4月6日 土曜日
【スペイン】 ウェルバ
~ 【ポルトガル】 リスボン
スペインでは、こんにちは、をオラァと言います。
あと豚のことをハモンと言います。
ジョ、ジョジョ………!!
朝、何事もなく目を覚まして寝袋をたたむ。
向こうのほうには5軒くらいのホームレスハウス。
もう全員仕事に出かけているようでひと気はなかった。
町に向かって歩いていると、交差点のところに黒人さんが立っている。
ひとつの交差点につき1人の黒人。
赤信号で止まった車に笑顔で近づき、ポケットティッシュを売っている。
イスラム圏ではよく見ていたこのティッシュ売り。
ただの物乞いよりははるかにマシだな。
ティッシュは必需品だし。
この前はスーパーマーケットの前で逞しい黒人の若者が立っているのを見た。
その若者は、買い物を終えて出てきたマダムに紳士に、陽気に話しかけ、車までの荷物運びをしてチップをもらっていた。
時代はもう変わってるのかもしれないけど、黒人が白人にへーコラしてる姿はやはり見てて気持ちいいものではなかった。
このウェルバにいる黒人たちもみな若い。
集団で橋の下に住み、一生懸命お金を貯めているんだろう。
きっとアフリカに帰ればものすごい大金に変わる。
日本人の俺たちには彼らの心境は知る由もない。
故郷の家族のために白人に媚びているんだ。
「ハロー!」
横を通り過ぎるとき、笑顔の爽やかな黒人の兄ちゃんが手をあげた。
俺にはティッシュすすめてこなかった。
同じ橋の下で寝たよしみだな。
ひとまずバスステーションへ。
ポルトガル行きのバスを探す。
ポルトガル。
どんな国なんだろう。
まったくイメージないな。
ユーラシア大陸の最果ての国。
かつて戦国時代に日本にまでやってきた海洋国家。
軽く調べてみたところ、南部にはそんなにめぼしい観光地はないみたい。
とはいってももちろん小さな町はいくつもあり、そこに暮らす人々がいる。
観光客が来ないようなところだからこそ価値がある。
行ってみたい。
でもそんな全部の町を周りまくっていたら3ヶ月どころか何年あっても足りねえ!!!
実は人との約束をしている。
川田ようすけというシンガー。
神戸出身の素晴らしいシンガーソングライターで、同じ歌うたいとして嫉妬してしまう才能を持った彼。
そんな彼と知り合ったのはまだ俺が日本を放浪しているころ。
彼と一緒にライブをし、彼の才能に触れ、悔しかった。
ギターはマジで嫌になるほどめちゃくちゃ上手く、歌もそう。
何より曲が素晴らしい。
彼の歌に東京タワーって曲がある。
日本人なら誰もが抱く東京への憧れ。
それを象徴する東京タワー。
若いころの、ほろ苦く、不安定な心を歌った名曲。
俺も一生懸命コピーした。
彼と一緒にライブしてから間も無くだった。
川田君が入院したと聞いた。
すぐに退院するだろうと思ってたら、そうじゃなかった。
癌。
精巣癌。
すでに体のいたるところに転移しており、中には缶コーヒーくらいの腫瘍もあった。
彼は元気そうな画像を送ってくれた。
でもその写真に写ってる笑顔の川田君は、抗がん剤の副作用で毛が抜け落ち病院服に身を包んで、見てはいられないものだった。
待ってるから必ずまた一緒に歌おう、とメールを送ったけど、はっきり言って心の中では、もうダメかもしれないという思いの方が強かった気がする。
若年性の癌。
進行は早い。
何度もダメかもしれないという気持ちを打ち消した。
でもやっぱり、もうあの素晴らしい歌を聴けないかもしれないとも思った。
そして彼は生き延びた。
俺なんかの想像を絶する凄まじい闘病生活を乗り越え、何度もの手術と入退院を繰り返し、現在、社会復帰し、仕事も手に入れた。
抗がん剤の影響は今も強く、かつての華麗なギターはもう弾くことができない。
しかし彼は生き延びた。
そんな川田君。
高校のころから付き合ってきた彼女がいる。朝ちゃんっていう可愛い女の子。
川田君に癌が見つかった時の朝ちゃんの衝撃は想像もつかない。
毎日毎日、病院に通ったそう。
悲しくて、悲しくて、でもそれでも川田君を励まし続けたんだろうな。
ついに去年、2人は結婚をした。
自分のことのように嬉しかった。
そんな2人の新婚旅行がパリ。
川田君からメールが来た。
「エッフェル塔の前で、朝子に東京タワーを歌いたい。そこにサプライズでやってきて一緒に歌ってくれないか?」
だから俺はパリに行く。
4月20日。あと2週間しかない。
それまでにポルトガルと北スペインを終わらせ、さらに南フランスを抜けてパリまで行かないといけない。
はっきり行ってほとんど見ることはできない。
どれほど素晴らしい出会いをやり過ごしてしまうか。
しかしそんなこと、この2人のためならばミジンコみたいなもの。
だってあの日約束したもん。
また一緒に歌おう、って。
それが実現するのが、朝ちゃんとの新婚旅行。
パリ。
エッフェル塔の前で東京タワー。
何がなんでも行く。
さらに!!!!
