7月11日 木曜日
【アメリカ】 ニューポート
「…………あへ……ふひ………」
隣でガサゴソと音が聞こえる。
また雨が降ってきた。
カッピーがテントから慌てて出ている。
俺は今日も気にせず寝続ける。
「ヘイ、ガーイズ、朝だぞー。」
管理人のおじさんの最初の仕事は俺たちを起こすことみたいになってる。
今日も荷物をまとめて、マクドナルドへ行き、店員の可愛い中国人にマゴマゴしながら1ドルバーガーを買い、今日こそ稼ぐぞ!!と勇んで路上へ。
このニューポートはアメリカ北東部における避暑地、別荘地として、お金持ちがやってくる風光明媚な町になっている。
港にはたくさんのヨットやクルーザーが並び、通りにはオシャレなレストランが軒をつらね、お金持ちそうな白人が葉巻をくわえて優雅に歩いている。
格式高そうな別荘地域には、巨大なお屋敷がずごんずごん建っている。
建物自体も、木造の古めかしいものばかりで、古き良きアメリカの姿を残している。
さて、そんなニューポートだけど、町自体はそんなに大きくないので、人が集まる通りはほんの2本くらい。
港のフェリーポート周りに人がひしめく歩行者天国の通りがあり、ここがおそらく1番のスポット。
周りには観光客向けのレストランが並び、オープンテラスになっているので、みんな外でガヤガヤと料理を楽しんでいる。
この、人が1番集まる十字路のど真ん中でカッピーとユージン君はやることに。
レストランのBGMとして優雅にジャズを聞かせればかなり稼げるはず。
ただ気になるのは、このニューポートがバスキング禁止の町だという情報。
こんな良い町なのにバスキングができないのか?
それはこのラグジュアリーな町に、貧乏なバスカーなど似合わないからだろう。
しかし町も配慮してくれてて、そんなバスカーたちの鬱憤を晴らさせてあげるために、バスキングフェスティバルなんていうものが開催されているらしく、たくさんの路上パフォーマーが一堂に会するイベントがあるそう。
しかもそれが来月に行われるんだそう。
それくらい路上パフォーマンスに対して敏感なこの町。
果たして稼げるか。
日本人が同じような世界一周の看板を出して路上をやっていたらバッティングしてしまうので、俺は少し離れたショッピングストリートのほうでやることに。
こっちのほうも人通りは申し分なし。
おしゃれなアクセサリー屋さんやアイスクリーム屋さんが並ぶ通りでギターを取り出す。
準備していると、小さな男の子がじーっと俺のことを見ている。
「ハーイ。」
「ハーイ。」
アジア人の路上パフォーマーなんて珍しいんだろうな。
興味しんしんで旅のことを聞いてくる。
「すげえ!!アフリカすげえ!!」
「父ちゃんはどこいるの?」
「パパはパーティーに行ってるんだ。」
1人でキックボードで遊んでる少年。
かわいそうに。
歌を歌い始めると、その子、おもむろにポケットからモサッ!!とお金を取り出して無造作にギターケースに置いた。
ちょ!!
ガキのお小遣いであげられる額じゃねえ!!
マジか………
10ドル近くあるぞ………
やっぱニューポートやべえ。
子供でさえこれかよ………
そっからはもうフィーバーですね。
1人の入れる金額が多い!!
もうコイン入れる人なんていない!!
ウィンナーみたいな葉巻を加えたオッさんとかが、ポケットの中から無造作に取り出した何枚もの紙幣を確認もしないで入れていく。
いつも3ドル以上はある。
すげえ!!!
「おおーい!!すごいことになってるじゃーん!!」
てっちゃんがやってきた。
スパイてっちゃん(^-^)/
カッピーたちのほうと俺のとこを行き来して情報を教えてくれる。
「向こうもすごいことになってるよ!!バブルってる!!ヤバいよ!!」
マジかー!!
警察に怒られたらすぐにやめるはずだけど、来ないということは順調に稼いでるだろうとは思ってたけど、そんなにか!?
うおー!!燃える!!
負けねぇぞ!!!
