12月27日 金曜日
【コロンビア】 メデジン
「……アウアウアー………あうー………」
今日も眠そうなカオリさん。
ナオちゃんが作ってくれた朝ごはんを前にしてもウトウトして自分では動けない。
まったく動かないのでみんなでアーンして食べさせてあげる。
口のところに食べ物を持って行くと、パクリと食いつく。
油断してるとゴロンと横になって寝始めるので注意していないといけない。
一度目が覚めると、とことんテキパキした人なんだけどね。
さぁ、今日も行くぞー………
1日1日の歌ってる時間はそんなに長くないんだけど、うるさくて声を張らないといけないのでいつも喉が枯れるまでやっている。
喉の調子はあまりよくないが、コロンビアを出るまでラストスパートで飛ばしてやる。
今日の路上は少し作戦を変えてみよう。
セキュリティがいるのはお昼と夕方まで。
多分夜になったら彼らは帰るはず。
帰ってしまえはやりたい放題になる。
夜のセントロは危険だから暗くなったら帰ってきなさいとカオリさんには言われているが、今夜は金曜。
人がたくさん出るはず。
21時くらいまでなら大丈夫だろう。
というわけで19時くらいからに勝負をかけるとして、お昼の間はケータ君のバイクゲットに付き合わせてもらうことに。
やってきたのはセントロのバイク街。
無数のバイク屋さんやパーツ屋さんがひしめく中、まっすぐに1軒のお店に入っていくケータ君。
スズキの正規店だ。
「金丸さん、これです。カッコイイでしょ。」
ケータ君が指差したのは、スクーターよりもはるかに大きな250cc?のイカしたバイクだった。
中古ではあるけどこれで8万5千円ならめっけもんだよ。
「はい?えー!!マジでー………はぁ、今日受け取る気まんまんだったのに、明日じゃないとダメらしいです………あー!早く乗りたいー!!」
明日早い時間に来てくれとのこと。
まぁ焦らない焦らない。
これから死ぬほど毎日運転しなきゃいけなくなるんだから。
仕方なくお店を出て2人で付属品を買いに歩く。
バイクを買うと一言でいっても、その他もろもろを揃えないといけない。
まずはヘルメット。
そこらじゅうにメット屋さんがひしめいているので選び放題だ。
コロンビアでは半ヘルってやつがない。というか半ヘルは違反なのだそう。
キチンとフルフェイスをかぶらないといけない。
ケータ君は半ヘルがいいみたいだけど、もし事故った時のことを考えるとヘルメットはなるべく頑丈なものであったほうがいい。
山道や未舗装道路も走るだろうから、飛び石や砂埃もひどいはず。
そう考えるとやっぱりフルフェイスが間違いない。
値段はだいたい2千円~5千円くらい。
路上のヘルメット売りの兄ちゃんが面白かった。
この兄ちゃん。
いちいちリアクションが大げさで早口にまくしたててくる。
ケータ君にヘルメットをかぶせて、横のボタンでサンバイザーをサッと下におろして、「ウィセニョ~~ル」と言う。
マジカッケ~みたいな意味かな。
もうその顔とかリアクションが面白すぎて2人で大爆笑。
面白すぎて何度もそのサンバイザーを下ろしてカッケ~のくだりをやってもらった。
オ~~、ウイセニョ~~ル
他にも防犯のロック、ガソリンの予備タンク、パンクしたときの修理キットなど、あらゆるトラブルを想定して道具を揃えないといけない。
なんとかなるは南米では通じないからな。
ロックもワイヤーだけでなくディスクロックも買っといたほうかいいだろうし、できればアラームもあったらいいと思う。
雨具もいるだろうし、荷物をバイクに装着させるための紐みたいなものも必要だろうな。
ケータ君、頼むから気をつけて。
それからショッピングストリートへと向かう。
ケータ君やナオちゃんは今夜プラネタリウムを見に行くそう。
ロマンチストゆーた君が目をキラキラさせて今日のプラネタリウムを楽しみにしていた。
カオリさんも一緒に行って通訳してもらい、専門家の方にお話を聞かせてもらうと言っていた。
プラネタリウムなんて小学校から行ってないなぁ。
ちょっと興味あるけれど、今は歌うこと最優先。
ケータ君たちと分かれて、いつもの定位置にやってきた。
夕方になった通りは金曜日の活気で溢れかえっている。
始める前にいつもの中華料理屋さんへ。
ここのところ毎日ジュースの差し入れをくれるママ。
今日はちゃんと買おうとお店に入る。
たくさんいる店員さんみんなが笑顔で元気かいー?と迎えてくれる。
もうすっかり全員と顔見知りだ。
ジュースをとってレジに持って行くと、予想通りお金はいらないわと言うおばちゃん。
ちゃんと払いますと言っても、顔をしかめて、メッ!としかってくる。
それでも強引に小銭を取り出し2000ペソ差し出すとおばちゃん、受け取ってくれた。
とその瞬間、すごいスピードでレジの中から2000ペソ紙幣を取り出して俺の財布にねじ込んでどっかに逃げて行った。
もう…………両替してもらっただけやん………
おばちゃん、ありがとう。
よっしゃー!!そんじゃ気合い入れて夜路上いってみようかー!!
