11月8日 金曜日
【メキシコ】 パレンケ
目を開けると、草でできた屋根でファンがクルクル回っていた。
遠心力で今にももげて落ちてきそうなほどぐらついている。
ベッドから起きて部屋を出ると、そこはすでに木々が生い茂る森の中。
南国らしい植物が生い茂り、むわりとした湿気ですぐに髪の毛がしっとりとしてしまう。
ここはジャングルのど真ん中、パレンケ。
うっひょおおおおおおお!!!!!今日はパレンケ遺跡だぞおおおおおおお!!!!!!
気合い十分だぜええ!!!!
「よっしゃあああ!!!ケータこの野郎!!!!旅なめんなよコノヤロウ!!!あああん??!!」
「なめちょらんです!!パレンケ楽しみっす!!」
「よーし!!じゃあパレンケはどういう遺跡か………言ってみろコノヤロウ!?!チンカスが!!!」
「すみません!!全然わかりません!!600年代から700年代にかけて隆盛を極めた都市で900年代にはすでに廃墟状態となり深いジャングルの中で木々に埋れて眠りにつくが、1746年にスペイン人の宣教師が遺跡を発見。1000年の時を経てマヤ文字の石板や色鮮やかな建造物の存在が明らかになるも、その後のスペイン人調査団によって盗まれたり壊されたりして多くの貴重な遺産が失われる。現在も発掘調査は行われており、秘密の隠し部屋などの存在が次々と明らかになっているという、未だ神秘のベールに包まれた謎のマヤ遺跡っていうことしか知らないっす!!」
「え、やだ、なんでそんなに知ってるの……?なんかゴメン。」
「金丸さん!!旅なめんなよ!!」
チェックアウトを済ませて荷物を預け、身軽な状態でアドベンチャー開始。
このマヤベルから遺跡の入り口までは歩いて30分くらい。
たまに通るコレクティーボは1人10ペソ、80円で入り口まで行ってくれる。
ていうかもうこのジャングルがすでにパレンケ遺跡の中なんだろうけどね!!
ドキドキする!!!
「いやー、このジャングル具合がマジでただの綾町にしか見えんっちゃー。」
「酒泉の杜行こうぜ。ワイン飲みたいな。」
「なんだらー、それ。それにしても暑いだぎゃー。」
余裕でプレデターがビーム撃ってくる系のジャングルの中を、汗ダラダラかきながら歩いて行くと、パッと広場に出た。
一応駐車場みたいな場所だけど、ただの物売りたちの土産物エリア。
こんな世界的に有名な観光地なのに、ただの近所のおじさんおばさんがやる気なさそうに物を広げてるだけといった雰囲気。
その商売っ気のなさがメキシコ人の魅力だよな。
入場チケットは54ペソだったかな?
410円。
ちなみにニセ学生証は使えなさそう。
ドキドキしながらジャングルの中に突入…………
えー、どんな感じで現れるんだろう…………
木々の中に埋れてた遺跡だもんな…………
緑の中からドーンっていう感じだよな…………
緊張する!!
あ!!あれは!!
ドーン!!!
あ、物売りと戯れてないで先に進みます。
はい、ハンパじゃねぇ。大興奮。
森の中にまぎれもない都市が広がっていた。
これがピラミッド!!!
王の棺が発見されたので、これはお墓だと思われる。
そしてこれが王宮。天文観測の塔や広場、たくさんの部屋が迷路のように入り組んでいる。
さらに奥に進めば、ジャングルの中にどこまでも無数に建物が散らばっており、まさにここに一大都市があったことが容易に想像できる。
ほんの少し遠くを見てみれば、霧に閉ざされて立ち入ることの出来なさそうなジャングル。
いまだ未開発のものも多数存在するこのパレンケ。なんてロマンに溢れてるんだ。
このピラミッドは中に入ることもできる。
おそるおそる足を踏み入れると、水がぴちょぴちょと滴る暗い通路はまさにインディージョーンズ。
壁から巨大なカッターが飛び出してきたり、大きな石が転がってきたり、落とし穴が空いて下に落ちればそこはサソリがウジャウジャいる部屋だったり。
そんな罠なんて、映画や漫画の中でしか見たことのないストーリーだけど、この神秘の遺跡を前にしたら何が起こってもおかしくなさそうだ。
1000年の時を超えてこの遺跡を発見した神父さんは一体どれほど驚いたことか!!
