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インディアンたちのパレード

2月6日 木曜日
【エクアドル】 テナ






2段ベッドの上で泥のように眠った。

2月だというのに薄いタオルケット1枚で充分なほどの気温。



朝のジャングルは幽玄とした静寂がひやりと森を包んでいる。

鳥の鳴き声が何重にも聞こえ、心地よく目を覚ました。






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スペイン人の女の子たちが朝ごはんを作ってくれた。

ココナッツの実をくり抜いた器にたっぷりのバカモレ。

バカモレとは中南米でよく食べられる、アボカドとトマトとニンニクをペーストにしたものでこれをパンにつけて食べるとすごく美味しい。

家の裏の森の中から切り出してきた何かの葉っぱを煮込んだお茶を飲む。
穏やかなジャングルの朝。









子供たちが元気に駆け回る中、何やらバタバタとリーナが身仕度をして出かけて行った。

ちょっと忙しいみたいでまだサンペドロ作りには取りかかれないみたい。

まぁ俺もここまで来たら今週いっぱいは時間をとるつもり。
ジャングルの生活も悪くはない。

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というわけで今日はマリアンナたちと仕事をすることに。

ギターを抱えて3人でバスに乗って町に向かった。

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もうすっかり慣れ親しんだテナの町。

早速レストランを回って演奏していく。

俺とマリアンナのレパートリーも少しずつ増えており、客層やお店の雰囲気に合わせて曲をチョイスするとお金の入り方もよくなる。

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1時間半くらいかけてレストランを1周すると平均金額の40.69ドルに。

いつものピザ屋さんでカウントすると、ヘロニモたちが取り分は、マリアンナ40%、俺40%、ヘロニモ20%にしてくれと言ってくる。

2人は毎回こう言ってくる。

確かに歌ってるのは俺とマリアンナだ。

でもヘロニモは最初の雰囲気作りの自己紹介、そしてお金回収の役割を担っている。

ヘロニモたちにとっては取り分を減らしてもいいような簡単な仕事かもしれないが、俺にとってはとても大事な仕事だ。

キチンと3等分にする。

俺とケータ君の時は5セントくらいだったら切り捨てて数えたりしてたけど、ヘロニモとマリアンナはキッチリ1セントまでカウントする。


いつもそう。

コーラを買っても、お菓子を買っても、俺がお金を出してこれくらい別にいいよと言っても、ちゃんとしないとダメだよと1セントまでキチンとワリカンにしてくれる。

俺はそこまで細かく計算する性格ではないんだけど、2人のその真面目で誠実なところが大好きだ。









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ピザを終えてゆっくりしていると、何やら外がガヤガヤと賑やかになってきた。

みんな道路ぎわにイスを出して座り、何かを待ちわびているような様子。


表に出てみると、町の真ん中を通るメインストリートの両側にズラリと人だかりができていた。

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「なんかのお祭り?」


「パレードがあるみたいだよ。俺たちもイスに座って見ようぜ。」


ヘロニモたちとピザ屋さんのイスを借りて道路ぎわに陣取った。

この期待が高まる感じ、日本のお祭りを思い出すな。










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しばらくすると遠くの方からラテンの陽気な音楽が近づいてきた。

爆音を流しながらゆっくりと進んでくる車の後ろにたくさんの色鮮やかな衣装に身を包んだ人たちが踊りながらやってくる。

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世界中のパレードを見てきたけど、衣装ってのは地域性をよく表す。

日本の甲冑姿やお公家さんの着物のように。


南米のジャングルの中の町で行われるパレードはまさにジャングルを表現した、インディアンの人々によるものだった。

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外国人が日本のパレードで甲冑姿を見て興奮するようなものかもしれないけど、この南米のインディアンの人たちは普段から民族衣装を着ているのでそれほど特別なものではない。

でもそれがまたエクアドルという国がいかに純血のインディアンたちによって成り立っている国なのかがよくわかる。
テナみたいな田舎の町なら当然インディアンの文化が色濃く根付いている。

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リーナが朝から忙しく出かけて行ったのは、どうやらこのパレードに参加するためだったようだ。
彼女もまた純血のケチュアのインディアン。

