12月30日 月曜日
【コロンビア】 イピアレス
~ 【エクアドル】 キト
「金丸さん………金丸さん……着いたぎゃー。」
「え?……え?イピアレス?」
「ほだらー。行くだぎゃー。」
ゆうべ明かりの消えた真っ暗なバスの中で日記を書いたり、消去されてしまった地図のピンの打ち直しをしているうちにいつの間にか眠っていた。
南米のバスの中ではあまり眠りたくない。
いつ物を盗まれるかわかったもんじゃない。
眠りながらもiPhoneやお金の貴重品は腰の後ろに隠して取られないようにしていた。
バスを降りた瞬間、冷んやりとした空気が体を包んだ。
今までのメデジンが汗をかくくらい暑かったのだが、驚くくらい一気に気温が下がった。
ダウンが必要なくらいの温度。
周りを見てみると、坂の斜面にびっしりと敷きつまった家々。
曇天の空が僻地の空気を演出する。
かなり高地に来ているんだろうな。
雲が低く、山脈に抱かれた町という雰囲気。
馬車が乾燥した砂埃を立てる町、イピアレスに到着だ。
バスを降りるとタクシーの客引きのおじさんたちが群がってきた。
こんな田舎町なのに、とりあえず外国人だからちょっと値段を上げようという客引きをしてくるところが、この町に訪れる旅行者の数を物語っている。
それくらいメインの国境。
誰もが通過する町。
しかしこのイピアレスはただ通過するだけにしてはあまりにももったいない町。
タクシーのおっちゃんたちが言ってくるのは、フロンテーラか?!とラスラハスか!?のふたつ。
フロンテーラとは国境という意味。
コロンビアを出てしまう前に、もうひとつのラスラハス行きのコレクティーボに乗り込む。
15分ほどの距離で2000ペソ。1ドル。
乗り合いタクシーはアップダウンの激しい道をブンブン進んでいく。
窓の外には深くえぐれた谷と川と切り立つ雄大な自然が広がっている。
それはまるで絵のような目を疑うスケール。
そうだ、ここはもうアンデス山脈なんだ。
標高も2000メーターを超えているはず。
コレクティーボはそんな山道の途中で止まった。
周りに少し民家が見える。
坂道をおりて行くと、そこには土産物屋さんや食堂が並び、たくさんの人たちが歩いていた。
寒い気温に、みんなジャケットやダウンを着ている。
まるでお寺の参道みたいだ。
それもそのはず、ラスラハスとは教会のこと。
イピアレスに綺麗な教会があるから是非見といたほうがいいとの情報をゲットしていたんだけど、こんなに人が集まるような一大観光地なんだ。
土産物通りの入り口で、一軒のお店のおばちゃんが荷物うちに置いていきなさいーと声をかけてくれ、お言葉に甘えて身軽になり出発。
ズラリと並ぶお土産屋さん。
その間にインディアンのおばちゃんたちの物売りの姿も。
女の人なのに、男性用みたいな黒いハットをかぶっているのがとても印象的な彼女たち。
浅黒い肌とアジア人のような顔つき。ハットにつけたクジャクの羽が美しい。
アンデスの民ってやつだ。
坂道は川でえぐれた深い谷の下へと続いていく。
まるでナウシカかラピュタみたい。
かなり下まで降りてきたところで、突如ものすごいものが目に入った。
こいつはすげー。
こりゃ観光客来るわ。
山の谷に白亜の壮麗な教会が立っていた。
切り立つ崖にへばりつくように作られており、川にかかる橋と一体になりまるで中世のおとぎ話みたいな雰囲気。
教会内もまた美しく、驚いたのは奥の祭壇の壁が、そのまま崖の岩肌になっているとこ。
日本にも崖や大岩に埋め込むように作っている社寺はたくさんあるが、教会で見たのは初めてだ。
セレモニーが行われており、たくさんの人が神に祈りを捧げていた。
観光客も地元の人も。
外には無数のロウソクが立てられた岩や、ちょっとした滝が流れ落ちていたり、久しぶりにちゃんとした観光地ってとこに来た気分。
こんな山奥の何もない深い谷間にひっそりと佇む美しすぎる教会。
おとぎ話に出てくるようなシチュエーション。
世界遺産にもなってもおかしくないレベルだよ。
イピアレスのラスラハス教会。
ヨーロッパで教会はたっくさん見てきたけど、それらにひけを取らないレベルだわ。
参道の食堂でご飯を食べ、荷物を受け取ったら、またコレクティーボを捕まえてイピアレスのバスターミナルに戻る。
そしてここから国境行きの車を探す。
まぁ客引きがいっぱいいるから見つけるのは簡単なんだけど、みんな5000ペソとかふっかけて来るんだよな。2.5ドル。
ラスラハス教会に行くより全然近いのに、倍以上の値段とか舐めてるにもほどがある。
高いよと言うと荷物が多いからなと素っ気なく言ってくる。
