4月4日 金曜日
【オーストラリア】 レイモンドテラス ~ バイロンベイ
中西保志の最後の雨って歌あるじゃないですか。
あれをカラオケで歌う人は自分の歌に自信がある人だと思います。
歌い上げる感じですよね。
本人は超気持ちいいですけど、聞いてる側は別に声高いですねくらいのもんです。
女の人だと高橋真梨子のごめんねあたりを歌う人が歌に自信がある人ですね。
日本中のネオン街で流しをしてましたけど、だいたいスナックでは最後の雨とごめんねの攻防が繰り広げられます。
ああ、日本のあのスナックの感じ懐かしい………
ママたち元気かなぁ。
今度僕が好きな日本のネオン街ランキングでも書こうかな。
書くことない日にでも。
で、全然話繋がってないけど雨に叩き起こされる真夜中の芝生の上。
テントだったらある程度我慢できるけど、今はただの蚊帳なので雨が顔にかかって冷たくて目を覚ました。
うぎゃー!!と1人蚊帳から飛び出してバス停の中に逃げこむ。
ああ……やってらんねぇ…………
でもまだ眠いのでそのままバス停のベンチにマットをしいて寝袋に潜り込んだ。
ぺちゃくちゃ………
ぺちゃくちゃ………
次に目を覚ましたらすぐ隣で声が聞こえた。
どうやら俺が寝ているベンチに誰かが座っているよう。
子供とお母さんの声だ。
「ママ、この人何してるの?」
「これはね、キャンプをしてるのよ。」
「キャンピングインザバスストップ。」
お母さんが優しく教えて子供が不思議そうに言っている。
同じベンチなのですぐ真横。
う、うおお、寝袋から出にくい………
でもそろそろ起きないといけないし………
いかにも自然を装って、いやー、おはよう!!いい朝ですね!!と爽やかに寝袋から体を出すと、ブロンドの髪の毛の小さな男の子が驚いた顔で俺を見ている。
「おはようございます。いやー、カンガルー大好きです。」
「おはよう。よく眠れた?」
学校に行く子供をお見送りに来ているお母さんが笑顔で言ってくれる。
「これからはどこまで行くの?」
「ケアンズまで行きます。コアラとかマジやべっす。」
驚きながらも警戒心を解いてくれる子供。
しばらくしてスクールバスがやってきて、乗り込む時に子供は俺に手を振ってくれた。
「ハバグッデイ。」
俺もお母さんと一緒に手を振る。
うん、俺、ハバグッデイ。
荷物をたたんで道路向かいのマクドナルドで朝マックセットを食べ、メールチェックをしたら、さぁオーストラリア最初のヒッチハイクいってみようか。
目的地はここから車で10時間ほど北上したところにあるゴールドコースト。
なんとか今日中に着いてしまいたいな。
オーストラリアのヒッチハイク具合、どんなもんか。
道路沿いに出てギターケースの裏にガムテープで北へと書く。
うん、下手くそ。
まぁいいや、よっしゃ!!いってみよう!!
はい10分経ってない!!
優しい初老のおじさんがエンジン音のまったくしないピカピカの車で横づけしてくれた。
「どこに行くんだい?」
「北ならどこでもいいです!!」
「よし、50キロくらいだけど乗ってきなさい。」
なんだろう。めちゃくちゃ自然。
ヒッチハイクってやつをすごく理解してくれている。
ピカピカの車内。座り心地のいいシート。振動のないサスペンション。
ああ、先進国の一般車のクオリティ高すぎる。
そして何より会話ができる!!だってこんなおじさんなのに英語がしゃべれるから!!当たり前か。
「おじさん、カンガルー好きですか?」
「ああ、もちろん好きだよ。」
「彼らはボクシングで人を襲ったりしないんですか?」
「しないさ。人間を見たら逃げていくよ。ウチの庭とかたまにやってきて芝生を食べてしまうけどね。」
そんな上品な紳士のおじさんと一緒にスーパーにお買い物に行ったりしながらの快適なドライブ。
こうしてオーストラリアの現地の人とキチンとお喋りするのってアーロン以外だと初めてだな。
「子供のカンガルーはとても素早いんだ。彼らはぴょんぴょん飛びながらどこにでも行ってしまうんだよ。」
しばらく高速道路を走り、おじさんは途中のパーキングエリアに止まってくれた。
じゃあオーストラリアを楽しんで、と笑顔を残しておじさんは去って行った。
これパーキングエリア。
よし、もうエアーズロック行かなくていい。
さて、早速次いってみようかな。
高速道路の脇を歩いていく。
車が止められるスペースはないかなぁー。
はい、秘技でた。
ヒッチハイクしてないのに車止まるの術。
「ヘイメーン、調子はどうだいメーン?」
「俺たちブリスベンまで行くところだけど俺らとドライブを楽しまないかいメーン?」
「ブリスベン!!??ゴールドコーストの先じゃん!!?」
「スィ~ト。カモン、ロックをロールしようぜ。」
一撃ゴールドコーストゲット。
しかもこんな現地のクールな若者たち。
長いブロンドの髪と身体中のタトゥー。
さっきのおじさんの快適な車に比べるとボロいバンではあるけど、このサーファーたちのゆるくて自由な空気がたまらなく嬉しい。
窓から吹きこむ暖かい風、割れたスピーカーから流れるオフスプリング、バックシートのギター。
ああ、東海岸のサーフトリップ。
彼らの名前はピーターとジェイムス。
「ヘイフミ、ビールは好きかいメーン?」
「もちろんだよ!」
「スウィ~ト。じゃあ楽しもうぜ。」
途中の小さな町に寄って、ショッピングモールへ。
裸足で歩く彼らと後をついていくと、
これの、
これの、
これもん。
ちなみに運転手のピーターは乾杯用だけで飲んでません。
「イエー、最高だぜメーン。楽しもうぜ。」
「最高だー。ところでカンガルーは好き?」
「もちろんだぜメーン。カンガルーはヘルシーで美味しいぜメーン。」
「早く見たいんだよなー。」
「カンガルーなんてこれから北に行ったらいくらでも見られるぜメーン。道路脇でいくらでも死んでるぜメーン。」
窓の外はどこまでも森や草原や農地が広がるのみ。
たまに小さな町があるけど、これといったものはない。
車の中でギターを弾き、変なビデオを撮ったりしながら、バンは北へ走る。
「いえーメーン、ちょっと泳ごうぜブロー。」
小さな町の中の海沿いに入っていくバン。
そして桟橋にやってきた。
この辺りはどこにでもこんな綺麗なハーバーがある。
服を脱ぎ捨て、俺にズボンを貸してくれるジェイムス。
裸で桟橋を歩くと海風がとても気持ちいい。
沈んでいく太陽が雲を染め上げる。
「イエー、いくぜメーン。」
すると何の前触れもなく桟橋の手すりにのぼるジェイムス。
「イヤッホーメーン!!」
夕暮れの空にジャンプしたジェイムス。
10メートルはある海に飛び込んだ。
「カモーン!!フミも飛びなメーン!!最高だぜー!!」
お、俺こういうの苦手なんだよな………
いや、この自由な時間をとことん楽しみたい。
イチー、ニー、サーン!!と下からカウントするピーター。
もうどうにでもなれ!!
思い切って手すりを蹴った。
ザブン!!と水に潜り、少し鼻から飲み込んでしまいながら海面に顔を出した。
「イエーブロー、ビッグジャンプだぜメーン。」
ぷかぷかと浮かんで空を見上げる。
赤く染まった雲がゆっくりと流れる。
やっと旅らしくなってきたぜ。