノートプレイスという場所。
大きな円を描いたこの場所には真ん中に公園があり、それを囲うようにたくさんのお店が並び、ニューデリーの街の中心にあるショッピングエリアになっている。
そしてこのお店ってのがメインバザールにあるような明治時代みたいなものではなく、高級なブランド店ばかり。
マクドナルドやスターバックスがあり、歩いている人たちもみんな比較的綺麗でいい服を着ている。
それぞれのお店に警備員が立っており、治安も良さそうだ。
野良犬は相変わらずめちゃくちゃ多いけど。
ひととおりグルリと円を歩き回ってみた。
どこも同じような雰囲気で、どこで歌っても良さそうな感じ。
路上の物売りたちも多いけど、インドだから細かいことは気にしないでいいと思う。
そんな中で物乞いのおばちゃんがいるのは少し面倒くさそうだ。
バッタみたいに手足の細いおばさんが柱のところにもたれて、綺麗な服を着た人が通りかがると、鬼のような形相で何かをわめきながらその通行人の肩をガシッと掴んで力ずくで足を止めさせてお金を要求している。
物乞いのレベルが半端じゃねぇ。
さらに俺がコーラのペットボトルを持って歩いていたんだけど、小さな子供の物乞いたちが寄ってきてコーラをくれと言ってくる。
金をくれ、ではなく、飲みかけのコーラをくれという彼らの手にはマクドナルドのポテトが握られていた。
これももらったものだろう。
別にそんなに害はないからいいんだけど、もし彼らの目の前でそれなりに稼いでしまった時に、あがり泥棒をされないかが心配。
今までも、歌ってる時にギターケースの中のお金をサッと取って逃げて行くという盗難は何度もあった。
あれはなかなか精神的なダメージがでかい。
こんなアグレッシブな物乞いたちの中で歌って何もないとは思えないけど………やるしかないからなぁ。
とにかく、やってみなきゃわかんねぇ。
所持金4千円、2週間でコルカタまで行かないといけない。
稼げなければカレー屋確定だ。
やってやれこの野郎!!!!
とりあえず人だかりすごすぎ。
もうギター出して準備してる段階で50人くらい集まる。
そして演奏を開始。
なかなかお金が入らない。
そう簡単には入らないよな、と思っていたら1人の若者が頑張って!!と20ルピー札を入れてくれた。
そこから怒涛のごとくルピーが舞った。
10ルピー札はもちろん、50ルピー札、100ルピー札も平気で入る。
う、嘘だろこれ、インドマジか!!?
普通こういう人だかりができる国って、たいがいの人が写真撮って去っていくってのがお決まりのパターン。
それがどうだ、このインドの人々は。
足を止めて聞いてくれた人のほとんどが、まず間違いなくお金を入れてくれる。
この地球上で最も貧困レベルの高い国と言ってもいいインドでのまさかの展開にテンションが上がりまくり、ギターを弾く手と歌う声に気合いが入りまくる。
絶え間無く入り続けるお金。
絶え間無く歩道を埋め尽くす人だかり。
す、すげぇ!!
このままいくらでも歌いたいところなんだけど、インドの気温は普通で35℃オーバー。多分今日は40℃近い。
この時期はインド人でも嫌がるほど暑い季節らしく、歌っているとマジで頭がクラクラしてくる。
1曲ごとに汗がギターに水たまりを作るほど。
マジで熱中症になる。
連続で歌うのは1時間が限界だ。
休憩しますー!と言うと、ちょうど見計らったように警察がやってきた。
ここでは歌ったらダメだよと言い、そして集まっていた人たちを追い払ってしまった。
すぐに荷物をまとめていると、聞いてくれていた人たちが周りにワラワラと集まってきて、持ってやるよ!!とか、あそで休めるから!!と何かと世話を焼いてくれる。
この世話焼きな感じもなんだか懐かしいな。
英語ペラペラでずっと歌を聴いてくれていた兄ちゃんと一緒に、日陰に座った。
「ヘイメーン、最高だぜ。こんなとこでストリートパフォーマンスなんて初めて見たぜ。」
彼の名前はスマント。
俺が歌っていた間もほとんどの曲を一緒に口ずさんでいたのでかなり音楽好きなやつなんだろう。
ちょっと待ってなと言って、向こうの方からレモネードを買ってきてくれた。
喉にいいからねと言って。
「警察に止められてしまうなぁ。」
「ヘイヘイー、気にすることないぜ。この国の人間はみんなエンターテイメントが好きなんだ。楽しみたいのさ。その証拠にみんなお金を置いていただろう?警察だって楽しんでる。ただあまりにも人が増えすぎると道をふさいでしまうから良くないのさ。それだけだよ。1時間やって場所移動してまたそこで1時間って感じで歌えばなんの問題もないさ。」
「ハーイ!!さっきのボブマーリー最高にクールだったよ!!俺たちもロックバンドやってるんだ!!ありがとう!!」
日陰で休憩していると、歌を聴いてくれた人がどんどん集まってきて話しかけてくる。
当たり前だけどインドにもバンド音楽はあり、当たり前だけどインドにもロックミュージックはあるみたいだ。
あまりに暑くて体力の消耗は激しいがもういっちょいくぞ。
スマントと一緒にショッピングサークルを歩き、少し広めのスペースがあるところに場所を決めた。
準備をしてる段階ですでに半端じゃない人だかり。
うおー、気合い入るぞ!!
