6月1日 土曜日
【カナダ】 トロント
ここはあれですね。
沈没スポットですね。
新たな沈没の街、トロント。
バッグパッカー垂涎の内容。
でも、全部無料だからといって押しかけないで下さい。
ここの根底にはクリスチャンの教えがあります。
なのでアルコールは厳禁です。
僕は運良く敬虔なクリスチャンであるバーバラがここの知り合いだったので口をきいていただいたけど、突然行って泊めて下さい、はやっぱりナシだと思う。
多分受け入れてはもらえると思うけど。
これまでも、野宿していますと言うと、ホームレスシェルターに行きなさいと住所を教えてもらったりしていたけど、自分からは行かなかった。
駐車場とかで炊き出しをやってても、空腹を我慢して通り過ぎていた。
これからも自分から行くことはない。
今回は偶然のバーバラとの出会いからの賜物なので、今の状況を楽しんでみようと思う。
週末は消灯時間も遅いが、起床時間も遅い。
みんなゆっくりと週末の朝をベッドで過ごしている。
彼らは仕事をしていないからそんなの関係なさそうだけど、そういう一般の社会人と同じに扱うところに彼らへの配慮がある。
朝ごはんを食べ、日記を書いたら、洗濯。
受け付けにあるランドリー予約表に、自分の名前を書きこみ、自分の番がきたら洗濯機に汚れ物を放り込む。
今日は天気が悪いので、ちゃんと乾くかなぁと思っていたんだけど、しっかり洗濯機の横には乾燥機が置いてある。
もう至れり尽くせりだな。
外でタバコを吸いながら、周りのみんなのことを見る。
タバコちょうだいと1人が言うと、みんな率先してタバコを差し出す。
ちょっとスタバ行くんだけど1ドル足りないからくれ、と誰かが言うと、1ドルじゃ足りないだろうと2ドルを渡す人。
彼らは貧しい。
お金はほとんど持ってないはず。
でも、こうした貧しい人たちってのは所有欲がとても少ない。
失うことを全然恐れていない。
金持ちはケチというが、たくさんの物を持ってしまったら失うことが怖くなってしまうんだろうな。
貧乏でもいいから、彼らのように分け合う心を持っていたいな。
洗濯の時間があったので、ずっと折り紙していた。
なかなか上手になってきたな。
お昼ご飯を食べてから、街に出た。
この週末までトロントで歌って、次の街に行くとしよう。
土曜日のメインスクエアは相変わらずすごい人ごみ。
ドラムやら、バンドやら、水晶玉のジャグリングやら、アクロバットやら。
広場の真ん中ではフォルクローレのグループがお決まりのコンドルは飛んでいくを、野外用のスピーカーが轟かせている。
それぞれがガンガンにスピーカーを使って音を垂れ流しているので、もう音が混ざりまくって騒々しいことこの上ない。
俺も少し離れた場所に陣取ってギターを鳴らすが、なにせこっちは生音。
車とトラムとパトカーのサイレンで、歌がかき消される。
こんなとこじゃやってらんねぇ。
ああ、ヨーロッパはホントにどこの街でも路上やりやすかったなぁ。
1時間もやらないで切り上げた。
お昼のあがりは、たったの7カナダドル。
もはや地上はどこもやかましすぎるので、メインスクエアの下に張り巡らされている地下道を歩き回ってみた。
デパ地下と地下鉄が混在する複雑な通路をさまよっていると、ちょうど3つの入り口が交差する通路を見つけた。
ただの通路なのでお店もなく、まさにおあつらえ向きの場所。
こりゃいいや、と思ったら………
まぁそんないい場所には、先客がいるもの。
爺さんがギターを鳴らしていた。
コードもろくに弾けておらず、ウヒョウ!!ウピョオオオ!!と奇声を発してるだけの、なかなか奇抜なジャンルの弾き語りをしているので、交渉してみた。
「あとどれくらいここでやりますか?僕もやりたいんですが。」
「え?あ、あー、ライセンス持ってるの?」
やっぱりトロントの路上はライセンスが要るんだな。
もちろんこの爺さんもライセンスなんか持っていない。
持っていない同志なら譲り合いが路上のルールだ。
18時半に交代することにして、俺は一旦シェルターに戻った。
シェルターに着くと、たくさんの人でごった返していた。
あれ?こんなに泊まってたっけ?
と思ったら、ご飯だけ食べに来てる人たちだった。
週末は食堂を解放して、宿泊者以外にも食事を振舞っているよう。
なので、変な輩も多い。
意味もなく大声出してる奴とか、シットとマザーファッカーをずっとつぶやいてる奴とか。
ここに宿泊してるみんなは、食べ終わった食器はキチンと片付けるのだが、今日だけ来てる下品な奴らは食べるだけ食べてテーブルを汚したまま、さっさと出ていく。
同じホームレスでも、ここにいる人たちはみんなキチンとマナーを持っている。
尊厳は人を変える。
ご飯を食べ、18時になってからベッドルームが開き、ベッドを確保してからもう一度街へ。
さっきの地下通路に行くと、爺さんシンガーはどこかへ消えていた。
トロントの地下通路。
ギターを鳴らす。
響いて気持ちがいい。
歌も声を張り上げなくていいのでしっかり歌える。
地上のあの、無理矢理にでもこちらを向かせようとするカツアゲみたいな騒がしさから離れ、この地下通路に落ち着いた音楽を流した。
みな微笑みながらお金を入れてくれる。
しかしやっぱり人の数からすると、もっと入ってもいいもの。
反応は渋い。
まぁあれだけ毎日ドンチャン騒ぎのパフォーマンスをカツアゲみたいに見せられてるんだ。
ちょっとやそっとのことじゃこちらを見もしない。
そしておちょくってくるバカも多い。
イエーイとか言って前でふざけて、ポケットに手を突っ込んでお金を入れるフリをする。
フリ。
そして俺の反応をニヤニヤしながら見ている。
ヨーロッパでも、この入れるフリ、をする奴はたまにいたけど、ここではその確立が高い。
人のことなめてる下品なやつらが多い。
まぁそれでも頑張って歌い、
夜のあがりは23カナダドル。
今日の合計30カナダドルか。
いい場所を見つけたことだし、お昼からここでやれば50カナダドルは稼げるだろう。
ここなら雨が降ってもできるし。
今こうしてシェルターに入ることが出来、お金を使わずにご飯と寝床を確保できている状況をもっと有効に使わないとな。
新しいレパートリーを加えたり、曲作りもしないと。
最近、缶詰とお粥とパンしか食べてなかったから体もすごく痩せ細っていた。
ここにいれば確実に太る。
少し太っときたい。
規則正しい生活。
しっかりと栄養あるご飯を食べ、歌って稼ぐ。
ああ、最高の場所だな、ここ。
隣のベッドのデブなおっさんのハンマードリルみたいなイビキ以外は。
もう今も真横でコンクリートはつってるような爆音。
勘弁してくれ………
おやすみなさい。