乗らないんならいいんだよ、あっち行って、困るのはお前らだよ、みたいな雰囲気が若干頭に来る。
「高いぎゃー!!なんでそんな高いらー!!嘘ついたら地獄に落ちるでらー!!」
ナオちゃんが小さい体でピーチクパーチク文句を言うが、おっさんたちは、なんだこのヒヨコは?みたいな顔でまったく相手にしてくれない。
そんな中、コレクティーボに声をかけて回り、2000ペソ、1ドルで行ってくれる車を発見。
さっさと乗り込んだ。
コレクティーボは年末の活気に賑わうイピアレスの町の中を走り、あっという間に国境のカスタムの前に到着。
ドライバーにお金を払う。
お釣りをくれる。
金額が違う。
「おい、おっさん、1人2000ペソって言ったよな?なんで3500ペソとってんだよ?」
「エスパニョーラ、サルササルサ、ボテロ?」
すっとぼけてるおっさん。
なんで言ったことをくつがえすんだろう?嘘なのに。
文句を言っているといつものようにワラワラ集まってくる野次馬たち。
もちろんスペイン語なので何言ってるか全然わからない。
スペイン語わからないと言うと、スィースィーと言いながらそれでもスペイン語を話し続ける。
こうなると大体毎回、どれどれ!!どいてろ!!俺が話してやる!!みたいな感じで偉そうにやってくるおっさんがいる。
おっさん登場。そしていつもの第一声。
「ユースピークイングレス?」
「イエス、喋れます、このドライバーが2000ペソと言ったのに3500ペソ取ったんです。」
「ボテロボテロ、コロンビアカリブ!!」
はい、最初の一言以外全部スペイン語で余計なおっさんが増えただけ。
わーわーと口々にわめくおっさんたち。
まるで国会の政治家みたいだ。
あー!!もういいもういい!!
80円くらいいいよ!!
タバコ2箱買えるね!!よかったね!!
悔しがってるナオちゃんと一緒にイミグレーションへ。
まずはコロンビアの出国手続き。
2秒で終了。
そこから歩いてエクアドルへ向かう。
「やったぎゃー!!歩いて国境越えだぎゃー!!でら嬉しいもんでー。」
ナオちゃん、今回の旅5ヶ国目。
まだ5ヶ国目なのに、ジャングルの渡し舟、カリブ海の地獄の漂流、そしてゲリラをかいくぐっての徒歩越えと、まずほとんどの人が避けるようなハードコースばかりの国境越えをクリアーしていってる今時の山ガール。
旅人レベル上がりまくりだよ^_^
小さな川にかかった橋を越えて、今度はエクアドル側のカスタム。
かなりの人ゴミでごった返しており、イミグレーションには長蛇の列。
50円のアイスクリームを食べながら列に並び、ちゃちゃっと入国カードを記入して窓口へ。
はい2秒でスタンプゲット。
入国税もめんどうな質問も、なんなら荷物チェックも一切なし。
エクアドル入国だ。
まず目指すのはエクアドルの首都、キト。
アンデスの山に抱かれた標高2800メートルに位置する街らしい。
2800って富士山の7合目くらいかなぁ。
だったら多分大丈夫。
富士山頂上では頭痛で苦しんで、せっかく1合目の森の中からギター担いで上がって日の出とともにゲリラライブといきたかったんだけど、あまりにも痛くて2曲しかできなかったんだよな。
3600メートルを越える標高の街があったら路上は無理だな。
キトに行くためには、まずこの国境からトゥルカンという最寄りの町まで行かないといけない。
1人1500ペソの乗り合いバン。15分の距離かな。
バンは小さな町の中を走り抜け、バスターミナルに到着。
降りた瞬間、客引きのおっさんたちがキトキトキトキトーーーー!!!!うっひょおおおお!!!!と群がってくる。
「よーし!!わかった!!5ドル?5ドルだよな!?」
「スィースィー!!5ドル!!バモス!!」
俺たちの荷物を持って勢いよく階段を降りていくオッさん。
急いでついていくと、だだっ広いバスの発着場があり、1台のバスが動き出していた。
そのバスを追いかけるオッさん。
そして荷物を荷台にぶち込んだ。
ぶち込んだ途端、加速して走り出すバス。運転手は気づいてないみたい!!!
「おおおああ!!!ちょ、ちょっと待てええええええ!!!!」
「待ってぎゃー!!」
ダッシュで走って入り口に飛び乗った。
はぁはぁ………
て、ていうかこれキト行き!?
まぁいいか、多分大丈夫だろ。
という最速の乗り換えでキト行きをゲットし、バスはぶんぶんと山道を走っていく。
坂を登り、カーブをクネクネと曲がり、どこまでも登って行く。
しだいに窓の外の景色が見慣れないものに変わっていく。
んー、なんか雲が低いなぁ。
ん!?低すぎじゃねぇか!?
