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マリアッチとヤカラッチ

9月29日 日曜日
【メキシコ】 エンセナダ





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「あんなぁ、ウチな、カラオケ行ったらなぁ、1番最初になぁ、アンパンマン歌うねん。あれホンマごっつええねんで。」


この西成にいそうなヤカラは実は昔JJの読者モデルをやっていたそうです。

かと思えばタイのニューハーフのショーハウスで働いていたという経歴も持っています。

宮崎ではナレーターや司会者の仕事もやっていたそうで、その後北海道でモメてスリランカに国外逃亡していたそうです。



もうぐちゃぐちゃです。

この時点で普通の人の人生3回分くらいのネタですよね。

謎はすでに迷宮に突入してます。

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ちなみに女性です。
男か女か?という質問がたくさんありましたが、ジェニファーさんはちゃんと女性です。多分。


ですがニューハーフ、オカマ業界に図太いコネクションを持っております。

同性愛者にもとてもモテるそうです。


そんな性という部門においての達人ですので、もはやチョメチョメするしないとか超越した境地に達しているので、僕らの間には何もありません。



たまに「しごいたろかー?」と言われますけど、お断りしています。
なんか怖いです。

怖い世界に連れて行かれそう(´Д` )ヒィィイイイ!!











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さて、ゆうべメキシコ初路上をやって気づいたこと。



まずデスペラードが異常にウケる。
これは想定内。


そしてこれも想定内だったんだけど、英語の、それも有名な曲くらいにしか興味をひかれないようだ。

スタンドバイミーは間違いなく人だかりが出来る。

しかし風に吹かれて、だとみんな知らない。


スタンドバイミーレベルにメジャーな曲をレパートリーに加える必要がある。



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というわけで、部屋でレットイットビーとヘイジュードの歌詞を書き出す。
今更だけどね。

あとべサメムーチョも覚えないといけないな。


まず確実にスパニッシュは歌えないの?と聞かれるので、最低でも1曲は弾けるようにしておかないとな。










部屋の中、もくもくとギターを弾いてコードを出す。

暖かい風が開けた窓から吹き込んでカーテンを揺らす。

テレビにはアメリカ映画がうつり、吹き替えでスペイン語をしゃべっている。

輝く太陽が中庭のプールにきらめいている。

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原色の鮮やかな壁、パームツリー、南国の植物たち。

もくもくと歌詞を書く俺。


ジェニファーさんはプールサイドでスペイン語の勉強をしており、時折掃除のおばちゃんと話す愛想の良い声が部屋まで聞こえてくる。







まどろむような昼下がりの時間。

表通りから子供の元気な声が聞こえてくる。





誰も俺たちのことを知らない。

逃避行したような、誰にも見つからない場所にいるような、秘密の時間。


なんて心地いい空気だ。








お昼ご飯に、宿の近くの日本料理屋さんへ。

ちなみにこのエンセナダはリゾート地ではあるものの、アメリカ人やお金を持ってるメキシコ人たちが来るローカルな場所なので、アジア人はまったくいません。
この数日いて、1人も見かけません。
あれだけ世界中にいるアジア人なに。


そんな町なので、いきなり日本人2人がお店に入ってきてビックリしているメキシコ人の店主。


「え、あ、あのー、うちはさ、ジャパニーズレストランで日本料理出してるけどさ、メ、メキシカンスタイルなんだよね。うん。」


まず言い訳から入るところが可愛いメキシカン。

この人、名前、関さん。

この顔で関さん。

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もちろん首はない。イコール優しい。



タダイマっていうお店。
味はなかなかのもん。

値段はちょい高めで1品700円くらい。
でも大満足。

これ焼きそば。

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うん、ただの焼きうどん。











そして今日も路上へ出かけた。

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車がガンガン通るので、声を張り上げてしまい、気づかないうちに喉がかなりボロボロになっていた。


これからはずっとこのやかましい厳しい状況で歌っていかないといけないんだろうな。





ゆうべのエドガルが遊びに来て、さらに地元の若者たちが差し入れを持ってきてくれたり、今日も楽しいバスキング。


みんなフレンドリーで笑顔が素敵なんだけど、メキシコに来て如実に違うところを発見。

それは子供。

子供の人懐こさがハンパじゃない。

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今まで北米を旅してきて、カナダ、アメリカの子供たちは、人見知りでシャイな子が多かった。
アジア人を見るとサッとお父さんの影に隠れたりしていた。

まぁそれも子供らしくていいんだけど、ここメキシコの子供はぜんっぜん違う。

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みんな、ねぇねぇ?あのね?って話しかけてきたり、ニコニコ笑って抱きついてくる。

親が子供を閉じ込めないでたくさんの人と交流させてることが理由なのかな。
昔の日本もそうだったよな。


悪ふざけしてたら、知らないおばちゃんやおっちゃんにめちゃ怒られたりしてたもんな。
現代では人の子にはノータッチってのが常識。
怒ったりしたら、いや話しかけるだけでさえ、どんな誤解されるかわかったもんじゃない。
希薄なコミュニケーション。


メキシコにはまだあの頃の風景がある。







子供が俺の前で踊った。

バレエの踊りを、軽やかに。

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そして歌が終わるとその子は俺の前に来て言った。


スペイン語で何を言ってるかわからない。
ジェニファーさんが泣きそうな顔で通訳してくれた。


「その子、フミ君を助けたいんだって。なんとかして力になりたいって。」







………ふぅ……




こんな貧しい国の、小さな女の子が俺を助けたいって………


俺は日本人だし、俺の方がはるかに裕福な人生を送ってるはず。

でもそんな金のことなんか問題じゃなく、この小さな女の子はなにかしら俺を助けたいと思っている。


こんな小さな子供なのに、大人を助けたいという感情を持っている。

なんて愛に溢れた国民なんだ。


これがアメリカ人の子供だったら、金にモノを言わせてめぐんでやるっていう小生意気な手段をとる。
アメリカの子供はそれを子供のころから知っている。


でもこのメキシコ人の子供は、お金が根本的な助けにならないことをわかっていた。
もっと人として大事な、暖かいものを俺に与えようとしてくれている。

まるで業の中でもがく哀れな男の痛みをやわらげようとしてくれてる天使みたいだった。


「グラシアス、ラニーニャ、ボニータ。」


女の子の小さな体を抱きしめた。
女の子も俺を抱きしめてくれた。


今日のあがりは4ドルと382ペソ。
計434ペソ。












宿に戻って部屋で日記を書く。
週末が終わり、宿は静寂に包まれている。

プールの水面にうつるライト。
波もなく綺麗にうつりこんでいる。


誰も俺のことを知らない。
誰も俺を見つけられない。
その孤独感が心地いい。

ベランダの隣でジェニファーさんがスペイン語を勉強している。






「あんな、ウチ、機織りもやんねん。そんでな、いつも思うねんや。布を織るとき、1回1回の1本の色はほんの小さなものだけど、それが織りあがったとき、その1回1回が重なって1枚の絵になんねん。出会いってそうやん。その一瞬の出会いはその時の色やけど、いつか人生を振り返って見たとき、1枚の綺麗な絵になってたらええよな。その絵を見んのが楽しみやねん。」



きっとジェニファーさんの布は、メキシコの極彩色のようにすごくカラフルな絵になるんだろうな。


俺もそうありたい。

そんでその布が誰かの傷をかばう…………


ってこれ中島みゆきか。


さて寝るかな。
世界の片隅から、おやすみなさい。

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