もう、えらいことになった。
人だかりすげすぎ。
お金舞いすぎ。
カレー食べすぎ。
飲み物や食べ物の差し入れもやってくる。
そして驚いたのが、写真を俺と撮りたいという時、行儀の悪い国、特に中国人とかは何にも言わずに歌ってる俺の横に来てポーズを決めて大騒ぎして写真を撮り、何も言わずにもちろんお金も入れずに去っていくというパターンなんだけど、インド人は違う。
歌が終わるまで待ち、一緒に撮ってもいい?とたずねてくれ、そして撮った後は必ずお金を入れてくれる。
心配していた物乞いもまったくやってこないし、周りの露店の人たちもニコニコしながら見ている。
なんだこれ?インドなんだよこれ?
誰だよ、インドは稼げないって言った人。
インド人嘘しかつかないってなんだそれ?
のほほんと観光客づらで歩いている時にフレンドリーに話しかけてくるインド人ってのは、もうまず100%金目当てで騙そうと思ってるやつら。
そして普通に観光旅行をしてたらそんなやつとしか交流しないよな。
そりゃインドのイメージ最悪になるわ。
そういう国はどこにでもある。
観光客は地元の人とはほぼ触れ合えない。
アジアはいい例だった。俺もほとんど地元の人と友達になれなかった。
でもどこでもそうだけど、路上で演奏した瞬間に、彼らの中で俺は観光客というジャンルから外れる。
その時の彼らの態度の変貌ぶりってのがいつも最高に嬉しい。
本当に心を開いてくれる。
嘘のない言葉を聞くことができる。
音楽ってマジですげえとアホみたいに思える瞬間。
しかしまさか、インドでここまでの歓待を受けられるなんて。
インド人って音楽でもダンスでもなんでも、アートや娯楽に対するリスペクトってのが半端じゃない。
インドにはストリートカルチャーってのがないからね、とスマントは言うけれど、いやいや、人々の中には楽しんだらお金を入れるっていうアートカルチャーの根源がしっかり備わっているよ。
感動しながらも、あまりの暑さにマジで死にそうになってきてまた1時間で終了。
日陰に移動してスマントが買ってきてくれた水をラッパ飲みする。
暑い……マジでやばい………
ちょっと寒気がして腕に鳥肌が立つ。
やべぇ、これ熱中症の初期症状だよ………
インドは稼げる。もうわかった。
ただインドでは長時間やったらいけないっては鉄則だな………
「さぁフミ、これから何する?俺は夜まで時間あるけど。」
「んー、そうだな。このあたりの有名な観光地って何?」
「観光地か、んー、デリーはあんまりないんだよなぁ。……あ、あそこは行った方がいいね。」
スマントと2人だったのにいつの間にかもう1人知らない兄ちゃんがくっついてきたけど、まぁ気にせず3人でトゥクトゥクに乗りこむ。
インドの中枢機関が集中する官庁街の中を走って行くと、森の向こうに巨大な建造物が見えた。
トゥクトゥクは50ルピー、90円でデリーの名所、インド門に到着した。
すげぇ!でけえ!!
フランスの凱旋門を彷彿とさせる巨大な石の門で、周りには綺麗に整備された公園が広がりものすごくたくさんの観光客たちが夕方の時間を楽しんでいた。
さて、これは何をしてるところでしょう。
門をつまみ上げる感じに撮るのが流行りみたいです。
外国人観光客ばかりなのかと思ったら、意外にもほとんどがインド人観光客。
インド国内からの旅行者たちが集まっているんだろうな。
東南アジアの観光地ではこんな光景ほぼなかった。
観光地といえば欧米人と中国人が闊歩し、そして町も彼らに楽しんでもらうためにけばけばしい観光地仕様となっていた。
別にそれが悪くはないが、面白みはまったくなかった。
それに比べてインドのこの媚びなさ。
インドのでかさ。
全てを受け止める懐のでかさ。
インドは偉大だ。
そんなインド門の周りの芝生の上に座って3人でギターを弾いた。
スマントは音楽好きなだけあって結構ギターが弾ける。
なにかヒンドゥーの歌うたってよと言うと、照れ臭そうに爪弾いてくれた。
その怪しげで、ノスタルジックで、妖艶なメロディがこの夕暮れの時間によく合った。
そしてギターを弾いていると本当すぐにいろいろ集まってくる。
まずは兄ちゃんたちはすぐ来るよね。何してんのー?みたいな感じで。
今度は野良犬もやってきた。ギターが心地いいのかな。
サドゥーも来ちゃったよね。インドあるある♫
ぬおう!!!サドゥー来ちゃった!!
