6月19日 水曜日
【カナダ】 トロント ~ ハミルトン
木の枝の隙間から青空がのぞく。
その青空にビックリするほど巨大な風車がグルグル回っていた。
ベンチの上、寝袋からゆっくり体を起こす。
う、喉が痛い………
風邪の兆候のアレだ………
や、病は気から。
ガンガン行けば勝手に治るさ。
荷物をまとめて歩いた。
1時間くらい歩いて、ちょうどいい感じの道路になってきたので早速ヒッチハイク開始。
さーて、北米1発目のヒッチハイクはどんなもんかなー。
「ヘーイ、どこに行きたいんだいー!!」
「あ!!は、ハミルトンに行きたいです!!」
「ラッキーメン!!カモン!!乗りな!!」
話が早え(´Д` )
わずか10分でゲット(´Д` )
ヒッチハイクっていうやつの認知度がすげえ。
乗せてくれたおじさんは学校の先生。
にこやかでお話の上手なおじさんと、ハミルトンまでの45分のドライブでたくさん話をした。
「ハミルトンはブルーカラーの町って言われてるんだ。服の色のことさ。ブルーは汚れが目立たないだろ?そしてトロントはホワイトカラーの街ってわけさ。」
どうやらハミルトンはいわゆる工都で、工場に勤める人が多い、決して豊かな町とは言えない場所みたい。
トロントは白いシャツとスーツを着込んだビジネスマンの街だった。
あと、単純な疑問としてこの質問も。
「カナダにはアジア人や黒人の移民がものすごく多いけど、それを不快に思ったりしないんですか?彼らがカナダのものを盗んでいくって言う人もいましたけど。」
「あー、それは一面的な見方だよ。彼らはたくさんの文化やテクノロジーや技術をカナダにもたらしているんだよ。その恩恵に預かってる部分のほうが多いんだよ。」
「人種差別はどうですか?」
「ヘイヘーイ!!そんなもの世界中、どこに行ったってあるもんだろ!?俺はたくさんの人間がいるのを素晴らしいと思うよ。こっちを見ればアフリカンの美女、こっちを見ればアジアンの美女、向こうにはヨーロピアンの美女。ご飯もインド料理は最高だし、イタリア料理も大好きさ。それが選び放題なんだから最高なことだよ!!」
こんな風に考える人がほとんどなんだろうけど、おそらく彼は気を使って教えてくれなかっただけだろうな。
実際、モンキーと言う言葉を何度かトロントで聞いた。
俺のことを言ってたかはわからないけど、あれはきっと悪い言い方だった。
移民が入り混じれば、きっと派閥のいがみ合いは大きくなるものだと思う。
「俺たちが若い頃は夜にみんなでナイアガラにドライブに行ったもんさ!!」
そんな楽しい時間はあっという間で、すぐにハミルトンに到着した。
おじさん、ありがとう!!!
さて、この辺りがメインストリートということだけど…………
うん、まぁまぁ栄えてる。
大きなビルやショッピングモール。
お店もカフェもたくさんあり、人々も行き交っている。
よし、ここで早速路上かますぞ。
街のど真ん中にある、ショッピングモールの入り口の前でギターを構える。
通りの向こうではウクレレのバスキングをやってる人、あっちのほうではバイオリン弾いてる人。
しかしどれも本気のパフォーマンスではない。
物乞いも多い。
やっちまえコノヤロウ!!
