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ボブディランはギター弾き

6月10日 火曜日
【タイ】 プーケット






「タイ最高だねぇぇー…………」


「最高っすねぇぇー…………あーもう、なんでマレーシアなんかに2ヶ月もいたんだろ………」




プーケットの午前10時。

すでに太陽がカンカンに照っており、ベランダでタバコを吸っているだけで汗が出てくる。






この最高すぎるタイ、プーケット。

実はビーチリゾートであるパトンビーチがあるだけではなく、さらに人を呼び寄せる有名な場所があることをこの前知った。

町の中にあるいくつものツアー会社の看板に、必ずといっていいほど見かけるピピ島ツアーという文字。




ピピ島。




ピピ島?




そう、あのディカプリオの映画、ザ・ビーチの舞台であるヒッピーたちの隠れ島、あれこそがピピ島であり、自由の楽園の象徴だ。

タイで結構気になっていたあのピピ島にまさかこのプーケットから船が出ているとは知る由もなかった俺とイクゾー君。
いつも何も調べなさすぎ。
行きゃなんとかなると思ってる。


しかもなんとピピ島までここプーケットからわずか2時間の航海で、さらに値段が往復で550バーツときてる。

2千円しないのだ。

宿までのお迎え、フェリー、帰りのフェリー、宿までの送迎。

これ全部こみで2千円しない。


行くしかねぇだろ!!!??





「金丸さんー、もうピピ島行っちゃいません……?」


「ダメだよ、まだお金が充分じゃないよ。」


「早く行って日本人の女の子とイチャイチャしたいんです。ピピでピピピッ、つって。」


「イクゾー君もお金まだないやろ?ていうかゼロやろ?ちゃんと貯めよう。」


「金丸さんってブログのイメージと違って石橋渡るタイプっすよねー。」


「俺石橋しか渡りたくないもん。」


「俺もう橋自体ないですよ。クロールですよ。」





実際のピピ島ってのはまぁ完璧に観光地化された欧米人たちのパーティーアイランドということなので普段だったら別に俺もイクゾー君も興味ないんだけど、そんな2人が今ピピ島をチンチンたつくらい楽しみにしているのは、





もちろんワールドカップのため。



やっぱ楽しみ。


日本戦だけは何があっても見たい。


そんなワールドカップをどこで見ようかずっと考えていたんだけど、イカれたパーティーが毎晩のごとく繰り広げられる美しい島でビール飲みながら大盛り上がり、なんて今考えうる最強のシチュエーション。


あああ!!想像しただけで楽園すぎる!!


ピピ島で日本人の女の子と仲良くなってワールドカップ見て盛り上がってそのまま夜のビーチに行って星を見ながら綺麗だねでも君の方が綺麗だよそれじゃあおっぱい揉ませてという流れ。

よっしゃああ!!!!

ピピでピピピッのためにも歌うぞ!!









というわけで早くピピに行きたがっているイクゾー君と一緒に宿を出て近くの屋台でご飯食べて、向かったのはプーケットタウンの真ん中にあるショッピングセンター。

photo:01




市場や屋台街、マクドナルドが周りにあるプーケットで1番人が集まる場所だ。

歌うならここしかない。
スーパーマーケットも入っているのでたくさんの人が歩いているはず、とやってきたのだが………








全然人がいない。

ちらりほらりしか歩いていない。

嘘だろマジか?ここくらいしかプーケットで行く場所はないはずなのに。




ショッピングセンターの中に入ってみた。

暇そうなショップの店員が肘ついてケータイをポチポチいじっている。

お客さんはほとんどおらず、静まり返っている。


2階にはゲームセンターがあったけどゲーム少なっ!!

バスケットシュートのやつと格闘ゲームと音楽に合わせてボタンを押すリズムゲームくらいしかない。


暇なので鉄拳やってみた。10バーツ、30円。

photo:03





photo:02




警備員、見すぎ。



「あ、あれ?ボタンがきかない。ちょ、これボタンがきかないです!!」



ボタンがきかずパンチが繰り出せずイクゾー君がサンドバックにされて警備員に微笑まれて終了。

微笑みの国。




それからバスケットシュートをやってみた。


「金丸さん、次のシュート僕入れたら何ですか?」


「もー、イクゾー君と賭けとかしたくないよ。怖いわ。」


「入れたらドレッドゴチでいいですか?よーし、気合い入ってきた。」


「じゃあ外した時はなんなの?」


「コーラっす。」


「コーラとドレッド、割りに合わんくねぇ?!」


「いきます!!」



そして2人とも全然入らなくてグダグダになってどちらから切り出すこともなくやめて、外に行ってコンビニの缶コーヒー飲みながら階段でタバコをふかす。

ぼーっと道路を眺めながら俺たちも暇な店員さんたちの仲間入りをする。



「暇だねー。」


「あ、あの人可愛くないですか?」


「まぁまぁやね。あの人可愛いやん。」


「えー!!全然可愛くないでしょ!!」



「はああああああああ!!??あの人可愛くないってどういうこと!!??」


「いやいや!!金丸さん飢えすぎでしょ!!」


「いや、そっちこそ贅沢すぎるから!!ほら!!あの人可愛いやん!!」


「わかんねぇ!!この人わかんねぇ!!」


「ところで母校で公演する時どんな話するんやったっけ?」


「えーみなさん、世界一周の旅人、小林イクゾーです。まず、外国なんてめんどくさいので行かなくていいです。アメリカ?2秒。オーストラリア?2秒。タイ?タイはやゔぁい。」


「暇だね。」


「暇っすねぇ………あ、あの子可愛い。女の子とチューしたいなぁ。ベロで歯石とってもらえないかな。Cの2からCの4お願いしますーつって。あー、なんで俺生まれたんだろ。」









