10月31日 木曜日
【メキシコ】 オアハカ
快適な目覚め。
ダブルの部屋に俺とケータ君とフミちゃん。
フミちゃんは女だけど、古い友達みたいで一切気を使わなくていいから楽だ。
ドミトリーもまぁ嫌いではないけど、やっぱりドタドタ周りを歩かれたりすると気を使っちゃうからな。
「とりあえずご飯食べ行こうぜー。」
「何食べるー?」
「チキン南蛮がいいな。」
「やっぱりフミちゃんは茨城だから山岡屋の味濃いめ油多めがいいの?」
「山岡屋、好きじゃないし。」
「な!!そんなこと言ったらショウゴに怒られるぞ!!」
とても仲良いです。
ケータ君はとことんノリが良くて、気がきくし、そして面白い。
いいメンバーだな。
カカオの匂いが立ち込める宿を出ると、抜けるような青空が広がった。
2200メーターあったメキシコシティーよりも標高は下がったが、それでも山の中の田舎なので、空の色がとても鮮やかだ。
ブラブラと適当に歩いていく。
同じような高さの建物が並び、道がどこまでも碁盤状に広がっているので、一瞬で迷子になってしまう。
ごちゃごちゃと様々なお店がひしめき、露店も多く、アスファルトはがったがたに割れまくり、地方都市のインフラ整備の不十分さが露呈しているが、これが普通なんだよな。
人が生きる上で、日本や欧米諸国のようなピカピカの街はやりすぎなのかもしれない。
こんなベコベコで泥の多い地面でも、アスファルトが敷いてあるだけマシってもんだ。
人に道を尋ねながら碁盤の迷路をさまよっていると、ようやく中華の食堂を見つけた。
この量で35ペソ。280円くらい。
ちなみにオアハカはこんな田舎だけれど、メキシコシティーと同じくらいの物価か少し高いくらい。
ワカメちゃんが大人になったらこうなる。
宿に戻ってシャワーを浴びてヒゲを剃り、ストールを巻いてハットをかぶれば、もう完璧な臨戦態勢。
このお祭り期間中の、人で溢れ返ったオアハカでの路上。
一体どれくらい稼げるだろう。
かましてやる!!
そして日本人旅行者がわんさかやってきてるので、可愛らしい女子大生バッグパッカーにカッコいいとこ見せてモテてやる!!
ケータ君は宿の美女軍団と遊びに行っており、フミちゃんも散歩に出かけている。
お互いに別行動。
張り切ってやってきたのは、町の真ん中にある小さな聖堂と大きな聖堂、この2つの教会をつなぐホコ天のメインストリート。
とっても綺麗で、オシャレなレストランや土産物屋さんがズラリと並んでおり、名所である2つの大聖堂をつなぐ通りなので、観光客の通りもめちゃくちゃ多い。
これ以上ない絶好の通りが500メーターは続いている!!
どこでやってもOK!!
気合い入るぜ。
早速通りのど真ん中でギターを構える。
なんだなんだ?と、まだチューニングをしてるところなに、30人ほどの人だかりが出来上がり、演奏が始まるのを待っている。
こいつは俺のステージだ。
みんなの期待を引っ張りつつ、ゆっくりとピックを取り出し、勢いよく弦を叩いた。
大拍手。
人だかりはさらに膨れ上がり、わずか3曲しかしてないのに足元に100ペソ以上が入った。
おいおい、この町ヤバすぎるぞ!!!
地元の人もメキシカン観光客も、欧米人観光客も、みんなが足を止めて歌を聞いてくれる。
うおお、この調子だったら2000ペソいっちまうぞこれ!!
よっしゃああああああああ!!!!!!
ていうときはどうなるか、皆さんもう分かりますよね。
ご想像通り警備員が来て止められます。
くそ、くそが。
くそ!!
