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ヨーロッパ最後の友達

5月27日 月曜日
【スイス】 バーゼル







どうも。

暖かいコメント、いつもありがとうございます。

俄然、不法滞在真っ最中の金丸文武です。



早くシェンゲン出たい。


いや出たくない。




ふう、今日の日記いきましょう。















いつもの空き地のベンチで目を覚ました。


ゆうべは小雨が降っていたんだけど、なんとなく空気で明日は晴れそうな気がしてテントは張らずにそのままベンチで寝袋に包まったんだけど…………





寝袋から顔を出すと、頭上に生い茂る幾重もの葉っぱからキラキラと木漏れ日がきらめいていた。


よし、最高の天気。

路上日和だ。









photo:02




まずは、起きてすぐに旅行代理店へ向かった。

870フランには少しだけ届かせることが出来なかったけど、これくらいなら手持ちのユーロを少し換金すればいい。



俺、頑張ったぜ。







旅行代理店で、いつものお姉さんに挨拶。

何も言わずに手続きを始めてくれる。












のだが…………



パソコンを叩いていた彼女の口から思いもよらない言葉が飛び出した。



「アイムソーリー。チケットの受け付けが終わってしまってるわ。」











は?






月曜日で大丈夫って言ったよね………?








は?









ええええええ!!!!!!


なんでだよ!!


空席は充分にあるから問題ないって言ったやん!!!



「私もわからないわ。なぜか受け付けがクローズされてるの。」





じゃ、じゃあ他の便は!!




「うーん………見つからないわ。すべて来週ね。アメリカ経由の便は今週あるけど。」


「僕、ビザがないからアメリカ経由はできないんです………」


「そうよね………これはどう?パリ経由で1200フラン。」












あー、無理だよー………

一生懸命お金作ったのに、そんなに跳ね上がったら無理だよー…………




なんとかしようとパソコンをパタパタ叩いているお姉さん。

うなだれる俺。


金曜日の時点でユーロ全部換金してでも買っとけばよかった………










「ひとつだけ見つけたわ。パリ経由の往復便が明後日に出てるわ。994フランよ。」


「片道は取れないんですか?」


「片道より往復のほうが安いのよ。」





はいー、一生懸命貯めたのに、さらに100ユーロプラスー。


800ユーロ。
10万円。



どう考えても高い。

たぶん旅慣れしてるバッグパッカーならこの半額を見つけられるはず。

脱サラ課長のたいさんレベルなら3分の1くらいの値段で探せるはず。





でももうこれしかない。

自力でこれ以上のものを探し出す自信が1mmもない。



「わかりました。銀行行って換金してきます。」








代理店に荷物を置かせてもらって、駅のウエスタンユニオンへ。

まずはおとといと昨日の分の小銭の両替。



これで手持ちのフランが800フランになった。


残り200フラン。


「200フラン欲しいんですけど、いくらユーロを換えればいいですか?」


「んーと………165ユーロだね。」






本当ならここで50ユーロも換えるだけでよかったのに………



しかしいまさら仕方ない。

ついに1000フランをゲット。





photo:01




代理店に戻り、震える手で10万円分のフランを払う。


チケットゲット。


明後日、チューリヒの空港からパリ、パリからカナダのトロントだ。




スイスへの往復のチケットなので、これでカナダの入国は楽勝かなと思いたいんだけど、俺はシェンゲンを追い出される身。


それがバレれば真っ赤な嘘なので一気にカナダ入国が危なくなる。



正直にアメリカに行きますと言うしかないよな。








10万円も使ってしまって、あと手持ちのお金いくらあるのかなと数えてみたら、ヨーロッパの他の国のお金もあわせて、まだ800ユーロあった。



そうだよな。ほとんどこのスイスで稼いだんだからな。

悪くない。
残りあと今日と明日でいくらこの手持ちを増やせれるか。

所持金のチェックをされるであろうカナダ入国には、たくさん持ってるほど有利だろう。




よし、あと2日。

稼ぐぞ!!!






photo:03




うおおおおーーい!!

最高の天気!!

