10月11日 木曜日
朝、ダニエルの部屋に降りると、クセニアが花のレリーフを作っていた。
女の子らしく、植木からお花をちぎってフンフンと鼻歌まじりに。
もちろんこれはクリシュナにお供えするお花だ。
朝の礼拝を終えると、ダニエルが言った。
僕も一緒にチェスキークルムロフに行っていいかい?
今日から次の町、チェスキークルムロフに移動するつもりだったんだけど、ダニエルもちょいと遠征しようかなと言う。
もちろんOKさ!
2人で荒稼ぎしようぜ!!
ここから30kmくらい南に下ったところにある世界遺産の町、チェスキークルムロフ。
それはそれは美しい町だという。
白装束をまとったダニエルとギターを持ったアジア人。
このかなり異様な2人組でバスに乗りこむと、他の乗客たちが二度見で振り返る。
異様なコンビの純粋すぎる旅。
ちなみにバスは駅前のマーキュリーっていうショッピングモールの屋上のターミナルから出ている。
値段は40クラウン。
1.8ユーロくらいか。
激安(^-^)/
緑豊かな草原の中を走って行くバス。
このチェコの東部地域をボヘミア地方という。
ボヘミア、って言葉に、どこか朧げなノスタルジーをはらんだ憧憬をイメージしてしまうのは俺だけかな。
美しく、悲しげな、ピエロの踊る背景のような景色の中を走っていく。
わずか20分くらいでバスの外にささやかな町が見えてきた。
坂道を登っていくと、木々の間からすごい景色が飛び込んできた。
周りを山に囲まれた川沿いに、赤い屋根の家々が密集し、その中心に大きな教会が立ち、さらに町を見下ろす高台にひときわ大きなお城と塔がそそり立っている。
なんだこれはーーーーー
!!!!!!
興奮を抑えることができない!!!
美しすぎるぞ!!!!!
ターミナルでバスを降り、ドキドキしながら歩いていくと、もうとんでもない光景の連続。
お城のような石畳の道、宙に架かるレンガの橋、煙をのぼらせる煙突、そしておだやかな川面には紅葉がうつりこんでいる。
興奮しすぎて写真撮りまくっている俗な俺を、天使のような姿のダニエルがそっと見守っている。
なんか悪いことしてるみたい(´Д` )
そんなダニエル。今日はクリシュナの特別な日らしく、丸1日ご飯も水も飲んだらいけない断食の日なのだ。
僕たちの胃はいつも絶えず働いてるだろ?休ませてあげて体をキレイに戻すんだよ、と爽やかに言う天使のような男。
ごめん、俺は食べるけどね!!
さらに中心に向かっていくと、大きな中央広場に出る。さすがにこれだけ美しい世界遺産の町だ。観光客の数も半端じゃない。
しかもマジでアジア人ばっかり。
広場からから脇道に入り、坂を降りていくと…………
勘弁して(´Д` )
両側の建物が迫る狭い空にお城の塔がそそり立っている。
夢で見る、大げさなおとぎ話の風景がそのままここにある。
なんだ?ここ。
こんなとこがあっていいのか?
この塔を見上げる小さな橋が1番人通りのある場所らしく、ダニエルはここで募金活動をするという。
それじゃ健闘を祈る!!
と俺も場所探し。
なのだが、どこもかしこも美しすぎて足が止まらない。
入り込んだ細い路地や、静かな林、その間に見え隠れする赤い屋根の家々。
そして道端にはところどころにキリストやマリア様の古びた石像。
雰囲気としては日本の温泉地のような、山の中の静かな川のせせらぎが聞こえる町といった風情。
ただ建物が完璧にヨーロッパの中世そのまま。
ボヘミア、という言葉はまさにこの町のためにあるんじゃないだろうか。
しばらく歩き回っていたが観光客やってる場合じゃない。
ご飯を食べるとこを探すが、ここはすべてが観光客のための町。
ファストフード屋さんなんてなく、カフェもレストランもかなり高めの値段設定。
そんな中で比較的安い中華料理店を発見。
69クラウンでお腹いっぱい食べられる。
さぁ、ダニエルに負けてられないぞ。
俺も橋を渡った土産物ストリートの一角で路上開始。
こういう観光地ってなかなかお金入らなかったりするんだよなー。
って、すごい人だかり出来るんですけど。
細い土産物ストリートが俺の前で混雑を起こしている。
チェコクラウンが足元にどんどんたまっていく。
路上だけではなく、周りの建物の窓からも20クラウンコインが降ってくる。
しかもここは一大観光地。周りのオーストリアやポーランド、ロシアからも観光客が来ているので様々なお金がギターケースの中に入り乱れている。
うおー!!この町最高!!!