………………………










不毛すぎる(´Д` )

なんもしてねぇのにもう15時になってしまった。

人通りは相変わらず少ない。
でも昼よりかはまだマシだ。

おそらく昼は暑すぎてみんな外を出歩かないんだろう。
夕方から夜にかけてが狙い目なはず。

これが外れたら終わりだな。










photo:04




16時になり少し人通りが増してきた。もうやっちまおう。


「イクゾー君はどこでやる?」


「うーん、ないんですよねー。ビーチに行ってもバスが18時に終わるから帰って来られないし。」


「人に聞いたら向こうにずっと歩いくと大きなショッピングセンターがあるってよ。ビッグCっていう。そこ狙ってみたら?」


「そうっすね……もうお金千円くらいしかないからやってきます。」


「がんばってね。」


イクゾー君を見送り、ショッピングセンターの前をウロウロしていると、タクシーとバイクタクシーのおっさんたちがここで歌いなー!!と言ってくれた。ここが1番人が通るからと。

客待ちのタクシーの運ちゃんたちが椅子に座ってくっちゃべってるスペース。
おっさんたち専属の歌うたいみたいな状況だけど、もう四の五の言ってられないので思い切ってギターを鳴らした。

photo:05














曲を終えると拍手が起きた。
そしてどこからかバイクタクシーのおっさんたちがわらわらと集まってきた。

毎日暇してここに座ってくっちゃべってるバイクタクシーのおっさんたちからしたら物珍しいやつが乱入してきたようなもんだろ。

普段はそれしか喋れないのか?ってくらいタクシータクシー言ってくる彼らの客引きにウンザリしているけど、こうして同じ目線に立てば彼らはやはりどこまでも微笑みの国のタイ人であり、フレンドリーでとても暖かい。

ジュースを買ってきてくれたり、通りがかる人に聞いてやってくれーと声をかけてくれたり。

みんなとても優しかった。

photo:06




photo:07




photo:08












夜になると予感的中で人がたくさん通りに出てきた。
やはり暑いので昼間は出歩かないんだろう。

さらにタクシーの運ちゃんたちの話では、今日はシンガポールからの豪華客船が入港している日らしくたくさんの中国人の姿がある。

カジノが中に入っているようなお金持ちたちの船だ。

気合いを入れて声を出した。








19時をすぎると隣の屋台街が片付けを始め、俺も喉がきつくなってきたのでこの辺でギターを置いた。

あがりは1166バーツと2シンガポールドル。4千円てとこか。

タイではおそらくこんな風に夜勝負の路上になるだろうな。

運ちゃんたちにお礼を言って宿に帰った。















汗だくになりながら宿に着き、部屋のドアを開けるとすでにイクゾー君がベッドに横になっていた。


「帰ってたんだ。ビッグCどうだった?」


「ビッグCですか。そうですね、まぁ一言で言うと、」



「一言で言うと?」



「廃墟ですね。5キロくらい歩いて汗だくになってたどり着いたのに人まったくいなくて帰ってきました。お金がないです。そっちはどうでした?」



「………1200バーツほど………」



「へー、そりゃ良かったですね。さすが金丸さんだなー。」


photo:09




明らかに不機嫌になってるイクゾー君。
ま、まぁ、ビッグCを勧めたの俺だもんな。



「わかった、今夜の宿代払っとくよ。そんで明日からあそこでやるといいよ。みんなフレンドリーだから稼げるはず。」


「ああ………ピピでピピピッが遠ざかっていく………」


ご飯を食べてビールを1本飲んだらイクゾー君のお金がゼロになった。



「イクゾー君そろそろレパートリーとか増やしたらいいんじゃない?」


「でもどんなのやればいいだろう。金丸さん歌ってるフーフンフーンってあの歌、誰の曲ですか?」


「風に吹かれてっていうボブディランの歌だよ。YouTube見てみなよ。」


「ちょっと待ってください………あーこれですね。へーすごい自由な歌い方する人なんですね。ていうかギター弾くんですねボブディランって。」


「な、なに言ってんだよ、ギターとハーモニカの元祖みたいな人だよ。」


「ハーモニカもやるんですか。なんかいいっすね、こういう時代の曲。」



イクゾー君がよく聞いているのは玉置浩二やブルーハーツや尾崎豊みたいなJポップ。
別にそれが悪いことじゃないし、玉置浩二はめちゃくちゃカッコいいけど、ルーツを辿っていけば偉大な先人たちがたくさんいるもんだ。


「ボブディランも元はウディガスリーに影響を受けたっていうし、日本にもディランの影響を受けてる人はたくさんいるよ。吉田拓郎もそうだし、マイナーなとこだと友部正人とか。有名なのもいいけどアンダーグラウンドもめちゃくちゃカッコいいから。ほら、この友川カズキとかすごいよ。」


「あ、前に金丸さんのブログで見てYouTubeで探してみたことあります。生きてるて言ってみろー!!ってやつですよね。」


それから俺が好きな弾き語りの人たちをいろいろ教えてあげた。
加川良が気に入ったみたいだ。
加川良の言葉の選び方半端じゃないですね、ってそこを感じてくれたら俺も嬉しい。



「そうだなー、そろそろレパートリー増やしていかないとなぁ。まだ日本語しかないですもんね。ああ、金稼がないとー………もし日本人宿とかで出会ったターバン系のやつが、いや~俺の旅のスタイルきつくてさ~とか言ってたら友川カズキ歌ってやりますよ。旅きついって言ってみろ!!旅きついって言ってみろ!!つって。」


町田町蔵も聞かせてあげればよかったな。
飯食うな、つって。


イクゾー君、明日は稼いでいいもん食べようぜ。

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