こんちはー。
何か一生懸命話しかけてくるサドゥー。
ご存知の人はご存知のはず。
サドゥーとはヒンドゥー教の教徒で、酒、肉、女、金、全ての俗世の誘惑を捨て人からの貢ぎ物のみで生き、祈りのみのため人生を送る現代のマジ仙人。
まさかこんなに早く会えるとは。
目の前でサドゥーが何かをしゃべっている。
黒い肌は何年も洗ってなさそうで、口から覗く歯はほとんどない。
服ってなんですか?みたいな布切れを体に巻いており、首に何かの紐をかけている。
目が飛んでる。
もう全てにおいて人間としてのレベルが違う次元に行ってしまっている。
こ、これ、同じ人間なのか………?
人間ってどこまでいけるんだよ………
しばらくしてサドゥーはまたフラフラと幽鬼のごとく夕焼けの中を歩いていったけど、あまりの衝撃に呆然としていた。
「……いやー、スマント……人間ってすごいね………こいつはすごいわ……今までの常識がぶっ飛ぶよ。」
「まぁ、インドは確かにすごい国だよ。でもさ、フミは今日たくさんの人に笑顔を与えていただろ。みんな笑顔だった。そしてみんな死んだ後のことなんて知らない。どうなるかなんて誰も知らないよ。今日の笑顔が1番大事なことなんだ。だからフミは素晴らしいことをやってるんだよ。」
この野郎スマント、なんてシンプルで素敵なこと言いやがるんだ。
インド人なんて謎に包まれているように見えるけど、きっとこのスマントみたいに愛や平和に満ちた、どこにでもいる普通の心の持ち主たちなんだろうな。
「ほらフミ、せっかくだからそこで歌いなよ。問題ナシだぜ!」
「マジかよ………よーし!やってみるか!!」
インド門のど真ん前でギターを鳴らした。
それからも3人で色んな話をしながら色んなところへ行った。
インドで有名な軽食屋台では、カレーとヨーグルトのソースをコロッケにぶっかけたようなやつを3人で分け合って食べ、次はピンポン玉くらいのパリッとしたお菓子をバケツの中にぶち込んで謎の液体をすくって一気に口に入れるという食べ物。
たいがいの物は食べられる俺だけどこいつは無理だった。
あまりにも独特な味で。腐ったみたいな、発酵したような臭いなんだもん。
うげぇ、という顔をする俺を見て爆笑しているスマントともう1人の兄ちゃん。
それからさらに酒屋さんに行き、ビールを買って暗がりで乾杯した。
別にインド人は酒が禁止されているわけではない。
ただ禁酒の月とかはあるらしくて、その間は飲むことはできないみたい。
イスラムみたいにがんじがらめって国民性ではないんだね。牛はそこらへんにおるけど。
「スマント、スマントに会えて嬉しいよ。インドでこんなに色んな話ができる奴と会えて本当に嬉しい。」
「それはフミがそうさせてるのさ。いい心にはいい心が寄ってくるんだぜ。」
そしてスマントはさっき歌ったヒンドゥーの曲の歌詞の意味を教えてくれた。
旅をしよう
どこまでもいこう
だってこの世界はとても美しい
花はどこにも咲いているし
風はいつでも吹いている
だから旅をしよう
スマントを駅まで送り、ブローと言ってハグをして別れた。
最後までただの頭のいいナイスガイだったスマント。
じんわりと胸が暖かい。
のだが、もう1人の兄ちゃんがさっきからずっといろいろとたかってくる。
タバコくれってのはまぁいい。
あそこでちょっとチャイを1杯飲もうとか、バスに乗るとき平然と自分の分を払わせたり。
なんか口ではいいことばかり言ってるけどあまり気分はよくない。
まぁ1日一緒にいていろいろ話も聞かせてもらったし別にいいかと思いながらメインバザールに戻って来た。
そして別れ際に兄ちゃんはお金ないから100ルピー貸してと言ってきた。
はぁ………
いや、別にいいよ、たったの170円くらいだよ。
でもそれやったら今日の友情がどうなるかなんて考えてないのかな。
そもそも友情なんて始めからないか?
明日返す、必ず明日返すからと言っているが、返ってくるのは期待しないで100ルピーを渡した。
今日はだいぶ稼がせてもらったし、たくさんの人にお世話になった。
スマントとの出会いに比べたら100ルピーなんて安いもんだ。
その兄ちゃんにサッサと渡して振り返らずに宿に戻った。
部屋に入ってすぐに服を脱ぎ捨てて水シャワーを浴びた。
火照った体を冷ましてくれる。
インドで歌うのはかなりきつい。
でも稼げることはわかった。
かなりエネルギーを使うので、体調を崩さないようにしないとな。
濡れた体のままパンツをはいてベッドに倒れた。
疲れた…………
あまりに疲れすぎてすぐに気絶………
と言いたいところなのに眠れない。
部屋のファンが風を起こしているが、ただの熱風でしかなくなかなか寝つくことができない。
ああ……インド、やっぱりタフだな………
あがりは2時間で2470ルピー。41ドル。
この時はまだここから数日間、地獄が続くとは思ってもいなかった。