後編スタートです
「おい、いつまでもここにいても何も変わらんぞ。」
「はい…………その鼻ヒゲ、ゲキシブっすね………」
痛恨のミスをおかしてしまい、アライバルビザカウンターでカレーみたいな顔をしている俺。
マジでどうしよう…………
もしかしたら本気で追い返されるかもしれない………
そうなったらインドから中国へ飛ぶはずだった飛行機も無駄になっちまう。
ああああ………終わったああああ………
「ん?お前それなんだ?ギターか?」
「おい!こいつギター持ってるぞ?!」
「なんだと!!ギターだと!!こっちこい!!」
「中に入れ!!ホラ!!なんか歌ってくれ!!!」
いきなり大盛り上がりになり、わけもわからずカウンターの中に入れられて、審査官たちとライブスタート。
いや、いかんやろ?こんなカウンターの中とか入ったら。
「いやっほう!!なかなかいいじゃねぇか!!」
「どれ!!俺にも弾かせてくれ!!」
ワイワイ騒いでいるとどこからか他の審査官や、銃を持ったセキュリティのアーミーや、スチュワーデスさんとかいろんな人が集まってきた。
みんな超笑顔。
鼻ヒゲも、眉間の赤い点も、ターバンも、みんなニッコニコ。
ヤベェインド。
やっぱりインドだ。
「ヤッホウ!!楽しかったぜ!!ハイ!!60ドルちょうだい。」
申請代の60ドルを渡すと、ろくに書類に記入していないのにビザを出してくれた。
「インドを楽しんで!!」
「エンジョイだぜー!!」
そこから空港の出口までほぼチェックなし。
審査官たちみんなが笑顔で肩を叩いてきたり、こいつギター弾くんだぜ!!と話のネタになり、超フレンドリー。
…………やっぱりインドだ。
展開が荒すぎる(´Д` )
こいつは楽しくなる予感しかしねぇ。うっとおしいだろうけど………
レートがクソ悪い換金屋で25ドル分、インドルピーに換金。
レートは60ルピーが1ドルくらいなので1500ルピーくらいゲットできるはずが1000ルピーしかくれないというカレー野郎。
空港の外に出た瞬間、マジでビビるくらいの気温だった。
う、嘘だろこれ……?
東南アジアもたいがい暑かったけど、比べものにならない暑さ。
こんな中で路上やっていくのか………
頑張ろ……………
メインバザールー、メインバザールに行きたいですーとそこらへんの人に聞きながらテキトーにバスに乗ってやってきたのは謎の駅。
どこかまったくわからん。
そしてナイスタイミングで土砂降り雨が降ってきて、道はどんどん冠水して泥水まみれの川みたいになった。
慌てて走り、濡れながら駅の中に飛び込んだ。
★インドあるある No.1
【人多すぎ】
なんていうか、
人多すぎ。
祭り会場。
うっじゃうじゃ。
でかい荷物を持って歩いていたらガンガンぶつかってきてバッグを蹴り飛ばされてギターにもタックルしてくる。
忙しすぎる。
★インドあるある No.2
【すぐ床に座る】
おい、こんな大混雑している足もとで普通に寝るな。
端に座ってくれ。
気づかないで膝蹴り食らわしそうになる。
★インドあるある No.3
【割り込みをする】
とにかくメインバザールまでのチケットを買おうとチケット窓口に並んだんだけど、人が多すぎてなかなか先に進まない、と思ったらカレーどもがどんどん割り込みをしていた。
きちんと列を守る人3割。
割り込む人7割。
一生チケット買えない。
みんなが並んでいるのに、横からやってきて平然と窓口に向かい、金を握りしめた手をカウンターの中に突っ込む。そしてわめいている。
それを何人もが同時にやっているので1番前の人は押しつぶされそうになっている。
お前並べやコラぁ!!
うるせぇ知らねぇよアホ!!!
と耳元で怒鳴っています。
やっと俺の番がきたんだけど、窓口の人にメインバザールまで行きたいです!!と話している間も、俺の肩や首やワキの下から腕が伸びてきてチケットを買おうとしています。
チケットごときで殺し合いみたいです。
もうあれです。
爆笑です。
なんかもうイライラを通り越して爆笑。
そしてインドは攻撃の手をゆるめない!!!
