3月17日 月曜日
【チリ】 イースター島
行く当てのない夜。
暑くて眠れなくて、眠ることを諦めて1人歩いた。
車を置いたまま、戻ることなんて考えずにどこまでもどこまでも。
知らない町の郊外で汗だくになりながら。
国道が夜にのびて、トラックがたまに轟音をあげて走り去る。
外灯がポツポツと並んでいる。
大きな駐車場には車は止まっていない。
しばらくすると大きな橋が見えて、その上から埋立地の工場地帯を眺めた。
新鮮な汗の臭いが立ちのぼり、顔にはりついた髪をかき上げる。
無機質な白い明かりが工場を照らしていて、それを眺めている自分はとても小さく、夜の中に1人でポツリといるととても自由な気がして、どこにでも行けそうだと思った。
あの夜、すごく生きてる気がした。
どこかの夏の日。
ノスタルジアは夜の砂鉄
静かに静かにまとわりついて
夜が壊れていくよ
石油工場の向こう
夜が壊れていくよ
可愛い女の子の恥じらいが
赤くなる 赤くなる
昔作った歌だけど歌詞書き換えようかな。
たくさんのモアイの向こうー、赤くなるー赤くなるー。
日の出モアイからモアイづくしの1日の始まりだ。
このまま昨日行けなかったモアイ切り出し場に行きたいところだけど、朝が早かったのでまだ全員がチケットを買えていない。
てなわけで一旦村に戻ってまずはチケットオフィスへ行き入場券をゲット。
それからみんながまだ行っていないオロンゴエリアに行くことに。
俺はもうすでに1回来ているので、車の中で待っていることに。
海に面した丘の上なので風がビュービュー吹いて、しかも雨も降ってきた。
大丈夫かな?と1人で車の中で日記を書いていたら、みんなが濡れながら走って帰ってきた。
ここは天気がいい時に海と火口湖が綺麗に見られるというだけで、そこまで面白い場所ではないんだよな。
ここで60ドルの片方ってのはちょっと残念。
よーし、これでもう全員残すところモアイ切り出し場のみ!!!
天気が悪いけど、俺の晴れ男パワーで快晴にしてやる!!
そしてやってきたモアイ切り出し場。
すっげえええええええええ!!!!!!!
モアイが埋まってる!!!!
ていうかモアイがはえてる!!!
山の斜面にバラバラに散らばるモアイたち。
傾いたり、倒れたり、頭の先っぽだけが地面からのぞいていたり。
倒れて折れてるやつもたくさんそこらへんで草に覆われているし、まだ切り出し途中だったモアイとかが岩壁に同化している。
マジですげえ。
モアイの巣窟。
モアイ祭り。
こんな正座してるやつとかもいる。
キッチリ正座ですね。
なんだこの不思議な空間は。
モアイという生き物が岩の中から無限に分離して出てきて、モアイモアイ言いながらひしめいてるイメージ。
平和にモアイたちが動き回っていたらある日、突然時が止まってしまってモアイ動かなくなったみたいな感じ。
なんかわけわかんねぇこと言っちゃってるけど、そんな妄想してしまうほどにモアイたちの群衆がそこら中で地面の中から顔を出している。
あああ………すごい、すごいよー、モアイがこんなにいるよー、モアイが夢に出てきそうだー、この数日でモアイって何回書いただろうー。
って、いい写真撮りたいんだけどものすごい曇天。
逆光と空の雲でモアイの顔がよく見えねえええ………
って思いながらもなんとかiPhoneで撮っていたらポツポツと雨が降り始め、あっという間に凄まじい土砂降りになった。
うぎゃー!!見渡す限り屋根とかひとつもねぇ!!!
しかも入場ゲートから1番遠いところまで来て降り出すというナイスタイミングで、もはや逃げることも出来ずお手上げ。
一瞬でパンツまでぐちゃぐちゃになり、他の観光客たちもみんな笑いながらびしょ濡れ。
なにも出来ずにモアイの横で雨に打たれるのみ。
あー!!iPhoneがやべええええええええ!!!!!!