はい、3曲で20000ペソ近くたまる。10ドルくらい。
やっべえええええ!!!!
コロンビアアアアアアア!!!
でいつものようにセキュリティ登場。
今日はアンナじゃない。
でもみんな顔見知りだ。
「ハイ、フミ。まだちょっと早いわ。20時になったら私たち帰るからそれからならいくらでもやってもいいわよ。」
了解です!!
待っていると隣で演奏を始めた若いジャズブルースのバンド。
20歳らしいけど、全員マジうまかった。
そしてその演奏にあわせて踊るのが、この通りの名物おじちゃん、ミスインディア。
ヒラヒラの服で女装し、化粧をし、メルモちゃんみたいな魔法の棒を持っている。
連れている犬もファンキーな飾りつけをされており、極めつけに頭の上にニワトリを乗せている。
オカマの動きでニコニコと可愛らしく踊るミスインディア。
この前は俺の演奏で踊ってくれた。
ミスターボージャングルのように軽やかにジャンプして着地した。
バンドの演奏も終わったところで、さぁ俺の出番だ。
ガツンとギターを鳴らすと、バンドにも負けないくらいの人だかりに囲まれる。
バンドのみんなが聞きにきてくれた。
子供も大人もカップルも酔っ払ったオッさんも。
みんなが拍手してくれる。
コロンビアは地球の歩き方の本の中でほんの数ページしか紹介されていない。
あんなにありとあらゆる情報が書かれているガイドブックなのに。
しかもメデジンに関してはまったく一切触れられていないそう。
カオリさんがいつも嘆いている。
たしかにコロンビアは見どころが少ない。
特にメデジンは物価も結構高いし、ボテロの銅像以外はなにもない、ただの都会だ。
でもだからこそ、何もないからこそコロンビアの素の顔を見ることができる。
観光地ずれしていない、この南米の経済国である光と影と、優しさと冷たさと。
いや、冷たさなんてほぼないな。
メデジンはこんな大都会なのに、みんな笑顔で人懐こい。
そして困っていたらどこまでも親身に助けてくれる。
何もないことに親近感がわくのは、コンクリートだらけの日本で育ったからかもな。
ネオンが灯る通りにべサメムーチョの大合唱が響いた。
「金丸さん、そろそろカオリさんが心配するから帰りましょう。」
プラネタリウムを終えて戻ってきたケータ君とナオちゃん。
カオリさんたちはもう先に帰っている。
あんまり遅くならないようにね!!って念を押されたみたい。
通りはまだまだ人が歩いており、やればやるほど稼げそうだ。
でもカオリさんを心配させるのは心苦しいし、みんながご飯を作ってくれているはず。
帰って手伝わないと。
22時前にギターをしまう。
今日のあがりは72000ペソ。38ドル。
タクシーをつかまえてすぐに家に戻った。
「あー!!大丈夫だった!!本当に大丈夫だった!?セントロは危ないから夜は気をつけて、毎日やってたら稼いでることを知られてしまうから。」
カオリさんが心配性なのか、俺が楽観的なのか。
これまでたくさんの場所に行ってきて、危険を嗅ぎ分ける力はまぁまぁあるほうだと思う。
心配しすぎですよ、と言いそうになる。
でもそれは言ってはいけない。
南米ではほんの少しの油断が命に直結することは俺も自覚している。
心配しすぎるくらいのカオリさんが完全に正しい。
油断はどうしても生まれる。
常に気を張っているのは難しいもんだ。
攻める気持ちが蛮勇にならないよういつも冷静に周りをみていなきゃな。