そして日本人多すぎ!!!
中国人多すぎ!!!
ドイツのノイシュバンシュタインも多かったけど、比じゃないくらいの数。
今までの観光地で1番アジア人が多い。
アジア人ツアーの団体が次から次へとぞろぞろ歩いていく。
まぁみんないつものようにシャイなので、こっちから声かけてみた。
「日本人ですか?」
「あー、はいー、頑張ってくださいー………」
と言いながら通り過ぎて行く。
なんでそんなそっけないの?(´Д` )
しかし、何組かに声をかけていたら、おじさんおばさんのグループが立ち止まってくれた。
一度立ち止まったら集団心理でどんどん集まってきて、そこだけ数十人の日本人の人だかりが出来上がった。
旅行会社が全部手配してくれて、飛行機乗ってチャーターのバス乗ってガイドさんに日本語のガイドしてもらって町の写真撮ってホテルで宴会して土産物いっぱい買って帰るんだろうな。
日本を旅行してるのと同じような気楽さなんだろうな。
そんな方たちが世頑張ってね!!とチェコクラウンやユーロをガンガンぶち込んでくれる!!
日本人ってやっぱりリッチ!!!
日本出身で結婚して台湾に住んでるおばさんたちも立ち止まってくれた。
台湾人の友達と観光に来ており、プラハを回ってから台湾に帰るそうだ。
台湾来たら連絡しなさい!!
と1年後の約束をかわした。
台湾の人と喋ったの初めてだけど、印象がすごくよくなったな。
みんなすごく優しい方たちだった。
今日はさらにすごい事態が!!
ずっと立ち止まって歌を聴いてくれていた女の人が話しかけて来たんだけど、どうやら彼女、ホステルを経営してる人らしく、今夜空いてるベッドがあるから泊まりに来なさいと言ってくれた。
タ・ダ・で!!
うおー!!
さらにさらに!!!
今度は韓国人のおじさんがやってきた。
君の歌は素晴らしい。向こうで日本料理店をやってるから夕ご飯食べにきなさい。
タ・ダ・で!!!
なんなんだこれーーーー!!!!
もうウッキウキで歌っていたら、橋の上で募金活動のお菓子配りをしていたダニエルがこっちにやってきた。
暖かな日差しの中、満面の笑顔のダニエル。
彼は持っていたお菓子を入れているカゴをひっくり返した。
空っぽ!!!
いつもは半分くらい配れれば上出来って言ってたのに!!!
「今日は最高だよ!クリシュナのお恵みだ!ハレ!クリシュナ!そしてFumi、あなたがクルムロフに行くというから僕も来たんだ。あなたと会わなければこんな素晴らしい1日をおくれなかった。すべてクリシュナの巡り合わせだよ!!ハレ!クリシュナ!!」
素晴らしい天気のもと、2人の遠征は大成功。
アジア人シンガーとクリシュナのモンクがベンチに並んで座っているところを、通り過ぎる観光客たちが必死に写真撮りまくっている。
ダニエルの活動はなかなか厳しいもの。
たいがいの人は頭のオカシイやばい宗教の信者くらいにしか彼のことを見ない。
みんな冷たくあしらう。
人によっては紳士的に話しかけるダニエルから走って逃げることもあるという。
それが今日は、みんなとても優しく興味を持って彼の話を聞き、快く寄付金を渡してくれたそうだ。
日本人もたくさん足を止めてくれたそう。
俺は今夜ホステルをゲットしたんだ!!と言うと、グレイト!!と喜んでくれるダニエル。
気持ちのいい秋晴れの日差しがダニエルの白装束を天使のように見せている。
バスの時間があるので、明日も来るよ、と再会の約束をして彼は空っぽのカゴを下げて帰っていった。
俺も荷物を片付けてホステルへ向かった。
こうして通りを歩くと、ほんとに土産物屋さんだらけ。
そしてホテル、ホステル、ペンションの数の多いこと。
家を改装したようなペンションが乱立している。
そんな中の一軒、手作り感満載のホステル、「スキッピー」にやってきた。
恐る恐る中に入る。
旅に出て3ヶ月。
初めてのホステル。
20歳のころに沖縄で行った以来だ。
声をかけてくれた女の人、マリアが笑顔で迎えてくれた。
よく来てくれたね!!この町にはたくさんのミュージシャンがやってきてパフォーマンスをするんだけど、今まで見た中であなたがベストよ!!