ピックを忘れたので、マネージャーてっちゃんに車から持ってきてとお願いして、歌い続ける。
しばらくしててっちゃんが戻ってきた。
ここでてっちゃんがとんでもないことを言った。
「はい、ピック。あ、それとさ、そこに仮設テントがあるじゃん。ゆうべライブやってた。」
「あー、なんかやってたね。テントだから音丸聞こえのとこやろ?」
「明日あそこにBBキングがくるみたいだよ。」
…………………
落ち着こう。
よし、落ち着こうか。
えーっとBBキングか。
あれだよね。
ただの神だよね。
ブルースの。
そうそう、ただの生きる伝説ってだけの人だよね。
ぎぃぃぃぃぃぃぃいいいゃぁぁぁぁぁぁぁああああいああああいいいいいいいいいいいいああああああああ!!!!!!!!!
びーびーきんぐううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!
お、落ち着け…………
落ち着くんだ俺。
ただの神なだけじゃねえか…………
ブルースの巨人、レジェンドオブアメリカ、
ギター弾きなら神中の神、
生きながら歴史に燦然と輝く金字塔でしかない、あのBBキングだよな。
えーっと、おとといポールマッカートニーと会ったんだっけ?
現代の音楽業界でポールを超える人って誰かいたっけー?って話してたよな?
マジで超えてきた。
BBキングが頂点。
落ち着け!!
そんなに上手くいかねぇよ。
「今調べてきたんだけど、18時開場の19時開演、キャパは500人くらいでチケットが45ドル。しかも来週の水曜日はドゥービーブラザーズだよ。」
な、なんて敏腕なんだ、てっちゃん(´Д` )
敏腕マネージャーすぎる(´Д` )
よーし、あんなテントならば外で音は聞けるはず。
ニューポート延長決定。
それにしても、あんな仮設みたいなテントにBBキングを呼べてしまうこのニューポート、とにかく金持ちすぎるわ。
嬉しすぎる情報とともに、今日の俺のあがりもかなりの金額に。
紙幣が多すぎるから後で数えよう。
ギターをしまい、ホクホクになって夕闇が迫るレストラン通りの方に行ってみた。
おおお、晩ご飯時のレストラン通りは人でごった返していた。
こりゃあ、すげーぞ。
カッピーとユージン君、どんだけ稼いでるかな。
高そうな海鮮レストランがひしめく1番賑やかな角にカッピーたちがいた。
「あ、文武さんじゃないですか~。いやー、もう大変なことになっておりますよ~。えへへ~。」
よ、余裕かましすぎ(´Д` )
どれくらい稼いでんだ?と、あがりを入れてる袋を見せてもらったら、ビニール袋の中に無造作にものすごい数の紙幣が入っていた。
すげすぎる!!
夕焼けが赤く染めるハーバー。
幸せそうな人たちが、カチャカチャとナイフとフォークを動かしている。
暖色の外灯がともり、石畳の歩道が淡く光る。
そこに2人のムーディーなジャズが、これでもかってくらいカッコ良くマッチしている。
こりゃ、ロマンチックだぜ。
ひっきりなしに足を止める人々。
レストランの中からも食事をしてる人がわさわざチップを持って出てきたりする。
こりゃ、稼げるわ。
この男、普段はめんどくさいめんどくさいよーってプラプラしてるけど、やるときゃマジでかっこ良い。
カッピーの音は本当にイカしている。
やればやるほど稼げそうな勢いだけど、カッピーの集中力が切れてるのでこの辺で切り上げることに。
「よーし!!みんなも稼げたことだし、僕のオススメのお店に行こうか。ここニューイングランド地方の名物のクラムチャウダーがすごく美味しいお店があるんだ。ニューヨークスタイルだとトマトベースなんだけど、ここではクリームベースなんだ。少しタバスコを落とすのがこっちの食べ方なんだ。」
歩く地球の歩き方、てっちゃんに連れられて、裏通りにあるアメリカンな雰囲気ぷんぷんのレストランへ。
オープンテラスで早速あがりの勘定。
「うひょおおおぉおぉおぉ。」
やっぱかっこ良くねぇ(´Д` )
ゲスすぎる(´Д` )
どこのマフィアだよ(´Д` )
まぁほとんど1ドル札だけどね!!
楽しいお勘定!!
結果は!!
俺、95ドル!!
カッピー&ユージン、226ドル!!
すげえええええええ!!!!
で、クラムチャウダーうめあえええええええ!!!!!
「やったー!!やっぱりポール効果だね!!」
「ポールありがとー!!!」
「で、明日はBBキングだよ!?出待ちしちゃう!?」
「いやいや、俺たち持ってるからさー、出待ちなんかしなくても向こうから来てくれるから。」
明日、この持ってる男たちとBBキングの出会い。
どうなることやら!!
充実感に包まれて乾杯!!