あと少しでiPhone水没、というところでピタッと雨が止んだ。
はーいバモース、と何事もなかったように歩き出す別グループのガイドのおじさん。
島の天気は変わりやすい。でも勘弁してくれよ………
監督やエッちゃんはみんなキャーキャー言いながら走ってどこかへ逃げて行ったので俺1人だけ残っちまったなと思ったら、あの日本代表サッカーのユニフォームを着た謎のクールガイ、ジュンさんも俺と一緒に残って雨に濡れていた。
「あ、た、大変でしたね。」
「そうですね、カメラがやばいですよ。」
そう心配そうにカメラを懐から取り出すジュンさん。
雨も止んだので2人で話しながらモアイの中を歩いた。
クールだけど話すとすごく熱いというか、真面目で、そして面白い人だ。
なんかすごく信頼できる男だな。
昨日1日ほぼ会話してなかったのに、2人でぐるりと雨上がりの切り出し場を見て回ったらすっかり打ち解けて、メンバーの中でも1番仲がいいくらいになっていた。
「金丸さんってブログやってますよね。」
「あ、はい。ジュンさんはやってないんですか?」
「やってますよ。ランキングもちょっと前までやってたんですけどやめました。」
「え?なんてブログですか?」
「知らないですよ、藤井大陸ってやつです。」
「え!?藤井大陸!!?知ってるし!!ワールドカップに向かっていくやつですよね!?」
ランキングに突如現れたサッカーをテーマとした世界旅ブログ。
異色の存在感を放ち、日本代表の本田や長友などほぼ全員とのツーショット写真&サインをゲットしたりなど、サッカーファンにとってはたまらないブログだった藤井大陸。
なのだが突如ランキングから消えてしまったんだよな。
ジュンさんがあの藤井大陸の人だったなんて。
「本田とのツーショットとか載せてからめちゃくちゃブログの人ですよね!?とか言われるようになって。なんか調子に乗ってる自分が嫌でランキングはずれたんです。」
おおお………
耳が痛い(´Д` )
俺、調子乗りまくりです(´Д` )
なんかあの硬派なブログの感じそのままな方でさらに嬉しくなって、すっかり仲良くなって駐車場に戻ると、みんなが車の中で待っていた。
ごめんごめんと車に乗り込んだ。
村に戻ってそれぞれの宿でお昼ご飯を済ませる。
これで一通りイースター島の観光は終わった。
でも、
なんだかまだ足りない。
こんなもんでいいのか。あのイースター島だぞ?
もう2度とこの人生で戻ってくることはないかもしれない。そう簡単にまた来られる場所ではない。
なのにこんなにあっさり回るだけでよかったのか?
最後の切り出し場は雨でほとんどゆっくり見ていないし。
なんだかモヤモヤしながらキャンプ場な迎えに来てくれたみんなの車に乗り込む。
「さてー、車はまたレンタルしてるのでどこかまだ行きたいところはありますかー?」
「んー、もう全部行ったしねー。」
「ねぇ、もう1回切り出し場行かない?私たちほとんど見てないし。」
「それめっちゃ賛成。行こう!!」
エッちゃんナイス!!
さすがAV女優!!エロいだけじゃない!!(AV出ていません)
そうだよ、もう1回行かないとダメだ。
まだ何も感じてないよ。モアイの気持ちも、ラパヌイの想いも。
もう戻ってこられないんだ。
今、心から対話しないと。
もう何度も走った海沿いの道を飛ばす。
島の天気は変わりやすい。
さっきまで空を覆っていた厚い雲はどこかに消え去り、太陽が海をきらめかせている。
崖の上を歩く馬のたてがみが風に揺れる。
草原に伸びる石を積んだ何かの跡。
波打ち際の祭壇らしきもの、倒れたモアイ。
全てが優しく胸を打つ。
こんなに美しく時間は流れるのに、その時間が全てを朽ちさせてしまう。
モアイだけがこの島の全てを知っているんだ。
そして切り出し場に戻って来た。
青空の下でモアイが島を水平線を見つめていた。
明るい太陽の下で見ると、モアイモアイ言いながら動き回っていたはず、なんて妄想はなくなってしまった。
ただ静かに、時間にさらされているだけだった。
無表情な顔が、歴史に戸惑っているようにも、受け入れてるようにも見える。
ワイワイ写真を撮っているみんなと離れて、見晴らしのいいベンチに座って海を眺めた。
綺麗だなぁ。
静かだなぁ。
完璧に自然の音しかしない。
ずーっと海を眺める。何も考えずに。
何にもない草原の中にモアイが15体立っているのが見える。
さっきあそこから太陽が昇ったんだよな。
なのにもうこんなに反対側まで移動してる。
鳥が鳴きながら飛んだ。
雲が綺麗だな。
あー、なんかお腹空いてきた。
さっき茹でたパスタだけじゃ足りなかったな。
よし、帰ろう。
さてー、このまま市内の爛漫に行ってチキン南蛮とガーリックソテーのセット食べようかな、あ、でも南バイパスのココイチでソーセージカレー1辛ってのも捨てがたいっていうかここサンメッセ日南じゃねぇ!!
よし!!これくらいでいい!!
モアイ!!次は日南で会おう!!
パワーストーンとか言う丸い石を触りに行ったり、磯の波打ち際でのんびり海を眺めたりしながらみんなでおしゃべりしたりして、村に戻った。
もう大満足だよ。
エッちゃん、監督、みんな、レンタカーの仲間に入れてくれてありがとうね。
「エッちゃん、お礼におっぱい揉んであげる。」
「バカじゃないの。下手には触らせないの。」
「僕の揉んでええええ!!男に揉まれたい!!ばあああ」
ビール数本ですぐに変態スイッチが入る監督。
そして今日もアイネちゃんの肌は日本3位くらいに綺麗。
「そのけがれのない肌を汚してやるううううう!!僕のこの髪の毛をむしって君のスプライトの中にたくさん入れてええええ」
「監督。ちゃんとしようか。」
「はい、すみません。」
今日も藤井大陸ジュン君のポイントをおさえた突っ込みが冴える。
さぁ、とうとう明日はイースター島で過ごす最後の1日。
観光は充分にした。あとは明日どれだけ面白い出会いを作れるか。
この島だもん、きっと何かあるような気がする。
あーもう、イースター島大好きだ。