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美しき湖と山々

5月12日 月曜日
【ニュージーランド】 クイーンズタウン





ガサゴソ………







ガサゴソガサゴソ……………








寝袋を開ける。






おはようございまーす。

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うわぁ……………やば…………


寝袋の中から外を覗くとそこには夢幻の世界が広がっていた。

静寂の湖面と霧をかぶった断崖絶壁。
白い雪をたたえた深山幽谷の山の連なりがどこまでも続いている。
仙人住んでるとしたらこんな場所だよな。

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目の前の光景にふとここがどこかわからなくなる。


えーっと………ニュージーランドの山奥の、クイーンズタウンって町か………


寝袋から顔を出した途端、あまりの冷気に顔がしばれた。

目が乾いてシバシバして、また寝袋に顔を引っ込めた。










1度目が覚めてしまうともう寒くて眠れない。
寝袋の中でも足首は完全に冷え切っていてずっとスリスリとさすっているのだがまったく温まらない。

雨が降らなかったのは助かったが、こう寒いとろくに眠れない。



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ベンチの形に固まった体を起こし、猛ダッシュで寝袋とマットをたたんでバッグに詰め込み、スロベニアでネドルコと買った手袋をはめて町へ向かう。

ネドルコ、この手袋バッチリだよ。









寝ていたのはクイーンズタウンの町からポコんと飛び出した森林公園の中のベンチだった。

綺麗な遊歩道があり普通なら散歩する人で溢れそうだけど、こうも寒いとさすがの欧米人もランニングにはでてこないみたい。


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昨日の快晴は運が良かっただけで、今日は天気予報通りの不安定な曇天模様。青空は見えてはいるが黒い雲が向こうの空に淀んでいる。

水辺に並ぶ紅葉の木々が寂しげに風に揺れている。

とにかく寒い。

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さて今日は何をしよう。

そうだ!!バンジージャンプしよう!!
150メートルくらいの橋から飛べるらしいぜ!!

もっと高いところがいいならパラグライダーもいいね!!
町を見下ろす丘の上から斜面を滑走して一気に浮かび上がる!!


もっと高くて素晴らしい景色が見たいならもうこれ!!

スカイダイビング!!

クイーンズタウン周辺のフィヨルドを空高くから一望しながらのダイブは最高!!


他にもいろいろあるよ!!


遊覧船でのんびりフィヨルドクルーズもいいし、スピードボートで入り組んだ崖のスレスレをターンしまくるイカれたボートもあるし、バギーで走りまくったり、山の中のダートコースをマウンテンバイクで滑走するデンジャラスアトラクションも盛りだくさん!!

さらには湖の下にトンネルがあってガラス張りの壁から湖の中の大きなお魚たちを見ることができる場所もあるし、お化け屋敷なんかの家族連れのための観光スポットも目白押し!!



さー!!どれやろうかなー!!って1人とか嫌ああああああああああああああ!!!!!!!!

全部1人でやったら泣くことしかできないやつ!!!!!!



「わー!怖い!こんな高いところから飛べない!怖いよお母さん!!」


「おい、それはお母さんじゃない。羊だ。早く飛べ。」

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「ほら!!こんなにたくさんお魚がいるんだね!!湖の中ってこうなってるんだねお母さん!!」


「ママ!!あそこのアジア人1人で魚を見てるよ!可哀想だね!」


「シッ!!見ちゃダメ!!」





ふぅぅぅ………悲しみに耐えられない…………




ていうか全部めちゃくちゃ高いのでどれひとつ手を出せませんけどね。

バンジージャンプとか250ドルらしいですよ。

エクアドルのバニョスでは20ドルだったのに。あれがいかに安かったのかよくわかった。








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とまぁクイーンズタウンに世界中から観光客たちがやってくる理由は、ただこの美しいフィヨルドの景色を堪能するためだけではなく、ありとあらゆるアウトドアアトラクションが充実しているから。