もう雨がひどいし、電車を乗り継ぐのがとても大変そうなので、トゥクトゥクで行くことに。
駅の外を歩いているとすぐにオッさんたちが話しかけてきます。
「コンニチハー!!ゲンキ!?トゥクトゥクノル?どこ行く?」
「メインバザールまで行きたいです。」
「宿はもう取ってるの?」
「とってます。そこまで行きたいです。これが住所です。」
「なるほどねー。リッスン。君は観光客だからまずツーリストオフィスに行ってツーリストパーミッションを取らないといけない。パーミッションがないと宿に泊まることができないんだ。」
★インドあるある No.4
【謎の嘘をついてくる】
「え?ツーリストパーミッション?」
「そうだ。それがないと宿に泊まれないし、トゥクトゥクとかにも乗れないんだ。だからツーリストオフィスにまず行ってそこでパーミッションを取らないといけないんだ、分かった?」
「分からないです。そんなことあるはずないでしょ?観光客全員が行ってたら大変なことになりま……」
「リーッスン!!リッスンだ!!お前はツーリストだ!!パーミッションがないと次の町にも移動できないし、食堂も利用できない!!だからパーミッションを取りに行くんだ!!それからメインバザールまで行けばいい!!」
インド人、押しが半端じゃねぇ。
早口に英語をまくしたててくる。
気弱な人なら流されてしまうだろうな。
ていうかこんな猿みたいな嘘をよくこんな真顔で言えるなこのバーモントは。
「う、うう……わかりました………僕インドのこと何もわからないのでパーミッション取りに行きたいです……教えてくれてありがとうございます………」
「わかればいいんだよ。俺は君にインドを楽しんでもらいたいんだ。それだけなんだよ。さ、じゃあツーリストオフィスに向かおうか。パーミッションは無料で簡単に取れるから心配しないで。」
そして連れて来られたのは結構立派なトラベルエージェンシーの建物。
もっといかがわしいボロビルかと思ったんだけどそうでもない。
中に入り、小さな個室に連れて行かれる。
なるほど、これはなかなか閉塞感があるね。
「あ、どうもー、元気?日本のどこから来たの?いやー、はじめましてー。」
流暢どころかほぼネイティブの日本語を喋るインド人登場。
名古屋に住んでたらしい。
「あ、あの、パーミッションを……ください……僕ホテルに泊まりたいです……」
「デリーの次はどこ行くの?何日インドにいるの?2週間ね、それだったらまずデリーは1泊でいいよ。明日アーグラ行ってタージマハル見るじゃん。それからカジュラホだね。これは行った方がいい。そんでバラナシで5日くらいいてブッダガヤで1泊したらコルカタに29日に着けるよ。」
早口に一生懸命、旅程を組もうとしてくれるジャワカレー。
隣の個室の中から別のツーリストの声が聞こえてくる。
ヨーロピアンのカップルらしく、インド人にだいぶ攻められて言い返せないでいる。
たったの900ユーロでここまで全部込み込みだから!!みたいなことを言っている。
★インドあるある No.5
【高額のツアーを組ませようとする】
俺に一生懸命日程の説明や、移動手段を話しているジャワ。
そろそろいいかな。
「えーっとね、ここからここまでは電車でいいよ。でもここはバンがいいかな!!あ、あと宿はどうする?全部取っといた方がいいよ!!」
「あ………あの………すごくいい日程だと思います……ぼ、僕インドのこと何も………知らないから……でも……僕お金ないんです………」
「あー、全然大丈夫だよ!!ここの2階に銀行あるから!!」
「で、でも僕……クレジットカードを………持ってません………」
「そうなんだ!!じゃあ今持ってる分でツアー組んであげるね!!いくら持ってるの!?」
「30ドルです。」
「…………………またまたぁ!!冗談はやめてよー!!それでどうやって日本に帰るの?」
「歌って稼ぎます……だから早く歌いに行かないといけないからパーミッションをください………」
「ちょっと待ってて。」
外に出て行ったジャワ。
話が違うじゃねぇかみたいな声が聞こえる。
しばらくしてジャワが戻ってきた。
「あー、もう行っていいよ。」
「え!?どうしてですか!!パーミッションが必要なんじゃないんですか!!?」
「あーもういいから。どうにかなるんじゃない?」
「嫌です!!ツーリストはパーミッションがいるんですよね!!パーミッションがないと宿に泊まれないんですよね!!嫌だ!!ちゃんと宿で寝たい!!宿で寝たいです!!お願いします!!僕にパーミッションをください!!お願いします!!」
「出て行ってくれないかな。」
「嘘だったんですか?パーミッションがいるっていう嘘をついてツアーを組ませるつもりだったんですか?なんでそんな嘘つくんですか?ねぇ?」