大フィーバーはしない。
でもコンスタントにお金は入る。
街で1番人が集まる場所だからか、悪そうなヤツがたむろしているし、セットでお巡りさんも常駐しているこのスペース。
交差点になってるので車がバンバン走っててやかましいが、もうそれも慣れてきた。
看板効果もあって、色んな人が話しかけてくる。
暑い日差しに汗をぼたぼたかきながら歌い続けて、ハミルトン初日のあがりは58カナダドル。
「ハロー、僕はクリスチャンなんだ。旅をしてるのかい?僕もギターを弾いてていつも、ホラ、あそこの公園で弾いてるんだ。でもバスキングじゃないよ、曲作りさ。ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ…………」
色白で細身の、古びた服を着た兄さんが話しかけてきた。
凄まじいマシンガントークで。
人の話をまったく聞かずに、自分のことをひたすらまくしたてている。
英語がネイティブすぎるのと、難しい言い回しをするので、8割理解できない。
まだ歌いたいんだけど、ルック!とかリッスン!!とか言って、俺がギターを弾く隙も与えてくれない。
しかもしゃべる時の距離が近すぎる。
超真剣な目をぐいと近づけて熱弁してくる。
おお、め、めんどくせえ………
というわけで彼、トーマスの家へ。
「僕はとてもいい人間だよ。だから僕は君を信じてる。でもこのインターネットは僕の個人的なものだから使わせられないんだ。僕はボランティア活動をやっててたくさんのビップの友人がいるからセキュリティをしっかりしないといけないのさ。ホラ、これを見て、この人は世界中に影響力のあるクリスチャンで、これが彼のサイトで、ホラ、これは彼の著書で、世界中で売れてるんだぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃ…………」
とどまることを知らないトーマスのマシンガントーク。
そんなトーマスは小さな子供が3人いるらしいんだけど、この部屋にはいなかった。
でも部屋の中は子供のためのゲームやポスターで溢れている。
どうやら奥さんと離婚して子供はそちらにいるみたいだ。
そんなトーマスが晩ご飯を作ってくれた。
作ってる間もトーマスのトークは止まらない。
「なぁなぁ!!フミは何々の映画を見たことあるかい!?ないのかい!?オーマイゴッド!!あれは素晴らしい映画なんだよ!!特に最後のシーンはうんたらかんたら………」
作りながら話せばいいんだけど、必ず手を止めて、わざわざ俺の顔の目の前までやってきて熱弁するので、料理が気になって仕方ない。
それを10秒ごとに繰り返すので、結構疲れる。
「フミ!!これ観ないとダメだよ!!マジで素晴らしいから!!」
と、映画のホビットのDVDを出してきた。
トーマスの部屋にはゲームがわんさかある。
初代ファミコンからスーパーファミコンからゲームキューブとか、もうありとあらゆるゲーム機が揃っている。
そして映画も、ドラマ物ではなくて、ホビットとかバットマンとかのシンプルなもののみ。
根が純粋なんだろうな。
俺もその手のは嫌いじゃないし、ホビットは話題作なので観たいと思ってた。
のだが………
まぁ映画を観てる最中もトーマスは絶え間無く話しかけてくる。
「ここ、ここのシーン覚えてるかい!?ロードオブザリングの場面と繋がってるんだぜ!!ホラ!!クールだろ!!どうだい!?」
横でずっとわーわー言ってる。
いい場面になると俺の顔をドヤ顔で見てくる。
うー、気が散る………
というわけで一切集中できずにホビットたちが悪者たちと戦ってるうちにいつの間にか映画終了。
超スッキリしない。
その後も、このYouTubeの画像見な!!このバンドすごいんだぜ!!
これは俺が録音したやつなんだ!!
こうやって弾くんだぜ!!
とまぁひたすらに話し続け、ギターを取り出し、演奏を披露され、風邪気味で頭がボーッとして倒れそうになる。
「トーマス、悪いけどそろそろ……」
「ほら!!ここのコードチェンジが絶妙なんだよ!!ホラこうやるんだ!ちゃんと聴いて!!」
5分、聴き続ける。
「いいね、いいと思うよ、俺疲れたからそらそろ寝て………」
「あ!そうだ!!俺のお気に入りのバンドの曲を聴かせてあげるよ!!アッメイジングなんだ!!これと、ホラ、これもすごいんだぜ!!俺がこれと出会ったのは5年前でうんたらかんたら。」
20分、YouTubeを見せられる。
も、もう倒れる………
「トーマス!!本当にもう寝るよ!!疲れたからさ。」
「そ、そうかい。あ、これだけいいかな。これだけ。ソロがめちゃいいんだぜ!!あ、これもきっとフミ好きだと思うよ!!あ、これはカナダのバンドで、ここ!!ここのソロが最高なんだ!!」
「トーマス!!頼むから!!ごめん!!じゃあお休み!!」
強引に寝室に入り、ベッドに横になった。
ああ………疲れた………
喉痛い………
風邪なんか引いてる場合じゃないのに。
1日だって休めないからな。
するとドアが開いた。
「ヘイ、フミ、ごめんね。僕のやってるボランティアのことなんだけど世界中に仲間がいてうんたらかんたら………」
「うん、そうかい、わかったよ。」
「寝てるところごめんね、フミ。ゆっくり休んでね。」
ひとしきり喋ってからドアが閉まる。
トーマス、お喋り好きなのはわかるけど、もう少し気を遣ってくれよ(´Д` )
人の話、ほぼ聞かずに自分のことばかりマシンガントークはきつい………
まぁ悪いやつではないけど。
彼は自分でも言うようにクリスチャンのボランティア団体に所属しているし、純粋に俺を手助けしたいと言う想いからやってくれてることだから、それは素直にあり難い。
サンキュー、トーマス。
ドアが開く。
「なぁなぁ、フミはどこの国が1番好き?僕はイスラエルに行きたいんだ。イスラエルに行くのが僕の夢なんだようんたらかんたら………」
ついにベッドにまで登ってきて、リッスン、と言ってくる。
いやぁぁぁ!!!
トーマスもうお休みいいいい!!!!!
「なぁなぁ、フミ?」