9月17日 火曜日
【アメリカ】 ロサンゼルス
桟橋の下、ポタポタと水滴が落ちる音で目を覚ます。
ん………なんだ?
どうやら桟橋の上で管理人さんが水まきをしてるみたいで、それがボロい配管から漏れて水滴を落としていた。
もちろん、それの真下に行かないように、すでに水滴が落ちるポイントは把握した上で寝床を作っている。
しかし風が強いせいで、水滴のしずくが風に舞って顔に飛んできていた。
まぁそのうち終わるだろうともうひと眠り。
次に目を覚ますと、すでに朝になっていた。
なんだか違和感がある。
それは空の色。
雲に覆われて一面の灰色が海の上に広がっていた。
ロサンゼルスに入ってかなり経つけども、青空以外の空を初めて見た。
空が灰色だという、ただそれだけのことに大きな違和感を感じてしまうほど、カリフォルニアは毎日素晴らしい気候なんだけどな。
そんな珍しい曇り空なので気温が上がらず、風も肌寒い。
いつもはたくさんビーチで寝転がってる人たちがまったくおらず、砂浜の上は閑散とした寂しげな光景。
サーファーの数もまばらだ。
こりゃ今日は人もあんまり出歩かなさそうだ。
6日間連続で歌っていたのでそろそろ喉も休ませたかったところ。
今日は休みにするか。
というわけで、スターバックス、オープンラストと洒落込みました。
ひたすらYouTubeで音楽を聴いたり、ネットでやれることをやりまくりながらとことん何もしなかった。
ご飯は昨日金野さんにいただいた差し入れがあるので、スタバのコンセントでお湯を沸かし、外でカップラーメンを食べる。
これが美味すぎて食事が楽しみでしょうがない。
そして夜まで、本当に外も出歩かず、人と会話も極力せずに、ひたすらiPhoneをいじったり、詩を書いたりしていた。
こういう全部OFFって日が1週間に1回くらいはないと、疲れ切ってしまう。
バッテリーの充電もたっぷり出来るし。
写真がないので、昨日金野さんが撮ってくださった写真を載せようかな。
さすがにプロデューサー
写真の腕もプロだ。
スターバックスが閉まるのは22時。
荷物を抱えて外に出るともう真っ暗。
何もしてないのに1日が終わっていた。
何もしないことに対する罪悪感はいつも1番大きいかもしれない。
じゃあなんで生きてんだ、って思えてしまう。
桟橋の下に潜り込む。
パラパラと暗闇にまぎれて若者がビーチを歩いている。
彼らは俺のことを気づいているだろうが、別に何も言ってくることはない。
俺も彼らを気にすることもなく、ギターを弾いて曲づくり。
とそんな時、1人の人影がこちらに歩いてきた。
俺の存在を確認して、進路を変えて俺の方に歩いてくる。
この桟橋の下には外灯の明かりがうっすらと差し込んでいるだけなので、そいつのシルエットしか見えない。
でも動きでわかる。
粗野で知的さのカケラもない、ホームレスの動きだ。
なんでホームレスって人に寄ってくるんだろう?
いつも思う。
ドンドンこちらに近づいてくるボケ。
あー、ついにプライバシーの領域にまで入ってきた。
めんどくさいけど、こっちに来るなという雰囲気を込めた強めの声をかけた。
「ヘイ。」
「ヘーイ、調子はどうだい?」
「悪くないよ。」
「そうか、いいね。」
そしてそのボケは俺のすぐ目の前の柱の下にバッグを置いた。
「ヘイヘイ、そこで寝るつもりか?」
「そうさ。」
なんでこうホームレスはアホなんだろう。
こんなに広い桟橋の下、いくらでも寝るスペースはある。
なのになぜ、わざわざ真横で寝ようとするんだ?
しかも俺はギターの練習をしていて、近寄るなオーラをガンガン出してるのに、まったく気にせず真横に座っている。
会話することもなく。
野宿をする者にも、それなりにスペースを侵害しないようなマナーがある。
1人なら注意されることもないだろうけど、たむろしてしまったら注意される可能性も上がる。
そしてこれから毎日こいつはここに来るのかもしれないと思うとげっそりした。
無言の時間がすぎる。
ボケはもう砂の上にそのまま寝転がっている。
寝袋もなく寝転がってるだけなので寒いだろう。
しかしそんなこと知ったこっちゃない。
あー、もう本当うっとおしいな、こいつ。
バッグをテントのチャックの中に入れ込み、ギターも他のバッグとしっかり繋ぎあわせる。
こいつはボケだけど、物盗りではないと思う。
でも一応いつもよりしっかり荷物を固定した。
はぁ、寝よ寝よ。
同性愛者じゃないことを祈る………