「はいはい、早くトゥクトゥクでメインバザールに行きなよ。」
「メインバザールまでいくらでいけますか?」
「10ドルだよ。」
「お元気で。日本人に嘘つかないでください。」
なかなか楽しませてもらったけど、これで実際かなりの金を失う人もいるんだろうなぁ。
本当に押しが強くてつい信じてしまいそうになる気持ちもわからんではない。
これはまだ原始的な詐欺だけど、もっと巧妙なのがたくさんあるんだろうな。気をつけないと。
まぁ取られる金ないけど。ウケる。
偽ツーリストオフィスを出て、目の前の通りでトゥクトゥクをつかまえて1ドルでメインバザールへと向かった。
トゥクトゥクは人でごった返す通りの中へ突入していく。
そこには異世界があった。
もうね……すげぇとしか言いようがねぇ…………
なんだろう、この強烈な光景を言葉にする文章力は俺にはないわ………
人が多すぎる。
そしてトゥクトゥクとバイクと荷車とリキシャーっていう人力車が通りを埋め尽くしている。
ゴミが山のように散らばっており、野良犬がそこらじゅうをうろつき、建物は全て日本の戦後の写真で見たバラックと、半壊したコンクリート。
廃墟のような建物で野菜が売られ、子供達が裸で寝て、数年洗ってなさそうな服を着た男が何かの揚げ物を売っている。
凄まじい本数の電線が頭上を走っており、もう感電とかそういうレベルの問題じゃない状況。
クラクションがけたたましく鳴り響き、立ち止まっていたら一瞬で轢き殺されるっていうか軽く轢かれた。
さっきまでの雨で足元はもうグチャグチャで、そんな地面の上でおばさんが死んだように寝ている。
そして寝ているおばさんの胸を幼児がまさぐって動物みたいにオッパイを飲んでいる。
呆然…………
呆然とすることしかできない。
こうしたカオスな場所は今までも結構あった。
アラブ地域の迷路やゴミゴミした町もなかなかのものだった。
しかし、
インドは桁が違った。
レベルが違う。
こいつを見てしまったらカオスって言葉はインド以外では使うことができない。
★インドあるある No.6
【牛がいる】
お、おい!!ちょ、ちょっと!!牛がいるよ!!
あんた何のんびり買い物してるの!!?それどころじゃないよ!!
横に牛がいるよ!!
★インドあるある No.7
【宿の部屋が死ぬほど暑い】
インドビザを取るために前もってホテルをとっておくことが必要なので、まぁテキトーに予約しておいたんだけど、これがウルトラ路地裏の奥にあるウルトラ怪しげなところだった。
安宿ってたいがいどこの国でも路地裏にあるんだけど、もうここ路地裏っていうか人の家の中を通って行くくらいの生活場所。
寝てるオッさんの足が狭い道に飛び出してきてて歩きにくい。
宿は200ルピーでシングル。330円くらい。
エアコンなしのファンのみなんだけど、笑えるくらい暑いですね。
もうすでに全身ビッショビショなんだけど、部屋の中のほうが汗が出てくる。
いやだ……………
もうこの時点でかなりビビってますね。
インドはカオス、というイメージを軽く超えました。
東南アジアとかマジスーパー先進国だったと思えるくらい。
もうなんだろう、なにこれ?ってすでに100回くらい言ってます。
牛見た時が1番のなにこれ?が出ました。
インド最強。まだ着いて2時間くらいだけど、すでに色んな意味で最強。
そしてすっごいワクワクしてきた。
だって完全に新しい世界なんだもん。今までのどの場所とも違う。
このメインバザールって安宿が固まっててそれなりに観光地なんだけど、これが東南アジアだったら思いっきり観光地化させて、クラブとかバーとか作りまくっていかに外国人に楽しんでもらうか外国人にすり寄る。
しかしインドは違う。
観光客無視。
変えるつもりゼロ。
は?カレー食べないの?バカじゃないの?みたいな顔してる。
毅然としすぎ。
これから物事に動じないことを、動かざることインドのごとしって言おう。
なんだかその自分たちの生活を崩さず、ありのままでいる姿が意外にもすごく好感が持てた。
インドに行ったらさっきのツーリストオフィスのジャワみたいなバカとケンカばっかりしてるんだろうなぁと予想していたけど、あっという間にこの国を好きになりかけている自分に驚いた。
こんな汚くて、やかましくて、粗野で、牛がいて、詐欺師がいっぱいいる国、いつもの俺なら一瞬で嫌いになるはずなのに。
なんだか、嬉しくなってきて荷物を置いてバザールの中をのんびりと歩いて回った。
★インドあるある No.8
【カレーに衝撃】
だいたいカレーとかさ、日本で子供のころから食べてるの。
お母さんもお父さんも作るし、ココイチも美味いし、お祭りとかバザーとかでどこでも食べられるんだよね。
それをこんなインド?
