10月25日 金曜日
【メキシコ】 メキシコシティー
部屋を出ると、吹き抜けの空に久しぶりの青空が光っていた。
たまっていた洗濯物が一気に洗われたようで、手すりにはいたるところにシーツや服が干されて輝いている。
ただでさえ陰気でボロい宿が連日の雨でさらに暗くなっていたけれど、ようやくその影が取り払われたように太陽が照っている。
よーし、今日は金曜日。
この天気ならたくさんの人が出歩くぞ。
思いっきり稼いでやる。
ギターを持って宿を出発。
ブエナビスタの駅は間違いなく500ペソは稼げる。
これを週末に確実にやっていけば、そこそこ貯めることができそう。
いつまでメキシコシティーにいるんだ?ってところだけど、本当はメキシコシティーはすぐに出るはずだった。
それが松岡さんという方に出会い、メキシコシティーのディープな場所にたくさん連れていってもらって、楽しすぎていつの間にかこんなに滞在してしまっている。
滞在がのびている理由はそれだけではなく、実は来週の週末にここから南にバスで6時間ほど下ったところにある街オアハカで、あるフェスティバルが行われるのだ。
メキシコの各地のお土産物屋さんで必ずといっていいほど見かけるガイコツの置物。
なんでこんな不気味なものがお土産になってるんだろう?と思っていたんだけど、実はあれこそが来週のフェスティバルに関係があったのだ。
メキシコには死者の日という祝日がある。
もともとメキシコでは死者のガイコツを身近に飾る習慣があったそうなんだけど、それがスペインの侵略によりカトリックと融合し、諸聖人の日の祝日として祭典が催されるようになったそう。
ハロウィンと似たようなものかと思ったんだけどそうじゃなく、日本でいうお盆みたいなものだそう。
しかしそこはラテンアメリカらしく、陽気に祝うというのが彼らのやり方。
墓地を飾りたて、ガイコツを装飾し、街全体がフェスティバルになるんだそうだ。
11月の1日が子供の魂が帰る日で、11月の2日が大人の魂が帰る日だとされているようで、お供えものも子供の日はチョコレート、大人の日はメスカルというメキシコ独特の強いスピリットになる。
この死者の日はメキシコ全土で祝われるそうなんだけど、中でもオアハカのものが有名らしくて、最近宿にゾクゾクと日本人が集まってきてるなぁと思ったら、みんなそれに合わせて来ているということだった。
みんな顔にペイントをして夜通しお祭り騒ぎをするらしく、宿の日本人たちも団体となってそれに臨もうという人たちばかりだ。
「金丸さんも行くんでしょ?じゃあみんなでペイントしましょうよー!!」
「そうですよ!!楽しみましょー!!」
「うん、ごめん、俺は遠慮しとくわ。」
ノリ悪い(´Д` )
徒党を組んでフェスティバルに参加するなんて気持ち悪いので俺は勘弁。
いや、誘ってくれるみんなはとってもいい人ばかりで、彼らと話すのはすごく楽しい。
フレンドリーで、無理強いはしないし、すごくいいメンバーだ。
でも、それは俺はしたくないのでごめんね。
そんなノリの悪い俺だけど、お祭りには行こう。
せっかくメキシコに来て来週にこの国の代名詞みたいなお祭りが行われるんだったら行かない手はないよな。
とか言って俺が思いっきり顔に死者のペイントして、日本人10人くらいでうわーいとかやってたら見かけた人はぶん殴ってください。
俺は俺のやり方で楽しもう。
さて、俺の楽しみ方のために、今日も路上頑張ろう。
いつもの地下道に降りると、もう大混雑で押し合いへし合いくらいの人々が行き交っていた。
さーて、稼ぐぞ。
大混雑の中、ギターを構える。
人が多すぎてゆっくりしか歩けないので、みんな歌を聴いてくれて通り過ぎる時にチャリンとコインを入れてくれる。
ウィンクをして、親指を立ててくれ、肩を叩いてくれる。
今日もいい調子。
向こうの方で物売りのおばちゃんがピカピカ光るオモチャを売っているが、別に何も言われることなく歌を続ける。
ただ俺にはガンガンお金が入っていくのに、おばちゃんのオモチャはそんなに売れないのが申し訳ないところだけど、それは路上の真実。
いかに路上でお金を稼ぐか。
それは実力でしかない。
すると、しばらくして何やら物売りおばちゃんのところに黒いスーツを着たガタイのいいおじさんが2人やってきた。
あんな怖そうな人がオモチャなんか買うのかなと思いながらも、演奏を続ける。
横目で見ていると、おばちゃんとおじさんが話しながらこっちを見ている。
すると怖いおじさんがこっちに向かってきた。
ヤバイかも………
「タコスタコス、デスペラード。」
「サボテン、デスペラード。」
かなりデカイ体格。
黒いスーツにオールバックの髪型の2人に挟まれる。
でも何を言ってるかわからないので、歌を聴きたいだけかなと笑顔で演奏を続ける。
「タコスタコス、サボテン!!!」
するとおじさんたちは大きな声を出してどこかへ行けと手を振った。
そうか、マフィアだ!!