木々や蔦や雑草に覆い尽くされていた建造物群。それを見つけただけで気絶もん。
さらにその中のピラミッドに入っていったら、隠し部屋がたくさんあり、その中の棺を開けたら無数の宝物が散りばめられた遺体があり、あの有名なヒスイの仮面をかぶっていた、ってんだからな。
なぜ人は遺跡に集まるんだろう。
ただの廃墟。
こんなのただの人が住んでいたってだけの廃墟。
それになぜ大金を払ってまで、海を越えてまで見に来るのか。
それは人間が思いを馳せることのできる動物だから。
ロマンを感じることが出来るから。
はるか昔の人々がどんな趣味嗜好をしていたのか、どんな感情を持っていたのか、それを感じる時、人は時の流れが普遍であることを確認し、自らも歴史の一粒でしかないと生を見つめる。
儚い行為。
こうしてぼんやりと、地平線まで続く森の中、遺跡の上に腰かけて風に吹かれていると、自分の存在というもののあやふやさに涙さえ出そうになる。
そのあやふやさが安心を与えてくれるんだけれども。
人間はそんな儚い作業が好きで、こうして遺跡で思いを馳せるんだろうな。
遺跡の中のいたるところ、木陰や階段のところなどに、物売りのおじちゃんやおばちゃんがいる。
彼らが売ってるのはどれも同じようなものだけど、その中に少し目を引くものがあった。
「ジョジョ!!俺は人間をやめるぞ!!」
ドーーーン!!
ウウウリリイイイイイイイイイイ!!!!!
あ、これじゃなかった。
ちなみにジョジョの石仮面はアステカ文明の仮面です。マヤじゃなくて。
このパレンケ遺跡の壁画や、有名なマヤ文明の暦の絵なんだけど、これを皮に描いており、とても綺麗でオシャレだ。
こんなの家の壁に飾りたい。
今まで世界中の観光地に行ってきたけど、土産物はマジで一度も買ったことがない。
荷物になるし、そんなに惹かれるものを出会ったこともないから。
そんな俺が初めて買った。
これ。
一目で欲しいと思って、80ペソと言うのを50ペソにしてもらって即購入。
青い色と、どこか寂しげで行き場のなさそうな鳥の絵が、たまらなく胸にきた。
これ以上荷物増やしたら入れるところないんだよなぁ………
でもそういうインスピレーションは大事にしたいよな。
ほとんどの人は、メインの建造物を見たら入ってきた入り口に戻り、バスで町に戻って行くっていうパターンだけど、俺たちはせっかく歩きなのでグルリと敷地の中を回って別の出口のほうへ。
ジャングルの中を進んで行くと、こんな美しい滝があったり、川にかかる吊橋があったりと冒険気分を盛り上げてくれる。
そしてそんな森の中にも、いたるところに朽ちかけた遺跡の石垣が残っており、木々のように何も言わずに自然に同化している。
いっても1000年。
遺跡って呼んでるけど、ヨーロッパに行けば築1000年の教会なんてザラにあるし、普通に人が日常的にそこを利用している。
日本だってもちろんそうだ。
たくさん古いお寺がある。
俺たちの文明の寿命はいつまでかな。
森を突き進み、出口専用っぽい場所から道路に出てきた。
そこから歩いてまた宿に戻る。
ちなみにパレンケの仮面はなかったのか?というと、一応近くに博物館はあるんだけど、展示されているのは複製品だということ。
オリジナルはメキシコシティーにある人類学博物館にあったんだなー。
チクショウ!!他の宿泊者たちはみんな人類学博物館に行ってたのに!!
