10月16日 火曜日
「ヘイ、ヘイ…………ヘイ!!」
叩き起こされるとお巡りさんが立っていた。
まだ真っ暗なプラハ。
泥酔してほとんど記憶がないけど、公園にたどり着いてちゃんとマットを敷いて寝袋で寝ていたようだ。
こんなとこで寝ちゃいけないよ、とお巡りさん。
それは街の美観のためもあるだろうけど、何より俺の安全のために言ってくれてるんだろうなと思った。
あー、気持ち悪い………
今日もボーッと立ちつくす。
時間は6時30分。
ここはかなり街の中の公園みたいで、すでにたくさんの路面電車が慌ただしく走り回っている。
ん?なんだこれ?
ポケットの中に「貼るホッカイロ」が5枚入っている。
久しぶりに見る日本語。
一切記憶にないんですけど(´Д` )
ん?あ、ん?あれ?
これなんだ?
そういえば首があったかいなと思ったら、いつの間にかネックウォーマーをしている。
わからんけどチョーあったかい(^-^)/(^-^)/
たぶんゆうべチェックがやってきて俺にくれたんだろうな。
ごめん、チェック、記憶なくて。
これで寒い夜も乗り切れるよ。
香港で会おう!!
明けていく空。コートを着た人たちが忙しそうに歩いていく。新聞紙を片手に、パンをかじりながら、バス停ではコーヒーをすする女の人。
もうかなり寒い。最低気温が3℃って言ってたもんな。完全に宮崎の冬の温度だ。
ゆっくりコーヒーが飲みたくて、カフェへ。二日酔いで寝ぼけた頭。カフェラテが優しい。
色んな人がやってきては去っていく。
プラハの朝もやとカフェラテ
新聞紙とフリーWi-Fi
静寂と喧騒
執心と放心
よし、今日は歌うぞ。
ウェンセスラス広場のほうに行ってみる。
たくさんの屋台が並んで、ジャズバンドが演奏している。
ここから真っ直ぐ路地を進めば観光地である旧市街へ、右に曲がれば地元の人たちの近代的なショッピングストリート。
どっちにしようか迷ったけど、旧市街へ向かう路地のほうがはるかに人通りが多いので、こちらに決めた。
溢れかえる観光客。
傘や旗を持ったガイドさんに先導されたツアー客がひっきりなしに往来している。
いったれ!!!
ギターを鳴らして歌いはじめると、最初は、なんだ?とチラ見してただけの人たちも次第に足を止めてくれ、なかなかの人だかりになる。
チャールズ橋の上のブルーストリオには到底かなわないが、さっきのジャズバンドやその他もろもろのプレイヤーよりは人だかりを作れた。
お金もドンドン入り、わずか30分で200クラウンほどが足元にたまった。
おいおい、これ最高記録いっちゃうんやないの!?
どんなもんだい!!
俺はただの浮浪者じゃないぞ!!
「Please stop. This street no music.」
「ごめんなさい。」
終了。
地元のおばちゃんに止められる。
なんだよプラハーー!!
寝場所にしても路上にしても、「You can’t」「You can’t」 ってよー!!
もっとプラハと仲良くしたいのに。
もういいや。
好きな街だけど、どうにも腰を据えられない。
次にコマを進めよう。
セントラルステーションで、次の国、ポーランドへの移動費を調べる。最初は国境を越えたブロツワフの街に行こう。
「750クラウンだよ。」
たっけ!!!
なんでそんな高いんだ?!
そうか、電車だからか。バスならもっと安いはず。
バスターミナルはどこかたずねると、地下鉄でひとつ先の駅にあるという。
地下鉄に揺られバスターミナルへ。
切符売り場に並んでブロツワフ行きをたずねると、あっちのビルに行ってくれ。
さらに、あっちのインフォメーションへ行きな、6番窓口で、隣のビルのインフォメーションへ行け………
たらい回しにされて、ようやくたどり着いた結果は………
ユーロツアーって民間会社のバス。しかしネット予約のみ。
なんだそれ!!!
