10月23日 火曜日
野宿をするときは眠りが浅い。
寝ていながら神経を張っているから。
話し声はもちろん、風の音、魚が跳ねる音にさえ、敏感に反応してしまう。
落ち葉が地面に着地する音が、夢の中に忍び込む。
足音がした。
近づいてくる。
どんどん近づいてきて、すぐそこで止まった。
音の大きさから、1mの距離にいるはず。
音が動かない。
俺を見ている。
暗闇の中、誰かが俺が眠っているのを見ている。
心臓が寝袋の中で高鳴る。
まぶたごしにライトが光った。懐中電灯の光。
俺を照らしている。
薄目を開けると黒い影が足元に立っている。
そして足音が動いた。
懐中電灯の光が俺の顔を照らした。
もうダメだ。
ガバッと体を起こした。
たじろぐ黒い影。
さっと後ろに引き、1mほど下がった。ポーランド語で何か言った。
敵意のある感じではなさそうだ。
しかしその影、その場所から動かない。どこか向こうを見ながら立ったままそこにいる。
頼むからどっか行ってくれ、と願い続けるが、そのホームレスのおじさん、からっていたリュックを地面に置き、中からビールを取り出し、座りこんで飲みはじめた。
この広い公園の中、廃墟の建物の影に2人の男。
異様な状況。
どっか行ってくれ、どっか行ってくれと心の中で繰り返し続けているうちに、睡魔がやってきていつの間にか眠りに落ちた。
目が覚めるとホームレスはいなくなっていた。
荷物も手をつけられた様子はない。
夢の中の出来事のようだった。
怖かったけど、いい寝床。
落ち葉で埋め尽くされた公園にポツンと立っているこの廃屋。
落書きだらけで、窓はベニヤ板で塞がれていて人の住んでる気配はない。
ワルシャワの寝床決定。
町に向かって歩きはじめた。
ワルシャワは公園が多い。
めちゃくちゃ多い。
どこもかしこも木々の生い茂る静かな公園が広がっていて、その分地面は落ち葉の絨毯。
郷愁を誘う秋風が、ベンチの上の落ち葉を払った。
しばらく歩くと、ワルシャワの旧市街に出た。
王宮前広場にはポツポツと観光客の姿。石像の塔が中央に立ち、空高く十字架と剣を携えている。
先日プラハを見てしまっているのでまったく興奮しないが、たしかこのワルシャワの旧市街も世界遺産に登録されてたよな。
トロールで写真撮影。ミッションコンプリート!
広場から真っ直ぐにのびるメインストリートにはオシャレで現代的なショップが軒を連ね、レストラン、カフェが目白押し。
所々に大統領官邸やら教会やら、豪壮な建物が混じっている。
さすがに首都。
国の中枢を担う重要な機関が入ったビルが多い。
しかし、ブロツワフの父さんに見せてもらった写真では、この場所はかつて瓦礫の山だったんだ。ユダヤ人地区なんて、完璧に更地になっていた。すべてがその後に再建されたものなんだよな。
曇天の秋空、物悲しげな石像の顔。
お昼ご飯はケバブ屋さん。
今までは、ケバブ屋ってのはテーブルが2つくらい適当に置いてあるような小さなお店だったんだけど、ポーランドではケバブが完全に市民権を得ており、専門の大きなレストランや、ポップでオシャレな店舗がある。
今日食べたのはこのチキンケバブのプレート。15ズウォティ。3.6ユーロってとこか。
ドイツとかの半額だな。
ポーランドの1食はだいたい10~15ズウォティってのが相場だな。
日本では1食が500円くらいなので、10ズウォティが500円って感覚か。
しかしポーランドの平均給料は2500ズウォティ。1食が250分の1。日本の平均給料は25万円くらいなので500分の1だ。
そう考えるとこんなファストフードでも、外食はリッチな人のものなんだな。
そんなメインストリートの一角で歌った。
向こうのほうでホームレスのおっさんたちがギターを弾いて歌ってるが、相手じゃない。
いい調子!