と褒めちぎってくれるマリア。
あなたのベッドはここよ、と開けてくれた部屋の中を見ると、ベッドが5つ並んでいる。
そ、そうですよね。個室じゃないよね。ホステルだもんね。
トイレ、シャワールーム、食器やコンロを自由に使っていいキッチン、無料のコーヒー・紅茶。
決してキレイとは言えないが、貧乏旅人が喜びそうな古民家を改装した手作りのホステル。
この雑ともいえるラフさ。
沖縄を思い出すな。
テラスに出ると、目の前に川が流れていた。
向こう岸には煙突から煙をのぼらせる家並。
観光地とは言っても、当たり前に人々の暮らしはある。
ソファーに座り、柔らかいせせらぎを聞きながら、ボヘミアの夕暮れをながめる。
こいつはいい。
ちなみにスキッピーは1泊210クラウン。
たった9ユーロ!!
ヨーロッパの先進国のホステルはだいたい25ユーロってのが相場だ。やっぱりチェコは物価が安い!!
荷物を置かせてもらって町に戻る。
夕陽が町をおだやかに染めている。
あー、時間帯でこんなに表情が変わるんだな。
土産物ストリートはまだまだたくさんの観光客で溢れている。頭上にそびえるお城。
路地を入ったところにあるキムさんの日本料理店にやってきた。
高級感漂う雰囲気。
おー!よく来たね!!と席に案内してくれるキムさん。
韓国人のキムさんは、クラシック音楽をやっており、チェロの奏者。
「僕の周りにはたくさんの音楽家がいるが、今日はホントにいい音楽を聴かせてもらった。なんでも食べてくれ。」
やったぜ!!
メニューを見る。
激高い!
全部200クラウンとか250クラウンとか。
この国で10ユーロの晩飯っていったら恐ろしい値段だぞ?
完全に観光地価格だな。
ビールとラーメンをご馳走になった。
オフィスに行こうと言うキムさんの後についてお店の上のフロアーに上がると、そこには若い韓国人の男女が談話していた。
フレンドリーな彼ら。英語は日本人と同じレベル。
アイドルやお笑い芸人の話題で盛り上がれるいまどきの若者。
文武
「私たちの国は政治的な問題を抱えているので、こんなに優しくしてもらうととても嬉しいよ。」
韓国人
「あれは政府同志の問題であって僕たち一般人にはなんの関係もないことだよ。」
韓国人
「日本と韓国はとても近くて文化も似てて、兄弟のような国なんだから仲良くしないとね。」
なんていいコト言うんだ、みんな。
日本人に彼らと同じコトが言えるか?
いまだにまだどこか見下してるところがあるんじゃないか?
お昼に立ち止まってくれた台湾人のおばさんたちもみんな優しかった。
今日はいろんなことがあったけど、アジア人の印象をすごく高めることが出来た1日だったな。
ここ、チェコだけどね(^-^)/
お店を出ると、町は夕闇に包まれていた。
路地を照らす街灯。魔法使いが松明でも持って歩いてそうな雰囲気。
もしかして、と思ったけど、やっぱり。
お城の塔がライトアップされて闇夜に浮かび上がっている。
この町は全ての時間帯でまったく違う表情を見せてくれる。
なんて美しい町だ。
ゴメン、オーストリア。
ここ世界で1番美しい町だよ(´Д` )
今日のあがり、
1044チェコクラウン
36ユーロ