そのほとんど洗ったことないみたいな鍋で作ったカレーが俺の口に合うと思ってるの?
スパイスたくさん使えばいいってもんじゃないんだよ?鼻ヒゲがはえてればいいってもんじゃないんだよ?
チキンマサラ?あー、はいはい、あるよねー、分かる分かる。日本にもさインド料理屋さんたくさんあるんだよね。どれが美味しいですか?って聞くとたいがいのインド人チキンマサラが1番って言うよね。日本で食べるとだいたいナンもつけて2千円くらいするよね。バカだよね。え?80ルピー?120円?バカだよねー。あんまりなめてもらったらこま美味ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!
カレー美味ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!
ココイチ超えた。
お父さんのにギリ並んだ。
旨すぎる。程よい辛さ、深いコク、様々なスパイスのフレイバー、もちっとしたナン、チキンももちろん。
なんなのインド人!!!
なんでこんなに美味しい料理作れるくせに着てる服そんなにズタボロなの!?
わからない!!
★インドあるある No.9
【ラッシーがヤバい】
歩いてたらなんか白いプリンみたいなの売ってるお店の周りにたくさんの人が集まってたんです。
なんだろ?と覗いてみると、ラッシーラッシーって言ってくる。
あ、ラッシーってあの吉崎ふみ君がラッシー留学しようと思ってるっていうあのラッシーか。
どんなものなんだろ?
試してみることに。25ルピー、40円。
プリンみたいな固形の白いものをミキサーにかけ、ドロっとした液体をグラスに注いでくれる兄ちゃん。
最後に固形のままのプリンを少しグラスに落としたら完成。
えーっと、もう面倒くさいから前フリとかそういうの無しでいいですか。
すごく美味しいです。
なんでこんなに美味しい飲み物を作れるくせにワキガなのか分かりませんね。あ、ワキガは関係ないですね。
もう、感動。
なんだよインド、めちゃくちゃいいとこじゃねぇか。
インドのことを大好きになる人と大嫌いになる人、二通りいるというけど、今のところ俺はかなり好き。
まぁこれは行くタイミングだろうけどね。
新しい刺激を求めていた俺にとってはこの上なく楽しませてくれるステージだよ。
これで路上が稼げたら言うことないんだけど………
無理だろうなぁ………
野良犬と野良牛と人間が一緒に路上で寝てるようなとこだもんなぁ。
でもここはニューデリー。
一応この国の首都。
このメインバザールはごちゃごちゃした貧しい地域だけど、きっとビジネスエリアやショッピングエリアなど、お金を持った人たちも住んでる。住んでなきゃおかしい。
きっと日銭くらいは稼げるはず。
なんとか2週間でインドの端っこのコルカタまでたどり着かないといかない。
所持金はあと4千円。
観客が牛だけだろうが歌いまくってやる。
ゆうべもあまり寝ておらず、そこにこんな強烈な光景に迷い込んだので、結構疲れたな。
メインバザールの中心に屋上を改造したカフェがあったのでそこに入った。
屋上から見渡すバザールの光景は、壮絶だった。
うごめく人々、行き交うトゥクトゥクとリキシャー、そして牛。
建物はこれでもかってくらいボロボロで、もし人がいなかったら空襲を受けた後か?って思えるほど。
こんな中に居場所を見つけるのはとても困難なことだ。
久しぶりの1人は心地よいが、やはり寂しさはある。
でもこれがいい。
孤独でいるからこそ、この風景が深く胸に入り込んでくる。
久しぶりに旅をしているという実感が湧いてくる。
その時、向こうの空が赤く染まっていることに気づいた。
夕日がインドの混沌とした町を照らしていた。
空はこんなにも美しいのに、地上はこんなにも汚い。
それに胸が震えた。
なんとも言えず震えた。
地球ってすげえ。人間ってすげえ。
インド、楽しくなりそうだ。
★インドあるある No.10
【チャイが最高】