このブログの古くからの読者さんなら覚えてるかもしれないが、ドイツでソーセージとビールをおごってくれたあの大阪のパティシエ社長、植松さんがこの期間にパリにいるというではないか!!!
年に何度もパリに行くパリマニアの彼なら、素晴らしいケーキ屋さんを知ってるはず。
川田君たちにプレゼントしたい!!!
さらにさらに!!!
ダハブで出会ったサックス吹きの変態、カッピーと、バイオリン弾きのナナちゃんが、すでにライブのためにパリに入っている。
この2人にも曲に入ってもらったらとんでもないことになる。
すべての縁がパリに急げと言っている。
4月20日。
あと2週間。
飛ばすぞ。
というわけで一気にポルトガルの首都、リスボンまで行ってしまおう。
チケットの値段は36ユーロ。
時間は17時半。
よし、稼げる。
歌うぞ。
バスステーションの目の前からのびる綺麗なショッピングストリートへ。
暖かな日差しの中、たくさんの人々が歩いている。
このウェルバもまた、これといった名所のない小さな町なのだけど、それでも美しいショッピングストリートがある。
路上には何人もの銅像やアコーディオンのパフォーマーたち。
そこに混じって俺もギターを鳴らす。
1曲目の片足の犬を歌い終えると、いきなり10ユーロ札が入った。
ウオラァ!!!!
ヨーロッパ第2部、最初の10ユーロ札!!!
石畳の通りに気持ちよく歌が響く。他のパフォーマーの視線を横目に調子よく稼ぎ、今日のあがりは46ユーロ。
よし、バス代ゲットォォォォオ!!
飯食ってすぐにターミナルへ行き、リスボン行きのバスに飛び乗った。
あれ?どこが国境だったの?っていうくらい、いつの間にかポルトガルに入国。
バスは寂れた田舎を走っていく。
いくつもの小さな町を通りすぎる。
地元の人たちだけのささやかな町。
人のいないバス停。
しかしどんなに小さくても綺麗なショッピングストリートがのび、通りにはカフェが並び、人々が歩いている。
ここで歌えば………どんなことが起きるだろう。
なにかとんでもない展開があるかもしれない。
すべてを見ることはできない。
立ち止まることも、通り過ぎることも、その時自分で決めたことが最良の選択だと思わないとな。
北海道のような広大な原野の中を突っ走るバス。
ポルトガルのバスには綺麗な添乗員のお姉さんがいて、飲み物を勧めたりゴミを回収して回ったりしていてサービスが充実している。
Wi-Fiもついてるなんてすごい!!
そんな快適なバスに揺られ、夜22時にポルトガルの首都、リスボンに到着した。
このままバスステーションで寝ようかなと思っていたんだけど、バスの中でブログランキングの、バッカスを探してさんを読んでいたらたまらなくビールが飲みたくなって、外にビールを探しに行き、商店で330mlの瓶を1.2ユーロでゲット。
バスステーションに戻り、ベンチで寝袋に入ってビールを飲んでいたら、ここで寝てはいけないと警備員さんに締め出されてしまった。
仕方なく外を歩いた。
オシャレな駅舎。
林立する高層ビル。
高級そうなレストラン。
ポルトガルもやはり先進国だなぁ。
日付も変わった夜中をトボトボ歩いていたら、高架下の駐車場にハンバーガー屋さんを見つけた。
屋台なんだけどお酒も置いていて、若者たちで賑わっていた。
お昼にサンドイッチを食べただけだったので、空腹にフラフラと引き寄せられる。
爆音のダンスミュージックが流れ、今時の若者に混じってハンバーガーをかじる。3.5ユーロ。
「オブリガード~。」
みんなそう言っている。
ここはポルトガル。
スペインのグラシアス、からオブリガードに変わった。
さぁー、これから謎の国、ポルトガル。
一気に攻め上がるぞ。