「向こうのほうに大聖堂かあるからあっちのほうならやっていいぞ。」
よーし、そういうことならと、大聖堂のど真ん前でギターを構える。
さっきの場所よりも人通りは少ないが、すぐに人だかりか出来上がった。
歌い終わると、日本人がよほど珍しいのか、俺があまりにもカッコよすぎるのかわからないけど、次から次へと、写真撮ってください!!の大撮影会。
女の子たちがはしゃぎながら俺の横にやってきて腰に手を回してきてパシャリ。
すぐに次の待っている女の子がやってきて抱きついてきてパシャリ。
俺も調子に乗って肩に手を回してパシャリ。
観光地によくいるパイレーツオブカリビアンのジョニーデップのモノマネさんの10倍くらいの人気の大撮影会が終わり、ようやく歌えるぞとギターを鳴らそうとしたら、
はい警備員。
「タコスタコス、ナチョス。」
ずっと歌を聴いてくれていた男前の兄ちゃんが英語に通訳してくれる。
どうやらこのホコ天の通りではずっと立ち止まって演奏をしてはダメなんだそう。
2曲やっては移動、2曲やっては移動という、マリアッチ方式でやらなければいけないそう。
ぬぐぉう…………
たった2曲なんて、人だかりが出来始めて、さぁ聴いてくださいってくらいの段階。
それでお終いだなんて、キツすぎる………
「本当メキシコの政府はわけわかんないよな。荷物運ぶの手伝うよ。」
男前のフランシスとアレックスがバッグを持って一緒に場所捜しをしてくれる。
ちょ!!なんだその仮装は!!
犯罪的な可愛いさ!!
「フミ、ここはどうだい?ここは人通りバッチリだよ。」
「え、でも大丈夫かなぁ。また怒られないかなぁ。」
「大丈夫さ。何か言ってきたら俺たちが話してあげるよ。」
通りのど真ん中。
ギターを鳴らせばまたもやすぐにすごい人だかりが出来、大盛り上がり。
いやー、この町ホントすごいぜ!!
…………は!!
人だかりの隙間から、鬼のような顔でこっちを睨んでいるさっきの警備員。
「ふ、フミ、やめよう、これ以上続けるならお前のギター取り上げるぞって言ってる。い、行こう。」
まだ人だかりが出来てるうちにギターを抱えてそそくさと逃げた。
あー、チックショー。
こんな最高の街なのに歌えないなんて、目の前でゆまちゃんがオッパイ触ってよーって言ってるのに、後ろから彼女が睨んでるようなもんだ。
生殺しすぎる!!
しかしそれでも諦めるわけにはいかないので、彼女にそんなことするわけないよーと言いながら後ろの手でコッソリオッパイを触るがごとく、少し離れた裏通りのところで路上再開。
どうやらここなら警備員の目も届かないようで、何も言われることなく歌うことができる。
ただ歩道が狭いのであまり人が立ち止まれず、いい場所とは言えない。
まぁ歌えないよりかはマシだ。
日が沈み、町を夕闇が包む。
しかし人通りは増す一方だ。
まだ風邪が治ってない、というか風邪ど真ん中なので喉ががらがらで、それでも根性で歌っていたのでもう声がひどいことになっている。
根性根性ぉ…………
こんなにいい町なのに風邪程度で休んでたまるか。
しばらくして、町のどこからか、太鼓やトランペットなどの陽気な音楽が聞こえ始めた。
音楽は勢いを増し、町中を包むような大騒ぎになりだした。
そして気づく。
通りを歩く人たちがみんな仮面をかぶったり、顔にペイントをしたりしてそれぞれに工夫をこらした死者の装いをしてるじゃないか。
うわ!!向こうからパレードがやってきた!!
鼓笛隊が楽しい音楽を鳴らし、その後をハーメルンの笛吹きみたいに仮装をした人たちが大騒ぎしながらゾロゾロと歩いている。
すごいすごい!!