なのでお金持ちもいればバッグパッカーもわんさかいるし、落ち着いた年配の方から大騒ぎしたいパーティー好き欧米人まで色んな人がやってくるようだ。

ちなみにヒッチハイク中に聞いた情報では、ベースバッグパッカーという宿が最安みたいで20ドル。
世界中のバッグパッカーがここに集結している。










そんなベースバッグパッカーに行ってみた。
もちろん泊まるわけではなく、今日1日動き回るために荷物を置かせてもらえないかと聞くためだ。


「今日だけ?夕方まで。いいわ、タダで置いといていいわよ!」


マジか!!10ドルくらい取られる覚悟だったのに、無料でちゃんとロッカールームに入れてくれた。

やっぱり欧米人のバッグパッカー宿は融通がきくなぁ。











身軽になったらまずは腹ごしらえ。

昨日一緒にヒッチハイクしたドイツ人のロビンが、クイーンズタウンに行くならフェルグバーガーは必ず食べないといけないと力説していた。

乗せてくれたニュージーランド人の人もクイーンズタウンならフェルグバーガーだと当然のことのように話していた。


観光地にある有名ハンバーガー屋さんってわけか。

町の中にあるからすぐにわかるよと言っていたけど、確かにすぐに分かった。

photo:10





まだお昼前なのにたくさんの人がたむろしているお店があった。

ここがフェルグバーガーか。








めちゃくちゃ忙しそうな店内。
メニューは1番シンプルなやつが11ドル。千円くらい。

その他にもラム肉のバーガーや鹿肉のバーガーなど面白いやつがある。
鹿がめちゃ気になったけどまぁここは無難にシンプルなやつにしておいた。

て、ていうか俺の金銭感覚!?
千円のバーガーて!?





もう大人気みたいで次から次へとお客さんがやってくる。
きっとガイドブックとかにばっちり載ってるんだろうな。

中国人の数異常。客の半分中国人。

50個くらいまとめて買っていく人とかいた。



出会った人みんながフェルグバーガー最高!!って言ってたけど肝心の味は…………

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たしかに美味い。
パテも肉厚だし、パンは隣が同じ名前のパン屋さんなだけあっていいコンビネーション。

そしてデカイ。

ハンガリーで食べたレトロバーガーを思い出す。


まぁこの観光地の町だし、みんな試しに食べにくる気持ちはわかるけど、11ドルの味ではないかな。

ケンタッキーの5ドルのセットのほうがはるかに価値がある。








さて、お腹いっぱいになったところでハイキングに出かけることに。

やはり昼間のほうが人は歩いているし、他のバスカーの人たちも昼しかパフォーマンスしてないので俺も路上してもいいんだが、ここまで来たのはあくまでフィヨルドのため。

路上は夜でいい。





というわけで数あるアトラクションの中からお金のかからないハイキングにすることに。

町を見下ろす山の上に展望台があり、そこから綺麗な景色が望めるはず。
ゴンドラでぴゅーと登ることも出来るけど、ここはもちろん歩きだ。

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そして登山口にさしかかったところで雨が降り出す。


ナイスタイミング^_^




この野郎………天気悪すぎる………
これじゃあ山登っても何も見えねぇじゃねぇか…………

冷たい雨が降りしきる中、レインコートをかぶり森の中へ入った。





登山道はなかなかの悪路でウエスタンブーツではぬかるんだ足元がとても滑る。
木の根っこもはっており、これもよく滑り何度もこけそうになりながら登っていく。

途中暑くてスキージャケットを脱いだ。
白い息を吐き、耳の奥が痛くなりながらあまり整備されていない分かりづらい道を突き進んだ。







1時間半くらいで展望台に着いた。

雨は止むことなく降りしきっているが、ゴーカートのコースでは欧米人たちがヒャッホー!!と走り回っている。

天気悪すぎて虚しそう(´Д` )