目の前に広がる山に雲がもっさりとかかっている。
霧ではない。完全に雲の高さにまで標高が上がってきている。
日本だったら高い山のかなり上の方にまで登らないと見ることの出来ない光景が、バスの車窓に広がっている。
おいおい、なんだよこれ。
まるでロードオブザリングみたいに壮大で果てしない物語の中にいるような気分にさせてくれる。
ここはもうアンデスの懐。
コンドルは飛んでいく、のあの孤独で寂しげな笛の音が聞こえてくるようだ。
そんな山の上に小さな町があったりするんだけど、完全に雲に覆われており見えなくなっている。
雲の中で暮らしているなんてどういう気分なんだろう。
もうほとんどおとぎ話の天空人だ。
幻想が入り混じり、目の前に浮かんでは消える。
バスは5時間以上のドライブで暗くなった街の中に入ってきた。
キトだ。
エクアドルの治安についてだけど、まずキトにおいてはそこまで悪くはないみたい。
古い町並みが世界遺産に登録されており、たくさんの観光客がひっきりなしにやってくる一大観光地なので、警察も治安維持に力を入れているみたい。
ただやはり行ってはいけない場所、歩いてはいけない時間帯などはキチンと把握しておかないといけない。
キトで観光客が訪れるのは旧市街と新市街のふたつのエリア。
旧市街はスペインに征服された当時のヨーロッパの面影を色濃く残す歴史地区でたくさんの観光客がひしめいているんだが、夜になると閑散とし、治安が悪くなるという。
有名な日本人宿のスクレはこの旧市街にあるそう。
そして新市街はというと、綺麗なバーやレストランがひしめく整備されたエリアで、夜中までクラブがドンチャン騒ぎをしているので出歩いたって問題ナシ。
欧米人向けのホステルや安宿が点在しており、治安を考えるとこちらで宿を取ったほうが良さそうだ。
というわけで新市街へと向かうわけだけど、このバスターミナルもなかなか治安が悪いという話。
いきなり後ろから首を絞めてきて、慌ててるその隙にもう1人の仲間がバッグをかっぱらうという首しめ強盗ってやつがよく出るらしい。
時間も時間だし、とっとと移動してしまわないと。
ターミナルの中にすぐ市バスの乗り場を見つけた。
待ってる人たちに地図を見せて新市街への行き方を尋ねる。
すると1人の優しそうなおじさんが丁寧に教えてくれた。
少しだけ英語が喋れるおじさん。ミゲル。
彼と一緒にバスに乗り、乗り換え1本で新市街へと向かう。
大きなバッグを持っている俺たちに、こっちだよ、ここに入りな、とずっと先導してくれるミゲル。
目星をつけていたホテルがあるんだけど、そこの住所を見せると、わざわざ最寄り駅で一緒に降りてくれ、こっちだよ!!うひょー!!とテンション高めに案内してくれる。
ぬおー、いきなりいい人に出会ったなぁ。
すでに暗くひと気のない道を歩いていくと…………見えてきた見えてきた。
ホステルタクソ。
小ぢんまりとした目立たないホステル。
「ミゲル、あった、ここだよ。ありがとう!!」
「ヒャッヒャッヒャー!!!よし飲みに行くぞ!!」
「え!?の、飲み!?どこに?!」
「俺の知り合いがロックバーやってんだ!!メタルは好きかい!?いいいややああああ!!!」
「あ!!フミさん!!フミさーん!!来ましたねー!!」
ホテルの前で話してると、中から日本人の声がした。
こっちに手を振る影。
その声の主は………
エビちゃん、ヨシコさんカップル!!
グアテマラで別れ、俺より遅れて中米南下をしてきた2人だけど、俺がコロンビアにいる間に一気にパナマから飛行機でこのキトに先回りしていたのだ。
「うわー!!久しぶり!!元気にしてましたー!!」
「いやー!!そっちこそ!!グアテマラでiPhone盗まれたのヤバかったですねー!!」
「うちらもパナマから飛行機乗るのすごい大変だったんだよー。エクアドルの出国チケット見せろとか言われてすごいもめたんだよー。」
「いやー、この写真見てくれよ。この女とこの女とこの女!!俺3人も彼女がいてマジ忙しいんだよねー!!よおおーーし!!!」
「ふ、フミさん、この人誰ですか?」
久しぶりの友達との再会になぜかテンションの高いエクアドルのおじさんが混ざっているというシチュエーション。
でもミゲルはめちゃくちゃいい人。
いきなりこの人に会えてよかった。
「よおおおーーーーし!!!飲み行くぞイエエエエエエエエイ!!!!!」
はい、というわけで再会の積もる話もあるんだけど、ミゲルに連れられわけのわからないまま新市街の飲み屋街に行き、ハードロック好きが集まる怪しげなバーでなんか知らんけどハーレー乗りの兄ちゃんたちとしこたまビール飲みまくって泥酔するというエクアドル初日。
「ボオオアオオオオ!!!アイアンメイデン最高おおあああお!!!!!」
「いやー!!俺彼女が3人いてさー!!マジヤバイんだよねー!!」
「ビール持ってこーーい!!!」
30時間の移動からのキト到着、即ビール浴びまくりという謎のシチュエーションでグッデングデンになったけど………
とにかく南米2ヶ国目、無事到着!!!