そうか、今日はハロウィンか。
これから3日間、町はこうした仮装で大盛り上がりになるわけだ。
もう俺もいてもたってもいられなくなりギターを片付けた。
まぁ鼓笛隊がうるさすぎて演奏が出来ないのと、喉が完全に死亡してスナックのママみたいになってしまってこれ以上歌えなくなったってのもあるけど。
大量のコインをポケットに突っ込んで宿に戻った。
宿の屋上に上がるとあの美女軍団がキャピキャピとお喋りしていた。
おぉ、この感じなんだか懐かしい。
その5~6人のキャピキャピした美女たちに常にくっついている若い男の子が2人いるんだけど、この男の子たち、女以外といるところ見たことないな。
よほど女の子が好きなんだろうなぁ。
俺もだけど。
「今日どうでしたー?キャピ!」
「ずっと歌ってました。みなさんはどうでした?」
「私たちこれからペイントしてホホムラに行くんですー。キャピピ!!」
な、なんだと!!
ホへがムラムラするだと!!
嘘です。ヒトミちゃんはそんなこと言いません。
町からタクシーで15分ほど行った郊外にあるホホ村という小さな集落で、お墓を飾り立てて死者を弔う儀式をやっているのだそう。
ロウソクを立て、花を散りばめ、それはそれは幻想的な空気になる、という話だ。
それは行きたい。
ミーハーだけど、行っときたいな。
「あ、金丸さーん、探しちょったですよー。どんげでしたー?」
「お、ケータ君、よっしゃ飲もうか。」
今日のあがりは905ペソと1ドル!!
計71ドル!!
すげえ!!!
でもキッチリやれてたら2000ペソはいけてたなぁ、悔しいけど。
とりあえずホホ村に行く前に軽く飲もうかとビールを買い出しに。
賑わっている広場を歩いていると、オシャレなレストランの中に見慣れた顔の男性を発見した。
ん、あの女の人はべらせてるハンサムなアジア人は誰だ………?
松岡さん(´Д` )
「おー、いたいたー。楽しんでるかいー?」
すげえ(´Д` )
さすがは世界を股に掛ける男。
どこにいてもその町に溶け込んでキマってる。
「明日の昼は彼女たちをエスコートしてるから夜にどこか飲みに行こうか。じゃあお祭りを楽しんでね。」
そう言ってメキシコ人とペルー人の女性とスペイン語でかっこ良く会話してる松岡さん。
やっぱりこの人はタダもんじゃない。
よーし俺たちも祭りを全力で楽しもうぜ!!とビールを買って宿に戻り、屋上で乾杯したら、案の定全ての気力が失せてもうホホ村とかいいんじゃね?という宮崎県人らしいおおらかさを発揮。
旅人(´Д` )
隣では美女軍団と男の子2人が、買ってきた衣装を着て顔に白い塗料を塗ってキャーキャー楽しそうにしている。
可愛い!!
うーん、や、やっぱり行く?
いやー、もうめんどくさいしいいんじゃね?
でもホホがムラムラなんだよー。
だってもうビールが美味しいからさー。
うーん………やっぱり行こう。
ここまで来て見ないのはもったいねぇ。
美女軍団たちとみんなで乗り合いタクシーで行こうということになるが、なかなかみんな出てこないのでさっさと外に出たらフミちゃんだけ着いてきたので、あいつらもすぐ追いついてくるやろーと、とっととバス停へ向かった。
のだが、バスが見つからず、フミちゃんとお話ししながら歩いていたら、いつの間にかホホ村に到着。
50分も歩いてた。
ていうか地図もなく場所もまったく知らないのによく勘だけでたどり着いたな。
夜中の23時くらいだし。
古い住宅地の中を歩いて行くと、角に商店があったり小さな公園があったり、なんだか日本の田舎みたいな雰囲気。
外灯もあんまりない道を、チラホラと帰ってくる人が歩いている。
日本のお祭りの夜みたいだ。
しばらく人の流れる方へと歩いていくと、どんどん賑やかになってきた。
おー、こんなに盛り上がってるもんなんだー、と歩いていると、横にタクシーがやってきた。
チラっとタクシーを見る。
………ん?
あ!!ユーキ君?!
