5月25日 土曜日
【スイス】 バーゼル
よし!!歌うぞ!!
昨日、駅だともっと稼げるよって地元の人が言っていた。
その言葉を信じて中央駅へ向かう。
まずはバーガーキングに行って、チーズバーガーと同じ3.9フランのチキンナゲットバーガーではらごしらえして、トイレで身だしなみを整え、いざ駅へ。
稼がなければいけない土曜日なのに、雨が降り出し、駅の軒下は雨宿りする人たちでごった返している。
もうここでやってしまえ。
その雨宿りする人たちの中でギターを構える。
そして歌う。
雨は降ったり止んだり。
雨が降って雨宿りの人たちがやってきたら、静かなバラードを。
太陽が出てれば陽気な曲を。
お腹が空けば、バッグの中のお粥を流し込む。
途中、人だかりを作っているところにお巡りさんが来て、こんなパンフレットを渡された。
「ここにバスキングのルールが書いてるから。君はいいパフォーマーだからみんなに受け入れられてるね。」
この街のルールは、太鼓やトランペット、電子楽器など、音が大きい楽器はダメ。
4人以上のグループはダメ。
やかましい声を出したらダメ。
時間帯の指定もある。本当はお昼から16時までやったらいけないみたい。
稼ぎのいい時間帯にやったらいけないってのはきついな。
それでも許可証がないとダメとか、許可証を購入しないといけないってわけじゃないのは素晴らしい。
お金持ち国、スイス。
もっとたくさんの流れ者がやってきており、ジプシーの物乞いも多いだろうと思っていたんだけど、そうでもない。
地元の高校生みたいな兄ちゃんがオアシスを弾き語りしてるようなレベル。
スイスは実は路上しやすい国なんだな。
途中いろいろあったけど、13時から17時まで歌って、
お昼のあがりは135フラン。
と、5ユーロ。
ちょいと路上を切り上げて、駅の中のウエスタンユニオンに行ってみた。
ウエスタンユニオンってのはヨーロッパ全域をカバーする銀行。
だいたいどこの駅にもウエスタンユニオンの換金所がある。
レートはそこそこだけど、まぁ安心だね。
ダメもとでユーロのコインを換金できないか聞いてみた。
コインの換金はまず出来ないんだけど、フランスとドイツに国境を面している街だからもしかしたら出来るかもしれないと思った。
そして、やってくれると言う。
よし!!
そのままスイスフランに換えてもらおう。
レートは悪いだろうけど、もしここで出来なかったら電車に乗ってフランス側に行って、紙幣に換えてまたスイスに戻ってくるという手間をしなければいけない。
しかもまた国境で突っ込まれることは目に見えている。
多少のレートの悪さは目をつぶるしかない。
「えーっと……1ユーロが1フランね。」
くっ…………た、高え。
正規レートなら1ユーロ、1.2フランなのに。
まぁ、仕方ない。
別室で地道にコインを数えた結果、177ユーロあった。
そしてそれをそのまま換金して180フランゲット。
正規レートから30ユーロくらい負けてるけどそれはもうしょうがない。
そして忘れてはいけない。
俺はまだたくさんのヨーロッパのお金を持っている。
ボスニアヘルツェゴビナとかブルガリアとか。
本当ならギリシャに渡った時に換金したほうが、同じバルカン半島だからレートもいいだろうと思っていたんだけど、もはやギリシャには行けない。
ならばヨーロッパにいるうちに換金しておいたほうがいいと思う。
しかしよりによってスイスだからなぁ………
レートひどいだろうなぁ………
試しにクロアチアのお金を換えてみた。
60ユーロ分あったやつが50ユーロにしかならなかった。63フラン。
6分の1ももっていかれちまったよ。
この前パリでノルウェーのお金を換えた時は、30分の1もいかないくらいの負け分だったのに。
それでも高いくらいだったのに。
スイスは物価が高いが、銀行のレートも果てしなく高い。
やめた。
スイスで換金とか馬鹿らしい。
このお金はとっておこう。
これから南米に入れば、たぶんバッグパッカーたちにたくさん出会うだろう。
彼らに等価交換をもちかける作戦で行こう。
ブルガリア、
チェコ、
ボスニアヘルツェゴビナ、
ハンガリー、
スウェーデン、
に行くバッグパッカーたち、南米で会ったらいいレートで交換しますからー!!
なんなら少しこっちが負けてもいいからー!!
よし!!!後半戦スタート!!
雨が土砂降り、風ビュービュー、気温4℃という最高のコンディションの中で、また駅前の軒下で歌う。
天気が悪すぎて誰も足を止めようとせず悪戦苦闘しているところに、怪しげな男が話しかけてきた。
「よい歌を歌うね。」
黒いシルクハット、黒い丈の長いコート、黒い細いパンツ、黒いブーツ、
さらに首には大きなコウモリの首飾りをかけている。
完全にバンパイアのコスプレみたいな状態。
目もギラギラしていてかなり危ない。
「僕はユダヤ人でね、爺さんや家族のみんながホロコーストの犠牲になったんだ。ナチスと中国はベタベタでね、彼らはさらにアラブ人たちとも手を組んでいて世界を動かそうと考えているんだ。僕は人種差別主義者じゃないよ。」
ギラギラした目でひたすらマシンガンのように政治の話をまくしたてるジョシュ。
早口なのと難しい専門的な単語を使うので、ほぼ聞き取れない。
彼がやってるというインターネットサイトを見てみた。
まぁ外国人がやってるような、過激な政治批判と陰謀論に満ち溢れたアナーキーな闇サイト。
ほんと、こんな危ないやつはどこにでもいるもんだな。
というわけで彼の家にお泊まりすることに。
だって、この土砂降り雨の中でテント張りたくないもん!!
彼の家の場所だけ教えてもらい、俺は場所をかえて、飲屋街の中でもう少し路上。
しかし、雨と風と寒さで耐えられなくなり、ギターをしまって、ジョシュの家に向かった。
夜のあがりは83フラン。3ユーロ。
雨の中、ジョシュの家についた。
かなり広いアパートに1人暮らししているジョシュ。
部屋の中に入ると、まぁあれだわ。
タチの悪いハッカーとかはこういう部屋に住んでるんだろうなって雰囲気。
真ん中にソファーが置いてあり、その周りに様々なコンピューターが設置され、いろんな楽器が散乱している。
ベッドは真っ黒なシーツ、壁も真っ黒、その壁にホラー映画みたいな不気味な燭台までつけている。
部屋に流れるのは摩訶不思議な音楽。
クラシック音楽や合唱団の歌に、様々なエフェクトをかけまくっており、反響と、電子的なノイズで頭が混乱してくる。
そんな中、またひたすらマシンガントークで、意味不明なコンピューターのディープすぎるサイトの説明をしているジョシュ。
なぜか天井からマイクがぶらさがっており、常に電源が入っているので、ジョシュの声のトーンが上がるたびに気持ち悪いエフェクトのかかった声がスピーカーからこだまする。
話しながらモクモクとガンジャをくゆらせるバンパイア。
なんだこれ?
なんだこのサイケなシチュエーションは。
俺、なにしてんだっけ?
ここはスイス。
うん、明日も頑張って歌うぞ。
★現在、フラン総額
590フラン