なのだが、3曲目で苦情が来てしまった。
赤ちゃん寝てるからやめてくれって。
3曲で12ズウォティ。
いい感じだったのになぁ。
暗い雰囲気は天気と季節だけではなく、人々の表情もだ。
みなどこか気むずかしい沈んだ表情をしているように感じる。
きっとそんなことないんだろうけど、歴史の影が街を暗いムードでおおっていることは強く感じる。
人々が行き交う地面に座りこんでネットにつないでいると、フレンドリーな兄ちゃんが話しかけてきた。
ビジネスマン風のコートを着こんだ紳士な男。
コニチハ、と慣れた日本語で挨拶してきた。
あー、きっと仕事関係で日本の人と一緒になることがあるような人なんだろうな。
何してるとこなの?と聞くと、服を選びに行ってたのさと言う。
「今は秋だろ?だから赤や黄色の服を見に行ってたんだ。冬になったら白を着るのさ。オシャレは男の大事な仕事だぜ。」
なんてカッコいいこと言うジェイコブ。仲良くなりビールを買いに行き、それから2人で俺の寝床へ移動。
「オー!めちゃナイスな場所見つけたね!!」
廃墟の暗い玄関に座りこんでポーランドのビールで乾杯。
「俺はプレイボーイなんだ。すべての女が大好きなのさ!」
と言うジェイコブ。
紳士な男だと思ってたけど、これがなかなかのスケベ野郎。
「俺は今夜クラブにある女の子を探しに行くんだ。彼女は素晴らしい。アー!!一晩中ヤリまくりたいんだ!!ロックンロール!!」
なにが、ヤリまくりたいんだロックンロール!!だ(^-^)/
ジェイコブ
「チョメチョメに誘うには何て言えばいいの?」
文武
「チョメしよう。」
ジェイコブ
「チョメシヨウ。」
文武
「パーフェクト!」
ジェイコブ
「OK!!じゅあ日本の女の子に会ったらこう言えばいいね。アナタハカワイイ、チョメシヨウ。ヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」
最近、ルーカスやチェコのダニエルといった聖人みたいな男たちとばかり一緒にいたので、この下品な男が新鮮でたまらない。
クリスチャンは結婚前にチョメチョメをしてはいけない、って教えがある。しかし当たり前だけどクリスチャンにもこういう男がいるんだよな。
勢いついてしまい、再び街に戻り、飯を食べに。
ここのピザが美味いんだ!!って言うジェイコブとレストランへ。
高そうなお店。
メニューを見ると………
げ、結構高い。ピザが25ズウォティ。ビールが1杯10ズウォティ。
しかし酔っ払ってるのでお構いなしに注文。いい服着てるくせに俺金持ってないんだというジェイコブに仕方なくビールをおごる。
おごれるほど金持ってないけど、ここで出さなきゃ男がすたる。ミュンヘンで出会った植松さんやナガサワさんを見習わないと。
「Yeah!!She say to me!! Fuck me~ suck me~ bite me~ more!!more!! I have to do 10times!!! ahahahahaー!!」
そう言いながらテーブルをガタガタ揺らして、息を荒立ててる。
こいつほんとバカだな(^-^)/
愛すべき変態野郎。
店を出て一緒にパイプをふかす。
まだ俺に着いていきたいっていうけど、俺も寝たいので、女の子探しにいかないと他の男に取られるぜと言うと、Yes!! I’m playboy!!と元気に去っていった。
はぁ、気持ちよく酔っ払ったな。
たかられたんだろうけど、楽しければ問題なしだ。ジェイコブのおかげでさっきまでの暗い気分が全部吹きとんだ。
しかし寒いな。
手足の感覚がなくなる。
酔っ払って寒いとこで寝て死ぬなんてロックンロールな死に方したくないぞ。
でも気分はロックンロール!!
ありがとう、ジェイコブ!!
ファックできるといいね!!