「ヒィ!!ごめんなさい!!すぐ消えます!!」
ギターを抱えてコインをポケットに突っ込んでダッシュで地下道から逃げた。
怖かったぁ………
そうだよ。この地下鉄の物売りさんたちはマフィアに管理されてるって前におじさんから聞いてたんだった。
殴られたりお金取られたりしないでよかった………
よかった、のはよかったんだけど、さてどこで歌おうか。
とりあえず駅を上がったところの広場でギターを出す。
すぐに警備員が来て止めらる。
広場を出て横にあるショッピングモールの前でギターを構える。
2曲目で警備員に止めらる。
ぬぐぉぉ………
どうしよう………
こうなったら前にやってたインスルヘンテスのジェノバストリートでやるしかないか。
あそこは良くて300ペソくらいなんだよなぁ。
でもまったく稼げないよりはマシだ。
目の前を走ってるメトロバスに飛び乗った。
飛び乗ったはいいんだけど、週末のメトロバスをなめてた。
半端な混み方じゃない。
もうすし詰めっていうレベルを超えてる。
腕をのばす隙間もないくらいギッチギチになってるのに、それでもまだ乗ってくる。
知らないおじさんのホッペにチューしそうなくらいの至近距離だけど、顔が動かせない。
ギターが押し潰されそう。
そんな混み方だから、もうどう考えても乗れないのに、停車するたびにものすごい力で押し込んできて、叫び声がいたるところで聞こえる。
足を浮かしても周りの圧力で体が下がらないくらいの混雑。
もう1ミリも動けない。
そこでインスルヘンテスの駅に到着。
「ぺ、ペルミソー!!ペルミソー!!」
叫びながら出口に向かう!!
日本みたいにドア付近の人が一旦降りてスペースを作るなんて紳士な人はいない。
根性で人を掻き分ける!!
あ、あと一歩!!
あと一歩で降りられる!!!
その瞬間、ラグビーのタックルみたいに外の人たちが突撃してきて、さらに深いところまで押し戻されてしまった。
「ぎゃー!!」
「コノヤロウ!!」
「押すな痛ぇ!!」
バスはそのまま発車。
はい、一生降りられない。
俺が降りようとしていたのを見てた人たちは苦笑いしてこれがメキシコだよと口をへの字にする。
だいぶ進んだ次の駅で、心を鬼にして周りにタックルしながらなんとか外に飛び出した。
ハァハァ………もうメトロバス乗らねぇ………
歩いてインスルヘンテスに戻り、ようやくジェノバストリートにやってきた。
週末の通りはいつにも増してたくさんの人が歩いている。
同性愛者通りとして有名な場所なので、たくさんの兄さんたちが手をつないで歩いていたり、路上でディープキスをしたりしてるが、それもここでは微笑ましい光景だ。
さて、もう17時。
今日は夜までかましてやるぞ。
まぁ500ペソも入れば万々歳と思っていたんだけど………
大フィーバー。
絶え間無く人だかりができ、通行が出来なくなるくらい歩道を人が埋め尽くし俺を取り囲む。
拍手が巻き起こり、みんなお金を入れて行ってくれる。
365日、毎日1枚ずつ人物の写真を撮り、それを作品にするというフォトグラファーの方に写真を撮ってもらったり、メキシコシティーのアーティストの写真を撮って回っている人に取材を受けたり。
そして今日もFacebookを教えて!!の嵐。
たくさんの人とお話しし、歌い続けて、いつまでたっても人だかりがなくならないので、ギターを置いて休憩します!!と自分から演奏を止める。
ふぅ………今日すごいな。
でも今日はこのままじゃ終わらんぞ。
日がくれてから場所を変え、地下鉄の駅に向かう通路でギターを構える。
たくさんの人たちが行き交うこの通路。
よーし、やってやれ!!!
人だかりすごすぎ。
こんなにデカイ通路でさえ、埋めつさんばかりの人垣が出来上がり、絶え間無くお金が入っていく。
休む暇がなく、歌い続けていたら喉が枯れてしまい、1時間ほどで切り上げた。
計4時間くらいやったかな。
今日のあがりは820ペソ。63ドル。
よっしゃあ!!
メキシコで63ドルなら大したもんだぜ。
充実した疲れで宿に帰った。
「あのー、今からクラブいくんだけどー、遊び行かないー?」
宿に戻ると、長期組の人たちが盛り上がっており、今からクラブに行こうとみんなを誘っていた。
「あ、僕明日いろいろあるんで遠慮しときます。」
「えー?でもそれは明日でしょ?今日じゃないじゃん。」
「すみません、今日はゆっくりします。誘ってくれてありがとうございます。」
「ふーん。」
ノリの悪い奴だなみたいな感じで、どっか行った長髪の兄ちゃん。
だいたいなんでタメ口なんだよ。
大騒ぎしてた長期組のメンバーがいなくなると宿は一気に静かになった。
やっとゆっくり出来るとキッチンに降りると、ケータ君がいた、
「クラブ行かなかったんや。」
「だってあのメンバーで行っても面白くないのが目に見えてるっちゃー。」
宿に残っていたのは、フレンドリーで気のいいメンバーばかり。
そんな人たちでビールを飲んで楽しくお喋り。
「ねー、金丸さんもオアハカでペイントしましょうよー。」
「なんで嫌なんですかー。」
うーん………もしペイントしてるの見かけたら殴ってください!!