カフェや土産物屋さんが入っている建物の中に入り、奥の展望台へ。

ソファーには中国人だらけ。
みんなスマホいじりすぎ。


本当中国人って旅行好きだなぁと思いながら荷物を置いて、ホッとひと息ついて展望台に立った。









photo:13




美しい湖が広がっていた。
雨の中でも十分に感動できるほどの眺望だった。

フィヨルドの湖ってどうしてこんなに不思議な美しさがあるんだろう。

深い水の色と静寂には吸い込まれそうな怪しげな魅力がある。

あまりの寒さと風の冷たさに、しばらく眺めては屋内で温まり、また外に出て眺めるということを何度か繰り返していた。

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そのうち晴れないかな?と淡い期待をしながら土産物屋さんで遊んだり展望台で待ったりしていたが、どうにも雲がなくなる気配がないので諦めて山を降りることに。

十分綺麗だったしな。

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photo:17














またレインコートをかぶって滑る山路を降り始めたら、5分で空が晴れ始めた。

木々の隙間から青空見えちょりやる。


ナイスタイミング^_^




よし!!なめてんのか!!!!

今頃展望台にいれば最高だったのに!!


でももうそこからまた登る気にはならず、ボチボチと山を下った。










しかしこの山路、登山道と車道、そしてマウンテンバイクのダートコースが入り乱れており、どれが来た道かわからなくて間違った道に入ってしまい、しばらくしてそれに気づきどこにいるのかわからなくなってしまった。


まぁいいさ、下ってればそのうち町に着くだろうと1人で歩く。
いつの間にか雨も止んでいた。








パッと森が切れて視界が開けた。

湖と山が目の前に現れた。

そこにはさっきまで霧の奥に沈んでいた山が太陽の光を浴びて赤く照らされていた。

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傾く夕日に、燃えるように山肌をさらしている山々。

薄くもやがかかり遠くの雲が目を疑うような色彩をしていた。

まるでコンピュータグラフィックか絵画のような、あまりにもファンタジックな光景に立ち尽くす。

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これだよ………ロードオブザリングのような大自然を見たくて俺はニュージーランドに来たんだ。

今目の前にまさしくドラゴンでも飛んでいそうな山と空が広がっている。

嬉しくて、寂しくて、ずっとそこに立ち尽くしていた。




すごいよ。こんな景色一生でそう何度も見られないよな。


photo:19
















photo:21




山を降り、ケンタッキーに行きチキンとポテトのセットを口に突っ込み、ベースバッグパッカーで預けていた荷物を取ったら、さぁ路上だ。


月曜日の夜なので昨日よりもさらに人は少ないが、頑張ってギターを鳴らす。

ハーモニカホルダーがスキージャケットの上からだと上手く装着できないので胸元を開けて中に入れ込むんだけど、それだけで体温がだいぶ下がる。

ハーモニカが冷やされて唇が冷たい。

根性根性ー…………

photo:22






しかし根性も虚しく雨が降ってきた。

この極寒の中でさらに雨とか頼むから勘弁してくれ…………


急いで荷物をまとめて軒下に逃げ込んだ。
今日はここまでか。
2時間やってあがりは66ドル。









雨の中やってきたバスに乗って空港の近くの町にやってきた。

ここから分かれ道となり、クイーンズタウンへ戻る道、南へと下る道、北へと上がる道の3方向のジャンクションになる。



マクドナルドに行き日記を書き、少しネットをして外に出ると、もう辺りは車も走っていない静寂に包まれていた。

霧のような小雨がしんしんと降りしきり、アスファルトが黒く濡れている。

濡れながら急いで歩き、バス停に逃げ込んだ。
少し大きなバス停なので広々としたベンチがあり、屋根があるのでここならひとまず眠れそうだ。

バスの時間をチェックすると始発が6時53分とある。
ということはこの時間の前には人がやってくる。
ベンチでバッグパッカーが寝てても旅行者の多いこの辺りならばそんなに不自然なことではないが、やはり人目はある程度気になる。

明日も早起きになりそうだな。






スキージャケットを脱いでバサバサと振って雨水を払いたいところなのだが、あまりに寒くてとても脱ぐ気にはならない。

白い息を吐きながら手でささっと水を切り、凍えながら寝袋に入った。
ベンチが少し丸く弧を描いているので意識していないと下に滑り落ちそうになってしまう。
足が冷たくて仕方ない。




早く北上したい。

北島はきっと暖かいだろうな。

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