上着を着てると汗ばむくらいの陽気だ。


久しぶりの太陽に体の淀んだ部分が綺麗に乾いていく。





目標200フラン!!

photo:04




飯を流しこんで張り切って路上開始!!!





photo:05





photo:06









なのだが…………


うーん…………




全然入らない。

どうしたことだ?

昨日までと同じ町なのか?って思うほど、全然入らない。


連日、休まずに歌いまくっているおかげで喉もボロボロだ。


かろうじて20フラン札が入ったおかげで、少しは格好がついた。



疲れてるな。

なんとか気合いを振り絞って頑張ったけど、19時で切り上げた。

photo:07






あがりは70フラン。
5ユーロ














バーガーキングでネットにつないだら、あのバンパイアのジョシュからメールが来ていた。


うげ、なんだこの長文。

呪いのメールかよってくらい長くて色んなフォントを使ってて怖い。



「リッスン。私はあなたに部屋を提供した。なのに君は僕をリスペクトせずに僕の日曜日を破壊し、心の中で僕を笑っていた。おぞましい。今まで泊めたゲストもみなそうだった。僕はいつも日中はずっと寝ている。そのことの何がいけないのだろう。僕は君がそんな人とのやりとりで自分を見失わないかが心配でならない、うんたらかんたら…………」






怖えよ(´Д` )


もう、なんだよこいつ。

これの5倍くらいの長文だからね。


でもあいつは部屋にずっとこもってて、バンパイアみたいな格好してて、パソコンばっかりいじってて、人の話を聞かなくて、支離滅裂なことばかりまくしたてる奴だけど、根は悪い奴ではなかった。




「ジョシュ、俺は君を笑ったりしないし、リスペクトしてるよ。でも俺がそうするように、君も僕をリスペクトしなければいけない。君にプランがあるように、僕にもプランがあるんだ。」







しばらくして返事がきた。

またすげー長文。



「もし君が他の眠る場所を確保していないのならば、また僕の部屋に来ていいんだよ。ただし、今からシャワーを浴びるからあと30分は来てはいけない。僕は君を追い出したことを後悔しているんだ。君はいい人で、強く、サムライの心を持っている。また君とディスカッションがしたい。」









行こうかな。


いやいや、あのキレかたは尋常じゃなかった。

もしかしたら夜中に寝ているところを、ナイフで滅多刺しにされて血をすすられるかもしれない。


彼はそう思ってしまうほどに自分をバンパイアと思い、なりきろうとする人間だった。




でも………おそらく彼との出会いがヨーロッパで最後の出会い。

こんな険悪ムードで別れるのは嫌だな。




















そして彼の部屋にむかった。



「フミ、嬉しいよ来てくれて。さぁ入って。ほら、このビデオを見てくれ。彼は政治について話しているんだ。ユダヤ人だ。とても素晴らしいんだぜうんたらかんたら………」



映画の中でバンパイアが着ているような袖口の広がったゆったりとしたシャツにタイトなズボン。もちろん全身黒ずくめ。

ギラギラとした目。


ついた瞬間から、堰を切ったように彼の話はとどまることを知らない勢いで続く。



「ドイツ人には人種差別者が多いのさ。彼らはアングロサクソンのカトリックが1番だと思っている。ひどいものさ。ところでこのサイトを知ってるかい?このサイトとこのサイトのコンビネーションは最高でうんたらかんたら…………」



話しながらボングに葉っぱを詰めてモクモクとくゆらせているジョシュ。



今度はギターを取り出してきて、本気のシャウトで絶唱している。

頭を振り乱しながらバイオリンを弾きまくる。


ギターを渡されたのでテキトーに弾くと、今度は部屋の隅に置いてあったウッドベースを手に取り、気が狂ったように動きながら合わせてくれた。










1日に16時間くらい眠るというジョシュ。

明るい時間はまったく起きていない。


目の前のワイングラスには、ウォッカとレッドブルをあわせた真っ赤な液体。


完全にバンパイアになり切っている。







イカれた奴ではあるが、悪いやつではない。

類は友を呼ぶというのが本当ならば、俺だってイカれた男だ。


長かったヨーロッパ、最後の友達。


血のように真っ赤な液体を飲みながら、俺も頭を振り乱してギターを弾いた。





イカれた夜の、イカれた男たちのセッション。



不思議と、俺たちの音は綺麗に重なった。

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