8月24日 土曜日
【アメリカ】 ラスベガス
目が覚めたら13時だった。
寝過ぎ(´Д` )
まぁ寝たのが朝の5時だったからそうでもないか。
ていうかこの空港のこのポイント、人来ないから快適すぎ。
さて、チョメチョメというネバーランドの出来事から遠ざかってすでに1年と2ヶ月ですか。
チョメって何でしたっけ?
気持ちいいんでしたっけ?
たまにFacebookの恋人探しアプリの写真で可愛い女の子の太ももとか見て、あれ?この胸に芽生える小さな感情ってなんだっけ………ってなってる今日この頃。
一応何かあった時のためにとバッグの中に入れてきたコンドームは、度重なる雨により箱がぐちゃぐちゃになっておりただのゴミとなってます。
風船としての方がまだ使い道がありそうです。
あれ?ていうかコンドームって何に使うものだっけ?
別に飢えてないですけどね。
やはり世界一周なんてことをしてますからね。
もっとストイックに自分の中にあるハートオブゴールドを探し求めて年老いていくんだ、ゆまちゃん元気かな。
いや、ほんとに飢えてないですから、今日この空港にカッピーのお友達の女子大生がやってくることなんて1mmも羨ましくなってないですからね。あれ、この頬を伝うものはなんだろう?しょっぱいや………
というわけで空港のトイレで顔を洗ってヒゲを剃ってついでに身体中キレイキレイにして、よそ行きの服でキメて女子大生を待ち構えようと思ったんですが、すでにすべての服が信じられないくらい異臭を放っているので諦めて1人で歌いに行きました。
ていうかよそ行きすぎですね。
行きすぎなのにズボンが1枚しかないのでどうにかしねぇとおおおおおおおお(´Д` )
はい、バスに乗ってやってきたのは、昨日調査しにきたオールドダウンタウンです。
さすがに土曜日なので昨日にも増して人通りがある。
ということは、路上パフォーマーにとっても稼ぎどき。
常にどこを見ても視界に2~3組のバスカーが目に入る。
まさにこのオールドダウンタウンのアーケードはバスカーたちの戦場。
ダンスから銅像から音楽、絵描き、スターのモノマネ、なんでもあり。
ただでさえスピーカーから音楽が流れているこのアーケードなのに、それぞれのパフォーマーがみんなアンプとマイクを使ってやってるもんだから、とてもじゃないけど生音じゃ太刀打ちできない。
アーケードを抜けて、少し広場になっているところの細い通路に陣取ってギターを取り出す。
かろうじてここなら音が聞き取れるぞ。
まぁなんとか頑張って歌ってるんだけど、すぐ向こうにプリンスがいるんだよな。
プリンスのモノマネ。
ギラギラのタイトな服を来た黒人の兄ちゃんが、
アアアオオオウウウウ!!!
イヒャイ!!
ファオオオアウ!!!
とプリンス特有の高音シャウトを、歌ほとんど歌わずに叫んでるもんだからうるさくて仕方ない。
もうスピーカーの音調整するときとか、ギャオォウ!!とマイクにシャウトして、首をかしげながらツマミをいじっている。
いかにシャウトが良く聞こえるかという調整をしている。
歌関係なく。
シャウト重視。
パープルレインばっかりやってるし(´Д` )
そんな中で根性で歌っていたんだけど、俺もそこそこ人だかりを集めて拍手をもらえる。
のだが、みんな拍手をしてそのまま歩いて行っちゃうんだよな。
いいね!とか、ベガスのバスカーで1番いい歌だ、とかお褒めの言葉はもらえるんだけど、お金の入りはちょぼちょぼ。
うーん、渋い………
それでも頑張って歌っていたら、20時をすぎた頃にいきなりアーケードの中から街中に轟くような爆音のライブが始まってしまった。
もう、ラスベガスなんなんだよ。
毎日どこかでショーをやってる。
毎日ド級のお祭り騒ぎ。
こうなってしまっては何もできねぇ。
プリンスも、マジかよーって顔してる。
ここでのあがりはわずかに15ドル。
今日は土曜日。
今夜稼がずしていつ稼ぐ。
時間がもったいないので、ものすごい人垣をかきわけ、急いでバスに飛び乗ってストリップ通りに向かった。
もう、ストリップ通りもとんでもないことになっている。
こんだけ凄まじい数の人間が世界中から集結して、金を落としまくってるんだから、一体1日でどれほどの金が動くんだろう。
みんな快楽に身を任せ、酒を飲みながら楽しそうに歩いている。
その中を必死な顔して小走りする俺。
ああああああ!!!!人多すぎる!!
