3月31日 月曜日
【オーストラリア】 シドニー
今日もいつもの展望小屋で目を覚ます。
寝起きから最高の眺めで文句のつけようがない寝床なんたけど、ここは少し蚊がいる。
テントを張りたいところだけど俺は南米南下のために荷物を減らそうとテントをグアテマラのホステルに寄付してきた。
でももしかしたら蚊に悩まされるかも、とテントの内側の蚊帳だけは持ってきていた。
これが大正解で、テントを張らずとも蚊帳さえあれば快適な野宿生活になんの支障もない。
俺が蚊帳、マット、寝袋の完璧なセットで寝てる横で薄いタオルケットみたいなやつ1枚で震えながら寝ているイクゾウ君。
「て、テント持ってこなかったの?」
「いやー、一応持ってきてたんですよ。でもこの前ゴールドコーストでベンチで寝ながら横でテント乾かしてたんです。そしたらなんかバキバキバキって音がして、見てみたらオッさんがゴミ収集車にテント放り込んでるんですよ。普通分かるっしょー……横で俺寝てるんだから。何してんだオラー!!って日本語で叫びましたよ。だからテントないです。」
気の毒すぎる………
気の毒すぎるけど爆笑。
そしてふと気がつくと2人の足元に名刺が置いてあった。
なんだ?と見てみると、どうやらシェルターかなんかの保護施設の名刺だった。
フリーホームサポートと書かれている。
本当先進国はこうした受け皿が充実してるな。
「金丸さん、飴いります?昨日歌ってたら飴もらったんですけど、この1番元気っていう飴とベルターズオリジナルどっちがいいですか?」
「特別な存在のやつちょうだい。」
「特別な存在っすね。はい。」
寝ぼけた頭で座ったまま飴をなめる。
飴をなめる2人のホームレス。
「うわ、この飴マズ………何が一番元気だよ……ひとつも元気にならないですよ……今日1日が思いやられるわぁ………」
朝から転げ回って大笑いさせてくれるイクゾウ君。
なんかこの不器用でバカで真っ直ぐな彼の存在自体が面白い。
「ところで金丸さん宮崎ですよね?俺高千穂に婆ちゃんいるんすよ。」
「へーそうなんだ。方言すごいやろ。」
「そうなんすよ。マジで婆ちゃん何言ってるかわかんないんですよ。方言すごすぎて会話できないんすよね。僕全然英語わかんないですけどまだオーストラリア人とのほうが会話できますもん。」
面白すぎる(´Д` )
「わかんなすぎてまだあんまり仲良くないんですよ。食べ物何が好きかとかも知らないです。」
爆笑しすぎて歩くのが止まるくらい笑いながら街に降り、今日もいつもの公衆トイレ、セブンイレブンコーヒー、図書館の流れ。
月曜日の朝の出勤の人たちがせわしなく行き交う中、セブンイレブンの横で階段に座ってコーヒータイム。
そしてお湯をもらってカップラーメンと食パンで朝ごはん。
質素だけどこれでも結構いい値段してるから恐ろしい。
そんな街を眺めていると、横でコインを数えだすイクゾウ君。
ビニール袋から取り出して。
イクゾウ君は火曜日についに3ヶ月滞在したオーストラリアを脱出する。
少ない稼ぎの中でコツコツコツコツとお金を貯め、マジで死にかけながらやっとの思いで飛行機のチケットを買ったんだそう。300ドルで。
行き先はマレーシア。
「いやー、最初のころとか食パンしか食べてなかったですもん。1日5ドルとかしか稼げなかったから。食パンしか買えなかったです。で少し多く稼いだ日はソースとか買って食パンにつけて食べてました。もうオーストラリアの食パンマスターです。」
「そ、そうなんだ……大変だったね………」
「全然旅楽勝じゃないじゃん金丸さん………って思いながら食パン食べてました。5日間くらい食パンしか食べてない日とかありましたよ。きつかったなぁ………」
「じゃあ今すごい贅沢なんだね。」
「本当っすよ!!毎日ラーメンとか食べて。奇跡でしかないですよ。最初のころからしたら………あ!!すげぇ!!金丸さん、俺の全財産7千円もあります!!うわー、マジ余裕だやべぇ、こんなにあるよー。ところでアジアって稼げるんですか?」
幸せそうにビニール袋の中にコインを入れるイクゾウ君。
今世界で1番危ない旅人、小林イクゾウ。
図書館でネットをして日記を書き、今日も路上いってみようかな。
俺もほとんど毎日歌ってるけど、たまには休みを取る時もある。
でもイクゾウ君はオーストラリアに来てから移動以外の日は必ず歌っているそう。完璧休みなし。
まぁ確かにイクゾウ君はまだまだ稼げていない。
1日良くて30ドルとか。
そりゃ毎日やらないとやっていけない。
俺も路上始めたころは本当に稼げなくてへこたれそうになってたなぁ。
そんな中で開き直って絶対にこれで食う、と決めてから少しずつ稼げるようになり、今こうして海外を回れている。
下積みゼロで出てきたイクゾウ君。
今世界で1番危ない旅人。
「夢は日本に帰ることです!!行ってきます!!」
イクゾウ君と別れて俺はマーチンプレイスの地下道へと向かった。
オーストラリアは物価の高い国。
タバコが1箱2000円以上するというのに人々は普通にそんなタバコを吸っている。
それはもちろん給料もいいから。
普通のバイトの時給が2000円とかだし、時給2500円なんて日本のキャバ嬢が稼ぐような金額をマクドナルドの店員がもらっている。
なのでおそらく爆発的に稼げるはず!!
