8月21日 水曜日
【アメリカ】 オクラホマ ~ フラッグスタッフ
朝5時半。
携帯の目覚ましが3つ同時に鳴る。
ノソノソと起き上がる3人。
床に敷いたマットの上で充分眠れた。
ターミナルの中はまばらな人影。
ここはオクラホマシティーのグレイハウンドバスターミナル。
よし、今から24時間のバス移動か。
目的地はあのラスベガス。
人生初だな、24時間もバスに乗るとか。
24時間、バスで高速道路を移動してもなお、半分も走らないというアメリカのでかさ。
ていうか24時間もバスの中で何すればいいんだろう?
Wi-Fiがあるからまだいいけど、それでも限界あるぞ。
バスは夜明け前のオクラホマを出発。
大陸を真横に貫く大動脈、高速40号線をひたすら走る。
エンジンがうなりをあげる。
まだこの時間のバスの車内はみんな静かにしている。
いつものように極寒地獄の中、寝袋に包まって眠った。
アマリロ、アルバカーキと、バスは荒野の中に取り残された小さな町に立ち寄りながら進んでいく。
どこまで広がる地平線。
笑えるくらい何もない。
なーーーーーんにもない。
風力発電の風者群が見えた。
それが一大イベントになるくらい窓の外の景色は変わらない。
これが大西部か。
遠い記憶を呼び戻すような口笛の音が風にさらわれる。
たまに休憩を挟みながら、バスは進む。
次第に周りの風景が荒涼とした岩場に変わってきた。
乾いた赤い大地が広がり、ポツポツと大きな岩山が切りたち始めた。
切り株のように上がスパッと切り取られた台地が、いきなり崖となって落ち込んでいる。
それらが遠く霞みながらどこまでものびている。
もうグランドキャニオンが近いのか。
大地の歴史、地球の息吹を感じずにはいられない。
太陽が傾き、それらの赤い岩を夕陽がさらに赤く染める。
動物の気配はなく、厳しい自然の中を風が吹き渡る。
これこそ西部劇の舞台だ。
この世界一の文明国にもこんなむき出しの地球が残る場所があるんだということが不思議な感覚だな。
夕陽が沈むと、荒野は明かり一つない漆黒の闇に包まれた。
雲が出ていたので月明かりもない。
もはやバスのヘッドライト、そして対向車線から迫ってくるコンボイトラックの派手なライトくらいしか目に入るものはない。
空と地面の境界線がなくなり、闇の中を漂っているかのように位置感覚がなくなる。
漂流を恐れるなかれ。
たどり着く先に必ず何かが待っている。
バスは最後のチェックポイント、フラッグスタッフのターミナルに到着した。
ここで3時間の待ち時間の後、バスはラスベガスに向かって出発する。
すでにここは数多くの国定公園のど真ん中。
グランドキャニオンやセドナ、モニュメントバレーなどを周る拠点の町だ。
最低でもグランドキャニオンには必ず行きたい。
グランドキャニオンまでならラスベガスからどうにかして行けるだろう。
バスがやってきた。
名もなき人々とシートに座る。
ゆっくりと走り出す明かりの消えたバス。
窓の外に広がる漆黒の闇。
ここは昼間ならば目もくらむような壮大な地球の荒肌の上。
地球なんて小さなもんだ。
どうせ同じ星の上。
夜空と自分の距離について考える。
たゆたう気流がまばらな詩を乗せて連れ去ってくれる。
雲の上 浮かぶ月
気流に乗って 夜を飛んでいく
切り立った山脈を いくつ越えただろう
深い森に 寝静まった村を見つけた
木こりの子供は おとぎ話を夢見て
ベッドぎわの窓を 少し開けて眠る
この気流が激しさを増したら
どこまで行けるだろう
今はまだ夢の中
今夜は静かにお休み