カナダで同性愛者たちによるプライドパレードを見たけれど、これはインディアンたちによるプライドパレードか。

いや、そんなマイノリティが市民権を得るためにやっているようなものではないか。

ケチュアのケチュアによる、ケチュアのためのパレードだ。

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地元企業や大企業がスポンサーについているようで、その広告を大々的にアピールしたグループが混じっていたりするところに健全さを感じるパレード。

見世物的なものだけではなく、サッカーチーム、ボクシングチームなどのグループがスポーツを推奨し、怖いお面をかぶった化け物が子供を追いかけ回して泣かしまくっている。

なんとも微笑ましい、地域密着のパレード。

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広島に、鬼の仮面をかぶった人が子供を追いかけ回して棒みたいなものでマジの本気でぶん殴りまくるというイカれたお祭りがあるみたいだけど、見てみたいなぁ。

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怖がってねぇ。

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ちなみに日本に帰って1番見てみたいお祭りは越中おわらです。





それにしてもインディアンの女の子の健康的な美しさが光る!!

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お!!ただの富良野のへそ祭りじゃねぇか!!

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そんな楽しいパレードが終わり、人が帰っていく町はゴミで溢れかえり、清掃員の人たちがゴミを片づけている。

みんなパレード帰りにレストランに入っていく。

さぁー!!いいもの見たし人は多いし、こいつは稼ぎどきだぞー!!


というところで雨が降ってくる。

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それでもギターにヘロニモの上着を巻きつけて雨に濡れないようにしてレストランを回っていく。



パーティー帰りの人たちで賑わう食堂では人々の反応もよく、さらに娘の誕生日だからいきなり行って歌って驚かして!!というオファーまで。


そういうことならお任せを!!と、もうどうしようもないくらいの土砂降りの中、びしょ濡れになって1軒のレストランに飛び込む。


そして連れて行かれたのは満席で賑わうお店の厨房。



え!?こ、こんなとこ入っていいの?!ってくらい狭い厨房の中は戦場のようになっており、バタバタと女の人たちが忙しく料理を作ったり盛りつけをしたりしている。


外を見るとオファーをくれたお母さんが今よ!!みたいな顔をしてる。


い、今!?


もうどうにでもなれとそんな厨房の中で演奏。


「~番テーブルのサラダまだ!?」

「~番テーブルのピザは!?」


ドタバタと走り回っている中でハッピーバースデートゥーユー。

みんな俺たちをよけながら動き回っている。


迷惑でしかねぇ(´Д` )




まさかこんなとこに来ないだろうっていう点ではサプライズ成功ではあるな。

これ日本だったらマジでぶっ飛ばされるレベルだけど、やっぱりラテンの人たちはなんでもOKなんだよなぁ。

なんとこのサプライズでお母さんから20ドルものおひねりをいただいてしまった。

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雨は激しさを増す一方。
もはや演奏は無理なのでこの辺で切り上げて帰ることに。


「フミ、ちょっと待っててね。」


そう言って近くのお店に走っていくマリアンナ。

戻ってくると、手にビニール袋を持っていた。

それをギターをかぶせてくれる。
少しでも濡れないように、入念に。

ありがとうな。

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夜のあがりは49ドル。










タクシーを捕まえてリーナの家に戻ると、みんながご飯を作っていた。

アルゼンチン人とスペイン人の女の子が3人増えたので、やはり料理の手際もいい。


もちろんビールはなし、そしてお肉もなし。


ジャングルの中には雨がバタバタと叩きつける音だけが響いている。







スペイン人のパウラがこっそりと俺の手を引いた。

どうした?と思いながら連れられて外に出た。


料理を作ってるみんなの楽しそうな声が向こうに聞こえる。





真っ暗な草むら、上を向いて気持ち良さそうに雨を顔に浴びているパウラ。

俺の体も髪の毛も濡れていく。

パウラがそんな濡れた俺の顔をなでてくる。

雨の音だけが聞こえる。







「おーいフミー、ご飯出来たよー。」


マリアンナが向こうで呼んでいる。

パウラとニコッと笑ってみんなのもとに戻った。

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