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暗闇の島

6月13日 金曜日
【タイ】 ピピ島





昨日あんなイカれたパーティーをしていたピピ島だけれども、これでも今はシーズンオフらしく人が少ないんだそう。

確かに俺が止まっているホステルはドミトリーに俺しかいない。

広い部屋に30個以上のベッドを並べただけのこの宿。

個室もなにもない。玄関を開けたらこのドミトリー部屋があるだけ。


そこに俺1人。と、もう1人。


スタッフの兄ちゃんがこのドミトリーで生活している。

バングラデシュ人のこの口数の少ない兄ちゃんとの2人暮らし。


町のど真ん中の路地裏にあり、玄関を開けると横の家の子供がワイワイ遊んだりしてる。

上半身裸でサンダルも履かないでサワディカーと挨拶してコンビニへ出かける。

客引きのおっちゃんたちと少し会話してカップラーメンを買って宿に戻り、外に置かれたソファーに寝転がって日記を書く。

露地の向こう、表通りを歩く白人たちが見える。

隣の家のおばちゃんがニッコリ笑って、しかし別に俺に構うことなく出かけていく。
タイ人は人との距離の取り方が上手いと思う。

とても穏やかな、ゆったりとした午前の時間。

ピピ島の魅力は旅行者に現地の人間になったような気分を味わわせてくれる何気ない柔らかさだろうか。






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町の中を散歩してから宿に戻ってまた少し眠った。
ゆうべワールドカップを見てから寝たのは朝の5時過ぎ。

今夜もまた夜中の2時からスペインとオランダという楽しみすぎる試合がある。

別にそこまでサッカー狂いってわけじゃない。
ネイマールとか言われてもマヨネーズですか?ってくらいなにも知らない。

そんな俺でさえサッカーのワールドカップは刺激的なもの。

しかも昨日見ていて思ったんだけど、ワールドカップって今の俺にとってすごくワクワクするものだと気づいた。

だってこれまで訪れたたくさんの国同士が戦うんだもん。

それぞれの国の選手が走ってるのを見ると、ああ、あの綺麗な教会があった国だ、とか、あそこの曲がり角のご飯美味しかったな、とか、この選手たちもオランダでは自転車乗ってるのかな、ってな具合にその選手たちの国のことを思い描く時、余計に気持ちが入る。

彼らはすでに外国の知らない国の人たちではなく、同じ世界に住む同じ感情を持った人間だった。

それを考えた時に、ワールドカップってなんて素晴らしいんだろうって思えた。









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目を覚ましてからギターを持って宿を出た。

今日も昨日と同じ路地裏のスーパーマーケットの角で歌う。


歌いながら見ていて思う。

買い物に来た人たちがスーパーマーケットに入る時にバッグや荷物をお店の外に置いて入っていく。

置きっ放し。

南米を旅してきた俺にはそれがソワソワして仕方がない。

こんな風に荷物を置きっ放しにしていたら貧しい地域では一発で置き引きに遭ってしまう。


しかしここでは誰も盗るような気配はないし、地元の人たちがそうしているということは盗難なんてこの島には無縁のものなんだろう。

確かに島という閉鎖的な空間ではそんな犯罪を犯したら逃げ場はない。

でもそれでも盗るやつは盗る。



タイだって貧しい。
このローカルエリアでは多くの島民が汚れて古びた服を着ている。

しかし誰もがニコニコと微笑みながら挨拶を交わし、無防備なほどにお互いを信頼しあっている。


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東南アジアには日本の昭和の雰囲気があるという人がある。
確かに電線がごちゃごちゃと入り乱れた空や子供が駆けまわる路地裏はかつての昭和の光景だけど、きっとそれだけではなく、日本が忘れている地域の人たちの濃い繋がりや絆が残っていることも昭和の雰囲気を表しているかんじゃないかと思える。

無邪気で人懐こくて明るい表情をする子供達の笑顔がそれを物語っているようだ。

あがりは600バーツ。2千円。

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カップラーメンを買って客引きのおじさんたちの溜まり場でお喋りしながら食べ、今日もいつものバーで欧米人たちとサッカーを見た。

酔っ払ってファック!!を連発している白人たちの柄の悪さはいつものことで、店員も慣れたもんでそれにノリよく応えている。

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店の中で1番大声を出して盛り上がっているのはニューハーフ、いや、レディーボーイの集団。

タイに入ってマジでこのオカマが半端なく増えた。

レストランでもコンビニの店員でも、いたるところオカマだらけ。

最近ではタイボーイというらしい。



タイのニューハーフのクオリティの高さは、いや!!マジでさぁ!!と出会った誰もが熱弁をふるうほどのものなので、俺もそれなりに期待していた。

マジで半端じゃなく可愛いらしいし、全身工事でチンチンをとってるだけでなく、穴も作っているので、抱いても下手したらわからないレベルというか逆にはまってしまうほどなんだと。

そんなレディーボーイのメッカはもちろんバンコクなんだろうが、バンコクじゃなくても本気で普通にそこらへんに大量に存在している。

タイは生粋のオカマ大国だ。





そんなレディーボーイたちがギャアアアアアアア!!!!と興奮して騒ぎまくってるのを白人たちが苦笑いしながら見ている。

俺はそれを見ながらビールを飲む。






ここはピピ島。
アジアの海に浮かぶ小さな島。

パーティーと生ぬるい風と、怪しい自由さに満ち満ちている。


ゴールが決まるたびに店内だけでなく、町のあちこちから叫び声が島にこだまする。




オランダすげえ!!


ファンペルシ~様あああああああ!!!!っていうニューハーフたちの絶叫に爆笑しながら朝方まで夢中になっていた。








その時、いきなり凄まじい勢いの雨が降り出した。
ズバー!!っとトタン屋根を叩く凄まじい音。

一瞬にして通りの道が水たまりで消えてしまった。


雨が降り出すと、電波の状況が悪くなったみたいで、テレビ画面がプツプツと途切れて画像がいびつになりはじめた。

大事なオランダとスペイン戦。
みんなが食い入るように見つめているというのに、ついにブツリと画面が真っ黒になってしまい、ついでに島の電源が落ちて島中が真っ暗闇になった。



「アアアアアア!!!ファックユー!!!」


「カモーン!!ワールドカップ!!!」


「イヤッフオオオオオイイ!!!」



店内が大ブーイングに包まれた。

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