バスの時間まで待って運転手に交渉したら運が良ければ乗せてもらえるかも、だってさ。
よーしよし、こうなったら意地でもバスで行ってやろうじゃねぇか。
待合所にWi-Fiが飛んでいたので、バスを待ってる間、ポーランドについて調べてみた。
★人口4千万人。
★ポーランド語。
★通貨は1ズウォティ
★レートが1ユーロ=4.1ズウォティ
★かつてはヨーロッパの大部分を支配した大国だった。
★冷戦時代は閉ざされた国だったけど今は完璧に開かれている。
★親日。
★治安最高。
★世界遺産13ヶ所。
★アウシュビッツ強制収容所がある。
★ショパンの生まれた国。
とりあえずこんなもんか。
だいたいのルートは決まった。
古い街並みやお城なんかの世界遺産がほとんどだけど、そのへんはもう吐くほどお腹いっぱいなので、もっと違う趣向の場所を見たい。
アウシュビッツってどこなんだろなぁ、と思いながら旅してたけど、ポーランドにあったんだな。
必ず行くぞ。
ちなみにチェコは人口1千万の工業国。
通貨はチェコクラウンで、レートが1ユーロ=24クラウン。
だいたい一食が70クラウンてとこ。
Wi-Fi事情は良好、治安も良好、人は若干シャイ。
世界遺産は8ヶ所やったかな。わからんけどそんなもん。
さて、日も暮れて外は真っ暗。
国際バスが出るこのターミナルには安そうなバッグを持ったアラブ系の人種が多い。北欧にたくさんいたジープスと同じ顔つきの人たち。
もうすぐ彼らの領域に入っていく。
ロマという言葉がある。
これは差別用語だ。
路上生活者、放浪者をさす言葉で、ヨーロッパではかなり根強い差別意識があるようだ。ジプシー、ジープスともいう。
結婚や就職の際には戸籍が調べられ大きなハンディとなっているそうだ。
日本の部落差別と同じ。
このロマ。なんかに似てるなと思ったら、そうだ、ルーマニアだ。
外国人はルーマニアのことをロマニーと呼ぶ。
実際調べてみたら、ロマの人口はルーマニアがだんとつ1番多い。
密接な関係があることに違いはない。
これはすごい事実だな。
ルーマニアという国自体が差別の対象になってるようだ。
北欧で彼らの横柄さは嫌という程味わってる。その本拠地になんてとても怖くて行けないよ。
実際ちょっと前に日本人殺されてるし。
しかし彼らを見ていると、差別というものは差別する側の一方的な感情ではなく、被差別者が生み出すものでもあるような気がする。
しかし………根深く、罪深い問題だな。
さて、ポーランドに行く前にやっとくこと。
まずは小銭の紙幣への換金。
そしてチェコに入国した時の失敗を活かし、食料を買いこむ。
ポーランドに入ったら、すぐ路上をして金を稼いでそれでやっていくつもりだ。
準備はすべて整った。
ようやく20時30分になり、バスがやってきた。
たくさんの人が乗り込んでいく。
よし!!今までの経験を活かし、フレンドリー笑顔全開で、そして、ちょっと困ってます風な雰囲気を醸し出しつつ、バスの運転手さんに声をかける!!
「No.」
5時間の苦労が5秒で終了。
(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )
はぁ………おとなしく750クラウン払ってれば今頃とっくにブロツワフに着いてたな。
もう1泊どっかで野宿か………
あたりを歩き回って、寂れた公園の中へ。落書きだらけの建物が木々の間に見える。
古めかしい鉄橋があり、そのアーチの下に寝床を決めた。
向こうのほうで他のロマが眠っている。
暗闇の中、ビールを飲みながら日記を書いていたら、犬の散歩をしてる婆さんが通りかかった。
俺を見つけて近づいてきた。
グイと顔を近づけ、何か言い出した。
チェコ語でまくしたててくる。
まったくわからないので英語でお願いしますと言っても、向こうもイングリッシュ、さえわからない。
ホニャララ!!
ホニャーラーラ!!
と大声で同じことを言ってくる。
婆さん、いくら丁寧にゆっくり言ってくれてもわからないんだよ。
暗闇が婆さんの窪んだ眼窩をさらに深く見せている。
古い能面のような醜悪さ。
それはなんだ?とビールを指差した。ビールだと答えると、俺の手から瓶を取り、豪快にあおった。
大きな犬が、寝袋に入った俺の足の上で寝ている。
外灯が影を作る。暗い恐怖。
チェコ語が猜疑心をあおる。
悪い夢の中みたいだった。