もうどこでもいいや!!
やっちまえ!!!
人でごった返すクラブの前の歩道で声を上げる。
しかし、足早に次の快楽へと向かう人たちの足は1mmも止まらない。
歩くスピードさえ落ちない。
むなしく群衆の雑踏にかき消されるギターと歌。
なんかすっげぇ切なくなってきてギターを置いた。
分かるよ。みんなラスベガスにぶっ飛びに来てるんだもんな。
日常のストレスをすべて発散するために、非現実的な、夢のようなエキサイトを求めている。
こんな地味なギターの弾き語りには誰も足を止めない。
見上げれば、そこには超巨大なセリーヌディオンのショーの看板がギラギラと光っている。
他にもロッドスチュアートとか、各ホテルが超一流のエンターテナーを契約で雇っており、日夜趣向を凝らした豪華絢爛なステージが繰り広げられている。
それに比べて俺のちっぽけさったら…………
トボトボとギターを抱えてホテルに向かった。
しばらく歩くと、今夜泊まるホテル、リビエラが見えてきた。
この辺りには他にもサーカスサーカスという有名なホテルがあり、少しストリップ通りのど真ん中からは外れており、炎が吹き出したり爆音が鳴り響いてはいないけど、人通りも多く賑やかなエリアだ。
もう、嫌だ。
今夜はホテルに逃げこもう。
このネオンに照らされていたら自分が
とことんカッコ悪くしか見えねぇ。
飲み物だけ買って帰ろうと、24時間のファーマシーへ入った。
コーラを買ってお店を出ると、駐車場に黒人のオッさんがいた。
着古した服。
よれたTシャツ。
「ハーイ、調子はどうだい?タバコ1本くれねぇか?」
おじさんは手にペーパータオルと洗剤らしきものが入った霧吹きを持っていた。
どうやらこの駐車場で、お店にやってきた車の窓拭きをして稼いでるみたいだ。
このオッさんの方が俺なんかよりよっぽど稼ぐだろうな………
いつもだいたいあげないんだけど、今日はオッさんにシンパシーしか湧かない。
タバコを1本差し出した。
「おいおい、お前ギター弾くのかい?よし、だったらここでやりなよ。ここはいいポジションなんだぜ。」
そう言ってお店の入り口の横を指差したオッさん。
「でもここはオッさんの稼ぎ場じゃん。悪いよ。」
「何言ってんだ、俺だって音楽聞きながら仕事ができるんだから嬉しいんだよ。さ、やりな。」
丁寧に俺を案内してくれるオッさん。
気力を振り絞ろう。
こんなことを言ってくれる人がいるんだから、やらないと。
そこから2人、夜中の2時まで仕事をした。
オッさんが車の窓を拭き、俺が歌う。
オッさんの仕事は丁寧だ。
フロントガラスだけでなく、すべての窓、さらにドアノブまで綺麗に拭きあげる。
お店で買い物をする人たちが俺の歌を聞いてくれお金を入れてくれる。
いいコンビだ。
「ヘイ、バディ。俺は60歳だ。色んな経験をしてきた。だから分かるんだ。お前の歌には心がある。お前は心から歌っている。歌い続けるんだ。必ずチャンスが訪れるからな。あ、ハーイマダム、窓をピカピカにいたしますよ?」
オッさんはホームレスだろう。
人生を誤った人間だ。
きっと何も持っていない。
そんな人生を誤った人間の言葉にどれほどの価値がある?
社会の道を外れ、どこまでも堕ち、底辺でゴミにまみれてる男が一体どれほどの物を見てきた?
でも俺も同じ境遇とまではいかないけど、その世界を垣間見てきた。
そこには人間の弱さと汚さがある。
でも純粋すぎるほどのむき出しの人間もある。
とことん堕ちているからこそ、見上げる世界の美しさや虚像を彼らは知っているかもしれない。
そんなホームレスの言葉が、とことん胸に染みた夜。
ありがとうと言うと、ニッカリと笑うオッさん。
駐車場の電灯の下で、オッさんと一緒にタバコをふかした。
今日のあがりは60ドル。