と踏んでオーストラリアにやってきた。
1ヶ月の滞在で20万くらい貯めて、それからニュージーランド、シンガポールでさらに貯め、稼げないであろうアジアの旅費を作って日本へラストスパートっていう完璧すぎる流れを計画していた。
いやー、ハラハラドキドキの旅を期待されてるみなさんにはもうこっから先は危険な国もないし、順風満帆でいかせてもらいます、と思っていたんだが………
シドニー、稼げねぇ…………
人が立ち止まらない…………
シドニーにはたくさんのパフォーマーがいる。
ギター弾き語り、サックス吹き、ダンサー、
もちろんホームレスまがいの下手な人も多いけど、みんなそれなりにレベルは高い。
そしてほぼ全員スピーカーとマイクを使っている。
稼げないのは激戦区だから俺の実力不足、ってのももちろんあるけど、ええ?!この人めちゃくちゃ上手くてカッコイイ!!っていうパフォーマーが誰からも見向きもされていない状況を何度も見ている。
ダンサーがウルトラCのアクロバットをキメても誰もお金を入れなかったりしてる。
イクゾウ君が言うにはシドニーに来てから本当にパッタリ稼げなくなったそう。
それまで北の町ではそれなりに紙幣も入っていたみたい。
やっぱりシドニーほどの大都会になるとみんな時間に追われて忙しく歩いていて、何かにかまっている暇はないといった雰囲気だ。
足早に通り過ぎる人たちからコインをもらいつつ、3時間やって疲れてギターを置いた。
あがりは45ドル。
これ以上シドニーに長くいる価値はない。早く北に移動してしまおう。
ウールワースに行くとイクゾウ君が頑張って声をあげていた。
足早に通り過ぎる人たちに向かって翼を下さいを歌っている。
い、イクゾウ君が翼を下さいとかリアルすぎて涙で街明かりがにじむ(´Д` )
「どうだいー?」
「全然ダメっす…………まだ10ドルくらいですよ………」
力なく笑うイクゾウ君。
今日はお互いパッとしなかったな。
「よし!!もう景気つけにラーメン食べに行こう!!」
「毎日食べてますけどね!!」
てなわけでいつもの激安ラーメン屋さんへ。
トンコツラーメン食べてしまいました。元祖長浜行きてえ!!!!!
稼げはしなかったけどノーテンキな2人なので今日も話をしながら大笑い。
いつも大笑い。
顔の筋肉が痛くなるくらい笑わせてくれる。
「今までやった中で1番しょうもなかった仕事はシュウマイ工場ですね。俺の仕事なんだと思います?ベルトコンベアーに乗ってシュウマイが流れてくるんですけど、たまにシュウマイの上のグリーンピースが外れてるやつがあるんですよ。それはもう商品にならないから抜き取るんです。いくぞうくんー、これグリーンピースついてるじゃないのー、とか怒られるんですよ。この仕事どうやって履歴書に書けばいいかわかんないですよ。誰も金貸してくれないんですよ、信用ゼロですよ。」
爆笑。
「そもそもベルトコンベアーの勢いがすごすぎて流れて来るときにポロポロポロポログリーンピースが取れていってるんですよ。ダメでしょ。」
寝床の人工芝の上で転げ回って涙が出るほど大笑い。
あー、面白すぎる………
「なんか血迷ってる時にホストやったりパチンコ屋のサクラやったりしてる時に、もうなんかわけわかんなくなってたんです。その時金丸さんのブログ見て世界一周に行こうって決めて金丸さんにメールを送ったんです。そしたら金丸さんが根性とギターと寝袋があれば楽勝ですって返事くれたからもう行くしかねぇって感じで出てきました。」
いやー、俺の文章力ではイクゾウ君の面白さの3分の1も伝えられないなぁ。
なんか世界一周に出る前までお笑い芸人になろうとしていたらしい。
とにかくやりたいと思ったらなんでもやる、そんな人生を送ってきたという。
その行動力は半端じゃないな。
「お金ないからずっとヒッチハイクだったんですけど、高速道路の横の草の上でこうやって寝てました。車に踏まれないために。で雨が降ってきたら寝返りうって荷物を上にして濡れないようにするんです。旅全然楽勝じゃねぇ……って思いながらここまで来ました。」
この男がこれからどんな旅をしていくのか楽しみでしょうがないわ。
笑い疲れて寝ることに。
俺は寝袋も蚊帳もマットも持っている。
でもイクゾウ君は何も持ってない。
なんかタオルケットみたいなやつを体にかけるだけ。
「イクゾウ君、それなに?」
「え?これシェルターでもらった絨毯です。絨毯の下に人がいるっておかしくないですか?ウケるわー。」
そんなこと言いながら絨毯の下に潜り込むイクゾウ君。
断言しよう。
今世界で1番翼をくださいを心を込めて歌える旅人、小林イクゾウ。