俺は15日も滞在してて松岡さんと飲み歩いてるばっかりで観光まったくしてねぇ(´Д` )
まぁいいか。ハイパー楽しかったし。
さて、宿に戻って荷物を取り、道路際に出れば町に向かうバン、コレクティーボが走ってるのでテキトーに止めます。
値段は1人10ペソ、8円。
と思ったら観光客は20ペソだと言う。
タクシーだったらゆうべ45ペソで来たんだけど、コレクティーボのほうが高いという謎の値段設定。
町に戻り、ナオコちゃんに荷物を見てもらってケータ君と二手に分かれて宿探し。
熱帯地域らしい、いきなりの土砂降りに濡れながら探し回るも、なかなかいいところはなく、最初に目をつけていた3人部屋で250ペソってのが最安みたい。
1人640円。
バスターミナルの目の前にあるロサンゼルスって宿。Wi-Fiなし。
小さな町だけど一応観光地なので、欧米人向けのオシャレなレストランやバーがたくさんあるし、バーガーキングもあるのでそこでWi-Fiはゲットできる。
中華料理店もある。
これで54ペソ、410円。
タコスは6ペソ、50円。
酒屋さんでバカルディを買ってきて、宿でラムコークを作って乾杯した。
さて、長かったメキシコ。
アメリカでさんざん、治安が悪い最悪の国と言われ続け、それならばパレンケだけ見てカンクンで稼いで2週間くらいで抜けようと思っていたのに、気がついたら1ヶ月と2週間も滞在していたという驚愕の事実。
驚愕すぎるうううううう(´Д` )!!!!!!
あと8ヶ月で帰らないといけないというのに、余裕ぶっこきすぎ(´Д` )
ジェニファーさんとの夢のようなバハカリフォルニアの日々に始まり、国境の町での砂嵐の野宿、あれはきつかった…………
それから40時間のバス移動でたどり着いたメキシコシティーでは、松岡さんという世界で活躍する日本人起業家との刺激的すぎるクラブ巡りの日々。
先進国と後進国のふたつの顔がこんなにもえげつなく混在してる国は初めてだった。
そして偶然やっていたオアハカの死者の祭りではラテンアメリカンの死に対する捉え方に深い感銘を覚え、メスカルとともに人生のすべての感情を飲み干そうというメキシコ人の愛すべき人柄の真髄を見た。
忘れたらいけないのが女の子の可愛さ!!これだけでもメキシコに住みたいと思わせてくれる。マジで。
あとはなんといってもマヤなどの古代遺跡の数々には、欧米諸国や中東で感じられなかった地球の息吹や人類の歴史の神秘をまざまざと見せつけられた。
来たばかりのころはお腹を破壊されて毎日トイレでお尻からレイジングストームを繰り出していたメキシカンフードだけど、今頃になってようやくレイジングストームが烈風拳くらいになってきた。
ギース強えぇ。
観光はもちろん素晴らしい。
でも観光だけで終わらせるにはあまりにももったいない国、メキシコ。
この底抜けに陽気で、シャイで、愛すべき国民性である人々がこの国の最大の魅力であることは、きっと1ヶ月と2週間の日記の中でみなさんに紹介できたと自負できる。
ラテンアメリカで最大の経済力を誇るメキシコのふつふつとたぎるようなエネルギー。
しかし田舎に行けば、先住民たちの時を忘れたかのような生活も垣間見られる。
ここはかつてのスペインの占領地。
でももうそれは過去のこと。
メキシコには、メキシコの、世界中ここにしかない最高の感動がある。
治安は確かに悪いかもしれない。
俺はなんにもなかったけど、警察に賄賂を取られたり、強盗に遭ったりする話が少なくないのも事実。
それをひっくるめても、俺は断言できる。
バハカリフォルニアのエンセナダで出会い一緒に飲んだマリオが言っていた言葉をここに借りよう。
メキシコは最高にラブリーな場所なんだよ。