おー!!ユーキ君ー!!と窓を叩くと、ビックリした顔でタクシーを飛び降りてきた。
他にもあみーごで見たジュン君が乗ってた。
いやー、会えましたねーと相変わらずボンヤリしてる顔のユーキ君。
「タクシーいくらだった?」
「えーっとー、80ペソです。安いですよねー。」
うん、倍ふっかけられてるね。40ペソで来られるんだけどね。
まぁ別にいいよね。大した金額じゃないよ、ユーキ君。
あ、あれ?ユーキ君?ユーキ君どこ行った?
すると、ドレスを着たガイコツの女の人と一緒に写真を撮れますよという、思いっきり観光客向けの客引きに捕まってニコニコしながら写真を撮ってるユーキ君。
しかも30ペソて(´Д` )
地味に高え(´Д` )
「いやー、旅は楽しんだもん勝ちですからー。お金なくなれば帰ればいいんですからー。」
このボンヤリとした男が1番旅を楽しんでるよ、本当に。
ホホ村の墓地に到着。
墓地の周りには、お祭りらしく屋台がひしめき、たくさんの人たちでごった返している。
その賑やかな活気にワクワクしてくる。
さぁついに墓地に入るぞ。
どんな神秘的な儀式が行われているんだろう。
屋台の間から墓地の門をくぐると、そこにはすごい光景が広がっていた。
かなり広い敷地の墓地の中、どこまでも揺らめくロウソクの灯り。
すべてのお墓にマリーゴールドの黄色い花びらが散りばめられ、日本人の感覚からしたら不謹慎なほどに賑やかに飾り立てられている。
それぞれのお墓の周りには、親族であろう人たちがイスやテーブルを持ってきてお酒を飲みながらお喋りしたりして笑っている。
さらに驚くことに、墓地のいたるところにマリアッチのハンドがおり、その家族たちのところを回って賑やかな音楽で景気をつけている。
もちろん人の数はハンパじゃないし、たくさんの人たちがガイコツのペイントをしておりお墓の中をウロウロしている。
その光景がたまらなく面白い。
なんだなんだ。
この胸を締め付けるような感動は。
日本人からしたら、死はとても悲しく、畏れ多く、たやすく触れることのできない存在。
死者を弔うとき、俺たちは最大限の敬意を払い、悼み、緊張さえ意識しないといけない。
それがどうだ、このメキシコ人たちは。
死を笑い飛ばして、死と肩さえ組んでいるじゃないか!!
家族みんなが集まり、お墓を囲み、賑やかに飾り立て、音楽とお酒でとにかく陽気に故人を偲ぶ。
いや、偲ぶってのも違うかもしれない。
彼らにとって死はとても近い存在で、死んだからといって、俺たち日本人が抱くほど、死者は遠くへ行くものではないのかもしれない。
ラテンアメリカンは刹那的だと思う。
その時を、その瞬間を目いっぱい楽しむ人々だと思う。
お気楽な人種だ、とアメリカでは彼らを見下すような意識があるそうだけれども、俺はまったくそう思わないな。
こんなにも陽気で、人生の数々のアトラクションすべて楽しもうという人たちを羨ましくさえ思う。
死に対して恐れ悲しむのではなく、みんないずれ死ぬんだから!!と開き直って受け入れる。
なんて人間的で、愛らしい人々なんだろう。
マリアッチのノーテンキとさえ思える音楽と人々の笑顔。
感動に胸が震えるよ。
「タコスタコス!!タコスサボテン!!」
みんなで歩いていると、お墓の周りにいた一組の家族が俺たちを呼び止めた。
そしていきなり俺たちにコップを渡してきて、メスカルをついだ。
ご家族みんなが最高に優しい笑顔で飲みな飲みなー!!と勧めてくる。
もう嬉しくてたまらなくなって、メスカルをあおった。
死を悲しんでばかりでは、大事な人は喜んでくれないよな。
もっと身近に、この心の中にいるんだから、いつもと同じように、笑って、歌って、肩を抱いていたい。
人間なんてみんな死ぬんだ。
死と酒を組み交わそう。
人間ってすごいな。
ああ、メキシコ人、心から愛すべき人たち。